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薬屋キュウ屋
第31話 1番に知りたかった
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ウルフェイルは、午前中の訓練を終えたリーリュイに駆け寄った。
一方のリーリュイは、ウルフェイルの姿を認めると、眉間に深い皺を寄せる。
「ウルフ! 副団長が訓練に参加しないとは何事だ!」
「ごめんごめん。ちょっとこっち来て」
憤りを露にするリーリュイの手を引き、ウルフェイルは訓練所裏の休憩所へと引き込んだ。そこで休憩していた騎士を手で追い払い、リーリュイをベンチへと座らせる。
リーリュイはウルフェイルの手を振り払うと、更に捲し立てた。
「いいか、魔導騎士団は国境を守る要の騎士団だ。副団長であるお前がしっかりしないと、騎士たちの士気が下がる。お前は見本となるような戦士でいてくれなければ困るのだ。大体、どこに行っ__」
「キュウ屋に行ってきた」
リーリュイの言葉を遮るように、ウルフェイルは言葉を放る。案の定固まるリーリュイを見て、ウルフェイルは思わず吹き出した。
ウルフェイルに笑われ、リーリュイは慌てたように視線を逸らす。
「な、なぜ薬屋などに……。医務室を使えばいいものを……」
「リーリュイ、彼……酷く顔色が悪かったぞ?」
「!!」
秒速で目線を戻したリーリュイに向けて、ウルフェイルは深刻そうな顔を浮かべた。
「あれは多分、栄養不足だろうな。まともに食事もとれていないんだろう……」
「……栄養、不足……?」
「フェンデだからな。何か特別な事情があるのかもしれん」
目が泳いでいるリーリュイを見て、ウルフェイルは更に表情を暗くする。頬が緩みそうになるのを堪えながら、ため息を吐いた。
「手がな、すごく冷たかった。冷たくて細すぎて、心配になったよ」
「……! お前! 触ったのか!!」
「そ、そこに反応するなよ! ただの握手だ、握手!」
噛みつかれるかと思うくらい迫ってきたリーリュイに向けて、ウルフェイルは即座に降参のポーズをとった。
そして感情が振り切れている幼馴染に向けて、言い聞かすように声を低くする。
「しかもだ。彼の左手首には、包帯が巻かれていた。握手をした時に顔を顰めたから、最近出来た傷に違いない」
「!? 昨晩、彼にそんな傷は無かったはずだ……」
「……リーリュイ。やっぱり昨夜は彼と会っていたんだな?」
目を見開いて固まるリーリュイを見て、ウルフェイルは遂に吹き出した。腹を抱えて笑い出したウルフェイルを、リーリュイは殺気の籠った目で睨みつける。
「ウルフ……!」
「怒るなよ、リーリュイ。……彼が体調悪そうだったのは事実だぞ?」
ウルフェイルがそう言うと、リーリュイは顔を青くする。その顔に浮かんだ動揺の色を見て、ウルフェイルは眉を下げた。
(こいつに、こんな顔をさせる人が現れるとはな……)
心の中でうんうんと頷きながら、ウルフェイルは口を開いた。
「リーリュイ。コウさんはきっと困ってる。お前が助けないと__」
「こう……?」
「うん?」
言葉を遮ってきたリーリュイを見ると、その顔は呆然としている。プラチナブロンドの睫毛の根元が見えるほど、その目は見開かれていた。
ウルフェイルは悪い予感を感じながら、恐る恐る口を開いた。
「う、うん……。彼の名前……えっ、もしかして……知らなかっ__」
ウルフェイルの言葉半ばに、リーリュイは勢いよく立ち上がった。真っ赤になった顔で、ウルフェイルをキッと睨み上げる。
「お前から聞きたくなかった!!」
そう吐き捨てて怒涛の如く去っていくリーリュイの背中を、ウルフェイルは呆然と見つめる。そして頭を抱え込んだ。
身体がぶるぶると震え、ウルフェイルは思わず叫び出しそうになるのを堪える。
(ああああ! めっちゃ楽しい!! あのお堅いリーリュイが! リーリュイが!!)
ベンチで独り悶えていると、周りにいた騎士たちが集まってきた。その中にいたロブが、恐る恐るウルフェイルに声を掛ける。
「あ、あの……副団長? 団長と何かあったんですか?」
「……あったも何も、俺はいま歓喜の最中にいる。……ランパルに来てよかったと、心の底から思っている」
「……?」
困惑する騎士たちを見渡し、ウルフェイルはにっかりと笑った。
「明日俺とキュウ屋に行くやつ、挙手!」
「はいっ!!」
ほぼ全員が手を挙げ、ウルフェイルはまた深い笑みを浮かべた。
ウルフェイルは、午前中の訓練を終えたリーリュイに駆け寄った。
一方のリーリュイは、ウルフェイルの姿を認めると、眉間に深い皺を寄せる。
「ウルフ! 副団長が訓練に参加しないとは何事だ!」
「ごめんごめん。ちょっとこっち来て」
憤りを露にするリーリュイの手を引き、ウルフェイルは訓練所裏の休憩所へと引き込んだ。そこで休憩していた騎士を手で追い払い、リーリュイをベンチへと座らせる。
リーリュイはウルフェイルの手を振り払うと、更に捲し立てた。
「いいか、魔導騎士団は国境を守る要の騎士団だ。副団長であるお前がしっかりしないと、騎士たちの士気が下がる。お前は見本となるような戦士でいてくれなければ困るのだ。大体、どこに行っ__」
「キュウ屋に行ってきた」
リーリュイの言葉を遮るように、ウルフェイルは言葉を放る。案の定固まるリーリュイを見て、ウルフェイルは思わず吹き出した。
ウルフェイルに笑われ、リーリュイは慌てたように視線を逸らす。
「な、なぜ薬屋などに……。医務室を使えばいいものを……」
「リーリュイ、彼……酷く顔色が悪かったぞ?」
「!!」
秒速で目線を戻したリーリュイに向けて、ウルフェイルは深刻そうな顔を浮かべた。
「あれは多分、栄養不足だろうな。まともに食事もとれていないんだろう……」
「……栄養、不足……?」
「フェンデだからな。何か特別な事情があるのかもしれん」
目が泳いでいるリーリュイを見て、ウルフェイルは更に表情を暗くする。頬が緩みそうになるのを堪えながら、ため息を吐いた。
「手がな、すごく冷たかった。冷たくて細すぎて、心配になったよ」
「……! お前! 触ったのか!!」
「そ、そこに反応するなよ! ただの握手だ、握手!」
噛みつかれるかと思うくらい迫ってきたリーリュイに向けて、ウルフェイルは即座に降参のポーズをとった。
そして感情が振り切れている幼馴染に向けて、言い聞かすように声を低くする。
「しかもだ。彼の左手首には、包帯が巻かれていた。握手をした時に顔を顰めたから、最近出来た傷に違いない」
「!? 昨晩、彼にそんな傷は無かったはずだ……」
「……リーリュイ。やっぱり昨夜は彼と会っていたんだな?」
目を見開いて固まるリーリュイを見て、ウルフェイルは遂に吹き出した。腹を抱えて笑い出したウルフェイルを、リーリュイは殺気の籠った目で睨みつける。
「ウルフ……!」
「怒るなよ、リーリュイ。……彼が体調悪そうだったのは事実だぞ?」
ウルフェイルがそう言うと、リーリュイは顔を青くする。その顔に浮かんだ動揺の色を見て、ウルフェイルは眉を下げた。
(こいつに、こんな顔をさせる人が現れるとはな……)
心の中でうんうんと頷きながら、ウルフェイルは口を開いた。
「リーリュイ。コウさんはきっと困ってる。お前が助けないと__」
「こう……?」
「うん?」
言葉を遮ってきたリーリュイを見ると、その顔は呆然としている。プラチナブロンドの睫毛の根元が見えるほど、その目は見開かれていた。
ウルフェイルは悪い予感を感じながら、恐る恐る口を開いた。
「う、うん……。彼の名前……えっ、もしかして……知らなかっ__」
ウルフェイルの言葉半ばに、リーリュイは勢いよく立ち上がった。真っ赤になった顔で、ウルフェイルをキッと睨み上げる。
「お前から聞きたくなかった!!」
そう吐き捨てて怒涛の如く去っていくリーリュイの背中を、ウルフェイルは呆然と見つめる。そして頭を抱え込んだ。
身体がぶるぶると震え、ウルフェイルは思わず叫び出しそうになるのを堪える。
(ああああ! めっちゃ楽しい!! あのお堅いリーリュイが! リーリュイが!!)
ベンチで独り悶えていると、周りにいた騎士たちが集まってきた。その中にいたロブが、恐る恐るウルフェイルに声を掛ける。
「あ、あの……副団長? 団長と何かあったんですか?」
「……あったも何も、俺はいま歓喜の最中にいる。……ランパルに来てよかったと、心の底から思っている」
「……?」
困惑する騎士たちを見渡し、ウルフェイルはにっかりと笑った。
「明日俺とキュウ屋に行くやつ、挙手!」
「はいっ!!」
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