15 / 248
はじまりの章
第14話 戦友
しおりを挟む
「ゲイラスも、同じく裁判を受ける。公平な裁判だと、私は信じている。君は身体を治すのを最優先にするんだ」
「……いやいや、俺は間違いなく処刑だろ。上官を3人もボコボコにしたんだから」
「最後の戦場で、戦っていたのは君だけだ。そう証言した。だからきっと……」
リーリュイの言葉に、光太朗は目を丸くした。
あの戦場で一緒に戦ったのは事実だが、あれを見ていたものは誰もいない。自分の手柄にでもすれば良かったのだ。
光太朗はまたもや吹き出し、肩を揺らしながら笑った。
「あっはは、あんた情が深すぎるだろ。そんなにお人好しじゃ、これからが心配だなぁ……。若くてすげぇ強いんだから、フェンデになんか関わって、出世の道を絶つようなことするなよ?」
「……君は……」
「ああ~、いてぇ。笑ったらどこもかしこも痛い……」
笑う光太朗から、リーリュイは慌てて目を逸らした。逸らしても耳に入る笑い声が、妙に心をくすぐる。
(……君はいつも、自分のことは二の次なのだな……)
凌辱されそうになった直後でさえ、光太朗は自分ではなくリーリュイを気遣った。身体は震えているのにも関わらず、口にするのはリーリュイの事だけだった。
じわじわと湧き出す感情に、いつものように蓋をすることができない。
(……これはきっと、敬意だ)
光太朗は素晴らしい戦士だ。騎士であるリーリュイが認めるほどに。
(あれ程の戦いぶりをする者は、騎士の中でも稀だろう。強い者への敬意を……騎士は忘れてはならない。一緒に戦場を共にした者なら尚更だ)
すっと息を吸って、リーリュイは光太朗へと視線を戻した。彼が相変わらず笑っているのを見て、ぐっと息を詰める。
穏やかな笑顔を浮かべた光太朗は、リーリュイに向けて口を開いた。
「なぁ、あんたさ。どうして俺に良くしてくれるんだ?」
「君は……戦友だ」
リーリュイの言葉に、光太朗はきょとんと目を見開いた。
光太朗は2年間、殆ど独りで戦ってきた。戦闘となると引っ込みがちな第10騎士団は、光太朗とにとって戦友とよぶには頼りない。
リーリュイとの共闘は、光太朗にとって素晴らしい体験だった。あんなに戦いやすかった事など、前の世界を含めても一度もない。
最後の最後で自分は友を得たらしい。『戦友』という言葉も、光太朗にとってこれ以上ないほどに嬉しいものだった。
「戦友か……。ありがとう、嬉しいよ」
「……君は……きっと助かる……。また一緒に、戦おう」
(判決が下ったら、迎えに行く……)
その言葉を、リーリュイは押し殺した。自分のねじ曲がりそうな想いを、彼に知られたくなかったのだ。
________
光太朗はリーリュイの言葉通り、ランパルという都市に移送された。着いて直ぐに地下牢に放り込まれた光太朗は、「やっぱりか」と嘆息する。
裁判、という言葉をリーリュイ以外からは聞く事は無かった。おまけに窓もない真っ暗な牢に閉じ込められ、水すら与えられる気配はない。
傷ついた身体を回復させる要素が、ここには一つもない。
「餓死って……苦しいよな……。衰弱死はどうだろう?」
光太朗は冷たい床に横になり、目を瞑る。一瞬脳裏に甦ったリーリュイの姿に、ふすりと笑いが漏れた。
情に厚くて真面目な彼が、気に病まないと良い。そう思うと、光太朗の胸に少しだけ寂しさが湧いた。
(こんな地下牢、寝てても起きてても一緒だ。……くそ、次は……生き返らせてくれるなよ……)
その日から、意識を浮き沈みさせながら光太朗は過ごした。確実に弱っていく身体は、飢えも渇きも感じない。それが唯一の望みだった。
「……いやいや、俺は間違いなく処刑だろ。上官を3人もボコボコにしたんだから」
「最後の戦場で、戦っていたのは君だけだ。そう証言した。だからきっと……」
リーリュイの言葉に、光太朗は目を丸くした。
あの戦場で一緒に戦ったのは事実だが、あれを見ていたものは誰もいない。自分の手柄にでもすれば良かったのだ。
光太朗はまたもや吹き出し、肩を揺らしながら笑った。
「あっはは、あんた情が深すぎるだろ。そんなにお人好しじゃ、これからが心配だなぁ……。若くてすげぇ強いんだから、フェンデになんか関わって、出世の道を絶つようなことするなよ?」
「……君は……」
「ああ~、いてぇ。笑ったらどこもかしこも痛い……」
笑う光太朗から、リーリュイは慌てて目を逸らした。逸らしても耳に入る笑い声が、妙に心をくすぐる。
(……君はいつも、自分のことは二の次なのだな……)
凌辱されそうになった直後でさえ、光太朗は自分ではなくリーリュイを気遣った。身体は震えているのにも関わらず、口にするのはリーリュイの事だけだった。
じわじわと湧き出す感情に、いつものように蓋をすることができない。
(……これはきっと、敬意だ)
光太朗は素晴らしい戦士だ。騎士であるリーリュイが認めるほどに。
(あれ程の戦いぶりをする者は、騎士の中でも稀だろう。強い者への敬意を……騎士は忘れてはならない。一緒に戦場を共にした者なら尚更だ)
すっと息を吸って、リーリュイは光太朗へと視線を戻した。彼が相変わらず笑っているのを見て、ぐっと息を詰める。
穏やかな笑顔を浮かべた光太朗は、リーリュイに向けて口を開いた。
「なぁ、あんたさ。どうして俺に良くしてくれるんだ?」
「君は……戦友だ」
リーリュイの言葉に、光太朗はきょとんと目を見開いた。
光太朗は2年間、殆ど独りで戦ってきた。戦闘となると引っ込みがちな第10騎士団は、光太朗とにとって戦友とよぶには頼りない。
リーリュイとの共闘は、光太朗にとって素晴らしい体験だった。あんなに戦いやすかった事など、前の世界を含めても一度もない。
最後の最後で自分は友を得たらしい。『戦友』という言葉も、光太朗にとってこれ以上ないほどに嬉しいものだった。
「戦友か……。ありがとう、嬉しいよ」
「……君は……きっと助かる……。また一緒に、戦おう」
(判決が下ったら、迎えに行く……)
その言葉を、リーリュイは押し殺した。自分のねじ曲がりそうな想いを、彼に知られたくなかったのだ。
________
光太朗はリーリュイの言葉通り、ランパルという都市に移送された。着いて直ぐに地下牢に放り込まれた光太朗は、「やっぱりか」と嘆息する。
裁判、という言葉をリーリュイ以外からは聞く事は無かった。おまけに窓もない真っ暗な牢に閉じ込められ、水すら与えられる気配はない。
傷ついた身体を回復させる要素が、ここには一つもない。
「餓死って……苦しいよな……。衰弱死はどうだろう?」
光太朗は冷たい床に横になり、目を瞑る。一瞬脳裏に甦ったリーリュイの姿に、ふすりと笑いが漏れた。
情に厚くて真面目な彼が、気に病まないと良い。そう思うと、光太朗の胸に少しだけ寂しさが湧いた。
(こんな地下牢、寝てても起きてても一緒だ。……くそ、次は……生き返らせてくれるなよ……)
その日から、意識を浮き沈みさせながら光太朗は過ごした。確実に弱っていく身体は、飢えも渇きも感じない。それが唯一の望みだった。
62
お気に入りに追加
2,837
あなたにおすすめの小説
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
だからっ俺は平穏に過ごしたい!!
しおぱんだ。
BL
たった一人神器、黙示録を扱える少年は仲間を庇い、絶命した。
そして目を覚ましたら、少年がいた時代から遥か先の時代のエリオット・オズヴェルグに転生していた!?
黒いボサボサの頭に、丸眼鏡という容姿。
お世辞でも顔が整っているとはいえなかったが、術が解けると本来は紅い髪に金色の瞳で整っている顔たちだった。
そんなエリオットはいじめを受け、精神的な理由で絶賛休学中。
学園生活は平穏に過ごしたいが、真正面から返り討ちにすると後々面倒事に巻き込まれる可能性がある。
それならと陰ながら返り討ちしつつ、唯一いじめから庇ってくれていたデュオのフレディと共に学園生活を平穏(?)に過ごしていた。
だが、そんな最中自身のことをゲームのヒロインだという季節外れの転校生アリスティアによって、平穏な学園生活は崩れ去っていく。
生徒会や風紀委員を巻き込むのはいいが、俺だけは巻き込まないでくれ!!
この物語は、平穏にのんびりマイペースに過ごしたいエリオットが、問題に巻き込まれながら、生徒会や風紀委員の者達と交流を深めていく微BLチックなお話
※のんびりマイペースに気が向いた時に投稿していきます。
昔から誤字脱字変換ミスが多い人なので、何かありましたらお伝えいただけれ幸いです。
pixivにもゆっくり投稿しております。
病気療養中で、具合悪いことが多いので度々放置しています。
楽しみにしてくださっている方ごめんなさい💦
R15は流血表現などの保険ですので、性的表現はほぼないです。
あったとしても軽いキスくらいですので、性的表現が苦手な人でも見れる話かと思います。
明日もいい日でありますように。~異世界で新しい家族ができました~
葉山 登木
BL
『明日もいい日でありますように。~異世界で新しい家族ができました~』
書籍化することが決定致しました!
アース・スター ルナ様より、今秋2024年10月1日(火)に発売予定です。
Webで更新している内容に手を加え、書き下ろしにユイトの母親視点のお話を収録しております。
これも、作品を応援してくれている皆様のおかげです。
更新頻度はまた下がっていて申し訳ないのですが、ユイトたちの物語を書き切るまでお付き合い頂ければ幸いです。
これからもどうぞ、よろしくお願い致します。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
祖母と母が亡くなり、別居中の父に引き取られた幼い三兄弟。
暴力に怯えながら暮らす毎日に疲れ果てた頃、アパートが土砂に飲み込まれ…。
目を覚ませばそこは日本ではなく剣や魔法が溢れる異世界で…!?
強面だけど優しい冒険者のトーマスに引き取られ、三兄弟は村の人や冒険者たちに見守られながらたくさんの愛情を受け成長していきます。
主人公の長男ユイト(14)に、しっかりしてきた次男ハルト(5)と甘えん坊の三男ユウマ(3)の、のんびり・ほのぼのな日常を紡いでいけるお話を考えています。
※ボーイズラブ・ガールズラブ要素を含める展開は98話からです。
苦手な方はご注意ください。
愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと
糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。
前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!?
「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」
激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。
注※微エロ、エロエロ
・初めはそんなエロくないです。
・初心者注意
・ちょいちょい細かな訂正入ります。
モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています
奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。
生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』
ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。
顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…?
自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。
※エロは後半です
※ムーンライトノベルにも掲載しています
転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜
春色悠
BL
俺、人間だった筈だけなんだけどなぁ………。ルイスは自分の腹に顔を埋めて眠る主を見ながら考える。ルイスの種族は今、フェンリルであった。
人間として転生したはずが、いつの間にかフェンリルになってしまったルイス。
その後なんやかんやで、ラインハルトと呼ばれる人間に拾われ、暮らしていくうちにフェンリルも悪くないなと思い始めた。
そんな時、この世界の価値観と自分の価値観がズレている事に気づく。
最終的に人間に戻ります。同性婚や男性妊娠も出来る世界ですが、基本的にR展開は無い予定です。
美醜逆転+髪の毛と瞳の色で美醜が決まる世界です。
悪役令嬢の兄に転生した俺、なぜか現実世界の義弟にプロポーズされてます。
ちんすこう
BL
現代日本で男子高校生だった羽白ゆう(はじろゆう)は、日本で絶賛放送中のアニメ『婚約破棄されたけど悪役令嬢の恋人にプロポーズされましたっ!?』に登場する悪役令嬢の兄・ユーリに転生してしまう。
悪役令息として処罰されそうになったとき、物語のヒーローであるカイに助けられるが――
『助けてくれた王子様は現実世界の義弟でした!?
しかもヒロインにプロポーズするはずなのに悪役令息の俺が求婚されちゃって!?』
な、高校生義兄弟の大プロポーズ劇から始まる異世界転生悪役令息ハッピーゴールイン短編小説(予定)。
現実では幼いころに新しい家族になった兄・ゆう(平凡一般人)、弟・奏(美形で強火オタクでお兄ちゃん過激派)のドタバタコメディ※たまにちょっとエロ※なお話をどうぞお楽しみに!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる