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魔導騎士団の専属薬師
第47話 怒涛の一日の終わりに
しおりを挟む光太朗の言葉に、リーリュイは寂しげな表情を浮かべる。その反応が思った通りのもので、光太朗の胸がつきりと痛む。
「光太朗、私は……」
「わかってる。リュウは対価なんて求めてないんだろ? だけど俺は、あんたと対等でいたいんだ。貰ってばかりなんてむずむずするし、こんなの戦友と言えない」
「……」
口を噤んでいたリーリュイが、握り込まれていた手をそっと解いた。そして今度は、光太朗の手を握りこむ。
その手が温かくて、光太朗はほっと息を吐いた。
「……では光太朗。私の専属薬師になってくれないか?」
「ん? 専属、薬師? なんだそれ」
「私の体調を管理する薬師の事だ。戦場に同行する可能性もあるから、屈強な者でないと務まらない。……勿論、出来る限りで構わない」
「……えっと、リュウ……言いにくいんだけどさ」
そう零しながら、光太朗は眉を顰めた。
光太朗が戦場にいた時から、3年が経っている。あの頃の自分と今の自分は、随分変わってしまった。
「俺、以前のようには戦えないぞ? ここ最近は、身体を動かす機会もあまりない。筋肉も落ちて、かっすかすだ。戦場に行っても、はっきり言ってお荷物になるだけだ」
「……それでも良い。戦友という存在は、精神面で支えになる。……光太朗、出来るだけ私の近くに居てくれ」
目の前のリーリュイは、まるで懇願するような表情を浮かべている。
価値のない自分が求められているのが理解できず、光太朗は眉根を寄せてリーリュイを見た。しかしリーリュイの顔は真剣で、冗談を言っているわけでもなさそうだ。
「……えっと……。それが本当にあんたの為になるなら、俺は喜んで近くにいるよ」
「!! そうか!」
「それじゃあ……身体の事で改善したいことってあるか? 明日店休日だから薬草を取りに行くんだが……リュウに必要な薬草も、その時調達しようかな」
「そうか。では、私も同行しよう」
そう言い放つリーリュイは、これ以上ないほど真面目な顔だ。握られたままの手を見つめて、光太朗はふすりと笑った。
「いいけど、騎士団の訓練はいいのか? あんたもそんなに暇じゃないだろ?」
「薬草は国境に取りに行くのだろう? 訓練の一環だ。問題ない」
「早朝しか咲かない薬草花もあるから、出発も早いぞ? 俺はいつも徒歩移動だから、陽が昇るずっと前に出発だ」
「問題ないが、こちらから馬を出そう。朝鐘が鳴る1時間前に、キュウ屋の前で待っている」
あっという間に細かな約束を取り付けて、リーリュイは満足げに眉を下げる。
一方的に色々と決まってしまったが、光太朗は不思議と嫌ではなかった。むしろ目の前のリーリュイが可愛いとも思える。
彼の浮かべる顔は、遠足に行く前の子どものようだ。
「じゃあ決まりだ。また明日だな、リュウ」
「ああ、光太朗。また明日」
光太朗がそう言うと、リーリュイが柔らかに笑う。その顔が優しすぎて、光太朗の心はじんわりと温かくなった。
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