35 / 248
薬屋キュウ屋
第33話 変わらない優しさ
しおりを挟む当時はまだ青さの残る青年だったが、今は立派な男性になっている。光太朗を抱きしめる身体も、以前より随分逞しくなった。背も伸びたのか、昔より顔が遠くに見える。
(こんなに立派になって……元気そうで、よかった……)
もしかしたら、3年前に会ったフェンデの事など、彼はとっくに忘れているのかもしれない。身分が高い騎士が最下層のフェンデを気遣うことなど、本来ならあるべきではない。
こうして再会して、元気そうな姿を見ることができた。それだけで光太朗は満足だった。
(多分……付けてきていたのも、俺がフラフラしてたから心配してくれただけなんだろうな。……店の前まで行ったら、お礼を言って離れよう。そんで、それきりだ)
心の中で折り合いを付けて、光太朗は目線を前に向けた。
キュウ屋のシルエットが少し見えてきたところで、小さな声が落ちてくる。
「____った」
「?」
光太朗が顔を上げると、彼も静かに顔を合わせてきた。
その顔に浮かぶのは笑顔で、しかもとびきり優しい。
「___君が生きていて……よかった」
彼は眉尻を下げて、唇に緩やかな弧を描かせた。
その微笑みがあまりにも優しいので、光太朗も微笑みを返した。しかし光太朗は、つい悪戯気に口を開く。
「俺、もしかしたら逃げたほうがいい? また牢屋に入れられる?」
光太朗がそう言うと、彼は一瞬で真顔になった。そして顔を横に振ると、光太朗をじっと見つめ直してくる。
その真剣な眼差しに、光太朗は焦った。
「うそうそ! 冗談だって! ……じゃあ、立ち話はなんだし、俺の家に寄っていく?」
いつの間にかそこまで来ていたキュウ屋に目線を向け、光太朗は微笑んだ。そして強張ってしまった彼の頬に、指を滑らせる。
「また会えて嬉しいよ。……戦友」
光太朗がそう言うと、彼は鼻梁に皺を寄せた。何かに耐えるような表情を見せた後、ふいと光太朗から顔を逸らす。
しかししっかりと頷いてくれた。
________
光太朗を左手で抱きながら、右手でキュウ屋の鍵を開ける男を、光太朗は驚愕の目で見つめた。
男性一人を片手で保持する筋力は、相当なものだろう。しかも彼の腕はプルプルと震えてもいなかった。
(身体の造りが違いすぎる。くそ! 悔しい!!)
光太朗が歯噛みしていると、彼は流れるような手つきで暖炉に火を付けた。彼の手から放たれた火の玉は見事に暖炉の中に落ちて、めらめらと燃え上がる。
戸惑うことなく暖炉に火を入れる彼を見て、光太朗は小首を傾げる。まるでこの店の間取りを把握しているかのような動作だった。
「……あんた……一度も来店してないよな?」
「……していない。建物の構造を見て、暖炉は入り口を入ってすぐ右だと判断していた」
「なるほど、煙突の位置か! さすがだなぁ」
「……何か拭くものはあるか?」
暖炉の前のソファに光太朗を座らせて、彼は周りを見渡す。光太朗が窓際のチェストに目を遣ると、返事も聞かないまま彼は立ち上がった。
濡れた外套をコートハンガーに掛けて、彼はチェストからタオルを取り出していく。暖炉のお陰で身体が暖かくなった光太朗は、改めて戦友の姿をまじまじと見た。
彼が着ているのは魔導騎士団の制服だ。魔導騎士団は騎士団の中で最上位なので、かなりの出世をしたという事になる。
「あんた魔導騎士団なのか? すっげぇ出世したなぁ。まあ、あんたの強さなら当たり前か」
嬉しそうに言う光太朗に、彼はタオルを手渡した。そして隣へと腰掛ける。
「……身体を拭きなさい。風邪を引く」
「俺はほとんど濡れてないよ。あんたの方が濡れてる」
「私は良い。慣れている」
彼はそう言うと、背もたれに掛けられていたブランケットを広げた。それで光太朗の身体を包むと、口を開く。
「……諸々のことは、さて置く」
「ああ、さて置くのね」
光太朗が笑いながら言うと、彼が視線を合わせた。そして息を吸うと、一気に捲し立てた。
105
お気に入りに追加
2,970
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる