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はじまりの章

第7話 ゲスな騎士団長

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「まじで、寝てんのか? こんなに無防備に? ……あのゼロが?」

「……団長! ゼロは皆を守るために尽力したんです! こうして疲れて寝ているのに……!」

「馬鹿か、お前! チャンスだろ……!」

 興奮した声を押し殺し、ゲイラスが舌なめずりする。

 光太朗は、騎士たちにとって憧れの存在だった。
 小さく儚いのに、驚くほど強くて気高い。誰もが彼の魅力に逆らえない。しかし今まで誰も、光太朗に手を出すことは無かった。

 自分の魅力に無自覚そうな光太朗だが、これまで鉄壁の守りを通してきたのだ。

 騎士たちの間で「うちのゼロに手を出すな」という暗黙の了解があったのも事実である。地獄のような環境で、そんな気分にならなかったせいでもある。

 それよりなにより光太朗が強く、隙が無かったのが一番の要因だった。

 宿営地でも、皆が寝静まるまで光太朗は起きている。光太朗が寝ているところを、誰も見たことが無かった。


「こいつがこうして、無防備に寝るなんて……なかったじゃないか。今なら……ヤレる」

「だ、団長!!」

「うるせぇな! お前だって、ヤりたかったんじゃねぇのか?! この白い肌を暴いて、俺を刻み込んでやる……! さぞかし綺麗なんだろうなぁ?」


 光太朗の頭の下へと、ゲイラスが腕を差し込んだ。それを制しようとしたトトの頬に、ゲイラスは躊躇なく裏拳を打ち込む。
 地面に叩きつけられるトトを見て、ゲイラスは鼻を鳴らした。

「そこで寝てろよ。……気が変わったら、俺の部屋に来い。お下がりで良かったら、抱かせてやるよ」

 ゲイラスは光太朗を抱き上げると、トトの腹を蹴りつける。痛みにうめいたトトが静かになるのを見た後、ゲイラスは天幕を出た。




 ________


(ああ……ここまで下種だったとは……)


 たった今光太朗が居るのは、誰もいないゲイラスの天幕だ。宿営地にある天幕で、唯一の個室である。男が5人は寝れる広さだ。
 こんな天幕を独占できるほど、ゲイラスは働いていない。そうは思うものの、今はそんな場合ではない。
 
 光太朗の腕は一つに纏められ、天幕用の杭に結びつけられている。口は布で猿轡をされており、準備は万端といったところだ。

(にしてもだ。こんな天幕で、人を犯そうっていうのか? 頭わいてんな)

 風呂にでも行ったのか、ゲイラスはいない。光太朗は周りを見渡すと、呆れたように鼻から息を吐き切った。

 前の世界でも、自分を犯そうとする輩はいた。その対処法が、果たしてここで使えるだろうか。


(いやいや、にしてもよ……。俺……今回すげぇ頑張ったよな? その見返りが、これか?)

 憤りを胸中でぶちまけながら、光太朗は自身を縛っているものが布であることに気付く。
 せめて革だろ、とダメ出しをしながら、光太朗は腕を上下に動かした。杭の僅かな凹凸に、布がひっかかる感覚がある。

 ゲイラスが帰るまでに、少しでも布にダメージを与えなければならない。対処法をシミュレーションしながら、光太朗は地味に腕を動かし続けた。


 そして間もなくして、ゲイラスの声が近付いてくる。そしてそれに受け答えする、何人かの声も。
 天幕に入ってきたのはゲイラスと、見慣れた騎士2人だった。
 
 目を覚ましている光太朗を見て、ゲイラスは下賤な笑みをじわりと浮かべる。残りの二人も喉を鳴らすのを見て、光太朗の背筋がぞくりと粟立った。
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