121 / 248
側にいるために
閑話 イーオの自白
しおりを挟むマオの嘘は直ぐに露呈した。
イーオとマオを引き離したところ、イーオはあっさりと事の顛末を話したのだ。
薬師室で光太朗への解毒薬を作りながら、イーオはぽつりぽつりと話していく。近くでは爺が目を光らせており、キースは出口を背もたれに立っている。
マオが光太朗に、武器の手入れを命じた事。イーオは、自発的に武器庫を訪れたことも、彼は自白した。
「マオは、俺がコウに惹かれている事に、気付いていたんです。……これはマオにとっては大きな裏切りです。蝋燭が催淫薬だと、マオは俺に教えてくれませんでした。言えば反対すると、マオは分かっていたんでしょう」
「これは? お前の字か?」
薬師室のドアに貼られていたという紙を、ウルフェイルがイーオに突きつける。イーオはそれを眺めた後、首を横に振った。
「似ていますが、俺が書いたものではありません」
「じゃあ、マオが書いたんだな?」
「俺とマオの字体は……似ているんです」
ウルフェイルは紙を放り、ソファへ座る。眉間を押さえながら息を吐く様は、怒りを抑えているかのように見えた。
ずっと黙っていたキースが、ブーツの踵を床に叩きつける。
「コウを殴ってたのは、お前かぁ?」
「……」
「は? 殴ってた?」
ウルフェイルが立ち上がり、イーオは肩を跳ねさせた。キースはイーオを見据えながら、言葉を続ける。
「コウが頬に、立派な痣作ってきたんですよぉ。マオが殴っても、せいぜい赤くなる程度だ。……お前だな? マオに指示されたか?」
「俺です。……指示されたとしても、罪は変わりません」
「……イーオ、お前訳わかんねぇよ。コウに惹かれてると言っておきながら、彼を殴っていたのか?」
イーオは手元を見つめて、顔をくしゃりと歪めた。
「俺は……マオが一番大事です。マオの言う事を聞いて、願いを叶えてやるのが、俺の使命だと……」
ウルフェイルが顔を憤怒に染め、調合台に拳を叩きつける。
「お前ふざけんな! だからって惚れた相手にも手を上げるのか? そんな事、言う資格もねぇだろ!」
「俺だっておかしいと思います!! ……でも、そんな俺を……コウは否定しないんです。いっそ、怯えて一線引いてくれたらいいのに、彼はずっと俺に笑顔を向けるんです! ……こんな俺を、彼は受け入れてくれた……。だから俺はこのままで良いって思えた!」
イーオの言葉は、身勝手で受け入れ難いものだった。しかし彼は両目から涙をぼろぼろと流し、まるで子供のように泣いている。
「でも、武器庫で泣いているコウを見て……気付いたんです。昔マオも、こうして泣いていたって。そんなマオを今のようにしてしまったのは、俺です……」
そこまで言うと、イーオは顔を上げた。そしてウルフェイルを見て、真っ直ぐに言い放つ。
「俺とマオを罰してください。罪は全て、俺が吐きます」
「……当たり前だ。後の事はリーリュイが決めるが、覚悟しておいた方が良い。……武器庫の件は、お前も巻き込まれた側だが……リーリュイがどう判断するかは、俺にも分からん」
「理解しています。殿下は俺とマオを、殺したいほど憎んでいるはず」
武器庫では、明らかな殺意を向けられた。あれほど激しい感情を見せるリーリュイを、イーオは初めて見た。マオもそうだろう。
「おい、ビッチ片割れ。話はええから、はよぉ調合せぇ」
爺が口を挟み、イーオは涙を拭った。作業を開始すると、爺がぽつりぽつりと呟く。
「坊は、わしの茶飲み友達なんだが……。お前のことは尊敬しちょったぞ。薬師の師匠じゃあ、言うてな」
「……っ!」
「自分のやったこと反省して、坊に返せ。ええな?」
「………はい、必ず……」
イーオはまた溢れてきた涙を拭って、作業に集中した。贖罪の言葉はもはや意味がない。 せめて光太朗が早く良くなるようにと、イーオは薬に想いを籠めた。
71
お気に入りに追加
2,970
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる