上 下
56 / 248
魔導騎士団の専属薬師

第54話 秘伝のスパイス

しおりを挟む

 包みの中は、たくさんのホットサンドだった。
 きつね色に焼き上げられたそれは、断面が見えるように切りそろえられている。野菜や肉が挟んであり、色鮮やかで美味しそうだ。

「すっげー! 美味そう!」
「兵舎の料理人に作らせた。本当は私が作りたかったのだが、早朝に厨房が使えなくてな」
「ありがとう、リュウ! 本当に俺、これ食べていいのか?」
「勿論だ。全部食べても構わない」
「あはは。全部食べたら、俺の腹がはち切れちまう」

 そう言いながら、光太朗は手を合わせた。隣にいるリーリュイに視線を投げると、彼も手を合わせる。

「いただきます」
「いただきます。召し上がれ」

 リーリュイの声を聞きながら、光太朗はホットサンドに手を伸ばした。
 口に入れると、じわりと肉汁が溢れてくる。咀嚼すると、野菜の歯ごたえも相まって最高に美味だった。

「……おいひぃ……うまぁ……」

 光太朗が夢中になって齧りついていると、リーリュイの眉根になぜか皺が寄る。

 もぐもぐと咀嚼しながら、光太朗は小首を傾げた。その仕草を見て、リーリュイも慌てたようにホットサンドを齧る。

「……君は、こんな味が好きなのか……」
「肉汁もいっぱい、味付けも濃い。中毒性がある味だぁ……好き。めっちゃ好き」
「……たまにはこういうのもいいだろうが……バランスに気をつけて、油と調味料の過剰摂取は良くない」
「うんうん。そうだよな。でもうまい」
「……」

 リーリュイの眉間の皺が、更に寄る。
 それを不思議に思いながら、光太朗はまたホットサンドに齧りついた。やっぱり美味い。

 キュウ屋近くの商店街は年齢層が高い。そのせいか、こういった若者向けのものが少ないのだ。
 魚屋の惣菜のような家庭的な味も良いが、たまにはガツンとした味付けの物も食べたい。

(美味いのは美味い。……でもやっぱり……)

 そう思いながら、光太朗はリーリュイを見た。
 眉間に皺が寄っていても、相変わらずの男前だ。光太朗はふすりと笑う。

「やっぱり……リュウと食べると、何でも一層美味しくなるな。あんたは秘伝のスパイスか」
「……ス、スパイス? まっ、また君は、そういった事を……」
「だってそうなんだよ。……お、ハウゼ達だ。来たなぁ」

 近くの茂みから、ひょっこりといくつもの毛玉が顔を出す。長い耳をピンと立てたハウゼ達は、光太朗を見ると一斉に走り寄ってきた。

 その姿を見た光太朗は、自身の鞄から小さな袋を取り出す。昨日のうちに用意していた彼らの食事だ。掌にそれを出すと、ハウゼたちが群がってきた。

「まだまだあるから、慌てるなよ」
「こ、光太朗……それは……?」
 
 リーリュイは、信じられないといった表情を浮かべて、光太朗の手を見ている。光太朗は「ああ、これ?」と言いながら、リーリュイに小袋を差し出した。

「木の実とか穀物とかを乾煎りしたものなんだけど、こいつらこれが好きでさ。いつもあげてたら、自然と集まってくるようになって……」

「き、君は……自分の食事は準備しないのに、ハウゼの食事は準備するのか?」

「……自分の飯作るのは面倒だろ。これは薬の調合のついでで作ったものだし、こんだけ喜んで食べてくれるとなぁ」

 頬をぱんぱんに膨らませながら、ハウゼ達は忙しなく口を動かす。
 見た目はウサギなのに、口元と小ささはリスにそっくりだ。寄り添い合って食べる姿はとても微笑ましい。


 光太朗が頬を緩ませていると、リーリュイが深いため息を吐く。光太朗が視線を向けると、リーリュイの真剣な眼差しとかち合った。

「……諸々は、さて置いて……」
「ああ、さて置くか」
「君に、聞きたいことがある」
「……いいよ。答えられる事なら」

 そう言いながら、光太朗は視線を下げた。ハウゼの顎を撫でると「ぷるる」と喉が鳴る。

 リーリュイから何を聞かれるのか予想していると、彼は深刻そうに口を開いた。

「光太朗。君の生活水準は、どう考えてもおかしい。最近は騎士たちの来店も増えただろう? それなのに君の生活は、どう見ても平均以下だ。稼いだ金はどう管理しているんだ?」

「なんだ、その話か。てっきり昔の事を聞かれるかと……」

「聞きたいことは山ほどあるが、まずは君の環境を整えるのが先だ。だからさて置いたと言ったろう?」

 リーリュイの真剣な目で射貫かれ、光太朗は少し仰け反った。どれをどれだけ話していいか慎重に考えて、光太朗は口を開く。
しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」  ワタクシ、フラれてしまいました。  でも、これで良かったのです。  どのみち、結婚は無理でしたもの。  だってー。  実はワタクシ…男なんだわ。  だからオレは逃げ出した。  貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。  なのにー。 「ずっと、君の事が好きだったんだ」  数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?  この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。  幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...