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はじまりの章

第14話 戦友

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「ゲイラスも、同じく裁判を受ける。公平な裁判だと、私は信じている。君は身体を治すのを最優先にするんだ」

「……いやいや、俺は間違いなく処刑だろ。上官を3人もボコボコにしたんだから」

「最後の戦場で、戦っていたのは君だけだ。そう証言した。だからきっと……」

 リーリュイの言葉に、光太朗は目を丸くした。
 あの戦場で一緒に戦ったのは事実だが、あれを見ていたものは誰もいない。自分の手柄にでもすれば良かったのだ。

 光太朗はまたもや吹き出し、肩を揺らしながら笑った。

「あっはは、あんた情が深すぎるだろ。そんなにお人好しじゃ、これからが心配だなぁ……。若くてすげぇ強いんだから、フェンデになんか関わって、出世の道を絶つようなことするなよ?」

「……君は……」

「ああ~、いてぇ。笑ったらどこもかしこも痛い……」

 笑う光太朗から、リーリュイは慌てて目を逸らした。逸らしても耳に入る笑い声が、妙に心をくすぐる。

(……君はいつも、自分のことは二の次なのだな……)

 凌辱されそうになった直後でさえ、光太朗は自分ではなくリーリュイを気遣った。身体は震えているのにも関わらず、口にするのはリーリュイの事だけだった。

 じわじわと湧き出す感情に、いつものように蓋をすることができない。


(……これはきっと、敬意だ)

 光太朗は素晴らしい戦士だ。騎士であるリーリュイが認めるほどに。

(あれ程の戦いぶりをする者は、騎士の中でも稀だろう。強い者への敬意を……騎士は忘れてはならない。一緒に戦場を共にした者なら尚更だ)

 すっと息を吸って、リーリュイは光太朗へと視線を戻した。彼が相変わらず笑っているのを見て、ぐっと息を詰める。


 穏やかな笑顔を浮かべた光太朗は、リーリュイに向けて口を開いた。

「なぁ、あんたさ。どうして俺に良くしてくれるんだ?」

「君は……戦友だ」

 リーリュイの言葉に、光太朗はきょとんと目を見開いた。


 光太朗は2年間、殆ど独りで戦ってきた。戦闘となると引っ込みがちな第10騎士団は、光太朗とにとって戦友とよぶには頼りない。

 リーリュイとの共闘は、光太朗にとって素晴らしい体験だった。あんなに戦いやすかった事など、前の世界を含めても一度もない。

 最後の最後で自分は友を得たらしい。『戦友』という言葉も、光太朗にとってこれ以上ないほどに嬉しいものだった。

「戦友か……。ありがとう、嬉しいよ」

「……君は……きっと助かる……。また一緒に、戦おう」



(判決が下ったら、迎えに行く……)

 その言葉を、リーリュイは押し殺した。自分のねじ曲がりそうな想いを、彼に知られたくなかったのだ。



 ________

 光太朗はリーリュイの言葉通り、ランパルという都市に移送された。着いて直ぐに地下牢に放り込まれた光太朗は、「やっぱりか」と嘆息する。


 裁判、という言葉をリーリュイ以外からは聞く事は無かった。おまけに窓もない真っ暗な牢に閉じ込められ、水すら与えられる気配はない。

 傷ついた身体を回復させる要素が、ここには一つもない。

「餓死って……苦しいよな……。衰弱死はどうだろう?」

 光太朗は冷たい床に横になり、目を瞑る。一瞬脳裏に甦ったリーリュイの姿に、ふすりと笑いが漏れた。
 情に厚くて真面目な彼が、気に病まないと良い。そう思うと、光太朗の胸に少しだけ寂しさが湧いた。

 (こんな地下牢、寝てても起きてても一緒だ。……くそ、次は……生き返らせてくれるなよ……)

 
 その日から、意識を浮き沈みさせながら光太朗は過ごした。確実に弱っていく身体は、飢えも渇きも感じない。それが唯一の望みだった。
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