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薬屋キュウ屋

第28話 幼馴染の変化

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 真新しい兵舎の廊下を、ウルフェイルはあくびをしながら歩く。

 窓からまだ明けきっていない空を見上げ、訓練場へと足を進めた。自主練をするつもりはない。人探しだ。

 昨夜、リーリュイが突然兵舎を訪れた。
 彼には一等地に私邸があり、そこに住み始めたはずだ。にも関わらず昨夜のリーリュイは、ウルフェイルの部屋に泊めろと言い出した。

 そして朝方、ウルフェイルが目覚めると彼の姿が無かったのだ。
 何故か菓子が詰まった鞄は置いたままだったので、行先は訓練場だとウルフェイルは予想している。

 ウルフェイルは寝ぐせだらけの頭をかき回すと、昨夜のやり取りを思い返した。


 部屋を訪れたリーリュイは、明らかに動揺していたのだ。ウルフェイルの部屋の前で、彼は早口で捲し立てた。

『今から帰ると、カザンが煩い。泊めてくれ』

 カザンはリーリュイが子供のころから仕えている執事だ。主に忠実な良い執事だが、度が過ぎるほどリーリュイを過保護に扱う。
 恐ろしい事に、未だに門限もある。リーリュイ自身も堅い性格のため、門限があることに抵抗はないようだ。

 一言発しただけで良しとしたのか、リーリュイは風呂へ向かった。その姿をウルフェイルは慌てて追う。

『でも屋敷には連絡しろよ? カザンさんが心配するだろ?』
『ウルフの部屋に泊まると言ってある。門限が過ぎる前に伝えた』

 そしてリーリュイは風呂の扉を閉ざした。そして驚くべき速さで出てくる。いつものことである。
 ウルフェイルはわくわくしながら、リーリュイを問いただした。

『こんな時間までお前が出歩くなんて……何があった?』
『問題ない。何もない。ウルフ、酒でも飲め』

 ウルフェイルの問いをかわし、リーリュイは酒の準備をする。これもいつものことだった。
 そしてウルフェイルは酒に酔い、寝てしまうのだ。リーリュイは酒が強く、未だ彼に勝った者はいない。


___

 思った通り、リーリュイは訓練場にいた。何かを振り払うかのように鍛錬するリーリュイを見て、ウルフェイルは男らしい眉を吊り上げた。

 リーリュイの緑の瞳が、今日も動揺に揺れている。

 鍛錬中に声を掛けられる事をリーリュイは嫌う。それは分かっていたが、ウルフェイルは思わず口を開いた。

「……リーリュイ、まじでどうした?」
「……」

 ウルフェイルの声は、確実に届いているはずだ。しかしリーリュイは鍛練を止めない。

「……リーリュイ。キュウ屋に行ったらしいな」
「!」

 驚いたようにぴたりと動きを止めたリーリュイは、慌ててまた剣を振り始めた。その様子を見て、ウルフェイルは口元が緩むのを止められない。


「リーリュイ、鍛練を止めろ。ちょっと話をしよう」
「……断る」
「……。止めるまで待つからな」

 ウルフェイルはそう言い放つと、訓練場の長椅子へと座った。新しく作られた兵舎にある訓練場は、まだ真新しい匂いがする。

 ウルフェイルに一瞥もくれないまま、リーリュイは剣を振り続ける。その背中には動揺が見て取れた。

(……珍しいな、あいつが感情を抑えられないでいる……)

 幼いころから感情表現が少ないリーリュイだが、3年前のある事件からは輪をかけて無表情になった。
 国政には興味が無かった彼が、急に勉強し始めたのもその頃からだ。

「キュウヤの店主が気になるのか? ロブ達に聞いたが、彼はフェンデらしいな」
「……」

 ウルフェイルの言葉に、またリーリュイは動きを止めた。しかし今度は訓練を再開することなく、剣を鞘へと納める。

 近くにあったタオルで顔を拭きながら、リーリュイは深く溜息をついた。

「……団員たちが、あれに気付き始めたのはいつからだ?」
「つい最近らしいぞ。ここの医者は爺で愛想も悪いからな。……フェンデの店主は美しい見た目らしいじゃないか」
「……!」

 タオルを顔から外したリーリュイが、ウルフェイルをキッと睨む。ウルフェイルはニヤニヤしながら手を降参の形にひらひらと振った。

「おいおい、俺が言ったわけじゃないぞ。殺気立つなよ……。それとも団員たちに、命令しておくか? あの薬屋には近付くな、って」
「……それは出来ない。プライベートな時間にどこへ行こうと、彼らの自由だ」

 そう呟きながらも、リーリュイは落ち着きが無い。ウルフェイルは脚を組み直して、口端を吊り上げる。

「……魔導騎士団の結成記念式典に、その店主を招待したらどうだ? お前のおかげでフェンデの地位は格段に上がった。フェンデを式典に呼ぶことで、意識の改革が早まるかもしれんぞ」
「……そんなことは……したくない」
「どうして? 良い機会じゃないか」

「……ウルフ。……風呂を貸せ。それが終わったら帰る」


(お? 話を絶ち切った。……いよいよ面白そうじゃないか)

 部屋に向かって歩き出すリーリュイの姿を見送って、ウルフェイルはゆっくり立ち上がった。

 午前の訓練は、リーリュイも参加すると聞いている。朝食後どこへ向かうか、ウルフェイルの心はもう決まっていた。
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