上 下
133 / 248
戦いに向けて

第130話 隣に君がいる安心感

しおりを挟む
________

 ランパルの街を抜け、馬車はロワイズに向けて走り出した。数時間の移動になるが、光太朗には刺激的な事ばかりだ。

 馬車の中にいるのが退屈で、街を出てからずっと光太朗はランブルシートに立っている。
 冷たい空気が頬を撫でるが、目の前の光景が楽しくて気にならない。

 ぼやけた視界に何かが映り、それが形を成していく。その過程を楽しめるのも、隣にリーリュイがいるからだろう。

 馬車の中にいるべき2人が、ランブルシートに立つ。馬車で来た意味が無いと嘆くリーリュイも、どこか楽しそうだ。

「暫くしたら、中へ戻ろう。この辺りは治安も良いが、ロワイズ周辺は気が抜けない」
「分かった。あ、リュウ! あれは?」

 遠くの草原を、見慣れない人々が集団で移動している。身に着けている物も布を巻きつけただけのラフなもので、街の人とはどこか違った。

「……あれは、スタッパだな。流浪の民で、集団で街から街へ移動する。温和で、あちらから攻撃してくる事はない」
「へぇ。小さな子供もいるな、可愛い」
「……光太朗は、子供が好きか?」
「好きだよ。この世界では、思う存分子供を愛でる事ができるから……嬉しいんだ」

 目を凝らして見ると、子供らは大人に囲まれて笑っている。寒さに頬が赤くなってはいるが、幸せそうだ。
 光太朗が前世で関わった子供たちは、こんなに朗らかに笑ってはいなかった。毎日に必死で、仲間にさえ気を抜けない生活を強いられていたからだ。
 
「……俺より後に組織へ入ってきた子がさ、どんどん死んでいくんだ。まるで最初から居なかったように、ある日突然いなくなる。……情を抱いちゃうと自分が壊れていくから、関わりを避けてたんだ。だから今は、子供を素直に可愛いと思えることが、すごく嬉しい……」
「……」
「あ、やっちまった。楽しい旅なんだ、暗い話は止めよう! ……中入ろうか、リュウ」


 ロブとカーターが馬を停め、光太朗とリーリュイは馬車へと乗り込んだ。中は暖かく、光太朗はほっと息を吐く。

「あと2時間程で着く。寝てても良いぞ、光太朗」
「う~ん、何か勿体ない気がするなぁ」
「着いたら大忙しだぞ。寝ておきなさい」
「はい、団長殿」

 リーリュイが自分の隣をぽんぽんと叩くと、光太朗は素直にそこへ座った。足と腕を組んで、頭はリーリュイの肩へと凭れさせる。
 髪を撫でられ穏やかな気分になると、睡魔が少しずつ擦り寄って来た。

(……昨日はあんまり眠れなかったから、リュウに甘えるかぁ……)

 リーリュイの肩に擦り寄ると、ますます髪を撫でる手つきが優しくなる。彼の匂いに包まれながら、光太朗は瞼を閉じた。



 リーリュイは、寝入ってしまった光太朗の肩を抱き寄せて、ブランケットで彼を包んだ。

 先ほどまで外にいたせいか、光太朗の頬は微かに色づいている。白い肌に差す桃色が儚げで、リーリュイの庇護欲をこれでもかと掻き立てた。
 丸ごと囲って、全て奪いたくなる。

 しかし事を急いでしまえば、光太朗がまた拒否反応を示すかもしれない。泊まりの旅にも反応しなかった彼は、きっと自覚が無いのだ。光太朗を傷つける事だけは避けたい。

(この旅で……自覚を芽生えさせる事が出来るか……? しかしそれ以上は、決して望むまい)

 光太朗の身体をゆっくり倒し、自身の膝の上へ彼の頭を載せる。そして髪を梳くと、そっと額に唇を落とした。


________

 ロワイズの入口には、広大な遺跡が建ち並ぶ観光名所がある。

 巨大な石造りの遺跡が、まるで集落のように建ち並んでいるのだ。その間を縫って、光太朗は感嘆の声を上げ続けた。

「うわぁあああ、外国みたいだ! 違う、ここは異世界だ!」
「……光太朗、落ち着いて。はぐれては危ない」

 建造物は朽ちているが、そこかしこから歴史が感じられる。しっかり管理されているのか、遺跡の説明が書かれた看板まで設置されていた。

 ザキュリオ国の発端はロワイズであるらしく、遺跡がたくさん残っているのだという。

 広大な遺跡の向こう側には、発展した街並みが見える。観光客やそれを相手にした商いで、街に入る前から賑やかだった。

「ランパルも大きい街だと思ってたけど、ロワイズは規模が違うな!」
「国一番の豊かな街だ。遺跡はほどほどにして街へ行かないと、日が暮れてしまうぞ」
「そっか、勿体ないなぁ」
「フェンデには、明日会いに行こう。今日は思いっきり羽を伸ばしてくれ」

 そう言うと、リーリュイが優しく微笑む。団長と皇子という肩書を脱ぎ去った、リーリュイの素の笑顔だ。
 本当にリーリュイと旅に来たのだと、光太朗は今更ながらに浮足立った。風に乗って漂ってきた香りにも、頬が緩んでいく。

「ここまで海の匂いがする! 港も見れるのか?」
「勿論だ」
「うわぉ、楽しみぃ」

 きょろきょろと周囲を見渡しながら、光太朗は足早に進んだ。ロブとカーターは離れた位置で、護衛をしてくれているのが分かる。

(俺らは大丈夫だから、ロブもカーターも満喫して欲しいなぁ……)

 そうは思うものの、まるで接触を避けているように彼らは近づいてこない。加えて彼らを気にしていると、リーリュイから『今はただ楽しみなさい』というご指示が入る。

 光太朗は頭をぽりぽり搔きながら、ちらりと右手に目を遣った。
 ロワイズに入ってからずっと、リーリュイは手を握っている。そして彼はさりげなく、光太朗が障害物を避けられるように誘導してくれるのだ。

 恥ずかしい想いもあるが、光太朗は素直に嬉しかった。初めての場所を警戒せずに楽しめるのも、リーリュイが手を繋いでいてくれるからだ。

 『そこは地面が凹んでいる』『岩が出ているから、こちらに』などと、リーリュイは頻繁に声を掛けてくれる。しかし困ったことに、彼は妙に耳元に近づいて話すのだ。

 その度にドキドキしている事は、リーリュイには内緒である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜 【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】 *真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息 「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」 婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。 (……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!) 悪役令息、ダリル・コッドは知っている。 この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。 ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。 最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。 そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。 そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。 (もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!) 学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。 そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……―― 元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

処理中です...