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青、白

第48話 四天王全体会議

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 弐王は椀に残る薬をぺろりと舐め、顔を歪める。やはり苦みは半端ではない。

「眠りが深くなる薬を入れるために甘みを全部抜き、苦みで翡燕に悟られないように細工した。この薬を飲んだ翡燕はこうして、些細な刺激では起きなくなる。そしてその状態で、今まで朱王と黒王には力を注いでもらっていた」

「えっ?」
「はっ?」

 獅子王とサガラから驚きの声が漏れ、朱王は舌を鳴らして腕を組んだ。黒王の顔に変化はなく、寝台にいる翡燕を凝視している。

 朱王と黒王が力を注いでいる事実を、獅子王とサガラは知らなかった。力を注げば翡燕がどうなるか知っている2人は、心中穏やかではいられない。

 何ともいえない顔をする2人に笑顔を向けた後、弐王は嘆息しながら頭を抱えた。

「獅子王、サガラ、安心しろ。結果、計画は破綻しつつある。原因は朱王と黒王のせいだ」
「うっさいのぉ! このまま誰にも言わずに続ければよかったんや!」
「朱に肯定」

 朱王と黒王の反論を華麗に流しながら、弐王は未だ疑問符がついたままの白王と青王を指さす。
 ゆっくりと指を上下させて、2人に言い聞かせるように口を開いた。

「力を注いだら翡燕がどうなるか。白王も青王もやってみれば分かると思うが……困ったことに注いでいる側に大いに影響があってな。そりゃあ、もう、あればあるだけ注ぎたくなる。……現に誰かさんたちは四天王であるにも関わらず、任務に支障が出るくらい注いでしまっているからな」

「……も、問題ないやろ」
「無い」

「大いにある。朱王は戦場で眠りこけ、黒王は執務室で目を開いたまま返事もしないらしいな。寝ているだろう、確実に」

「……」
「……」

 言葉を詰まらせた2人を前にして、弐王は自身の膝を叩いた。気合を入れ直すようにして、口端を吊り上げる。

「2人体制では無理が来た。では4人で、というのが私の次の案だ。安直だがそれしかない。加えて、お互いに監視体制が出来る。獅子王とサガラも監視に加われ。そして四天王が不能になった場合は、お前たちが注ぐんだ」
「監視体制、とは?」
「ああ、翡燕に力を注ぐ際、注意事項がある。朱王、言ってみろ」

 言われた朱王は腹立ちまぎれに立ち上がり、腕を組んだ。まるで威嚇するかのように、白王と青王を睨み付ける。

「口付けは禁止! 痕を付けるんも禁止! 舐めるのも駄目や! 翡燕の下半身には触れるな! 匂いを嗅ぐのは許可する! ……そういや、胸は触ってもええんか?」
「駄目だ」
「じゃ、じゃあ駄目や!」

 黒王が立ち上がった朱王を睨み付けた。殺気を垂れ流しながら、口を開く。

「……朱、触ったのか?」
「……触ってへんよ」

(触ったな……)
 口に出さないものの、サガラと獅子王も責めるような視線を朱王に送った。朱王が咳払いを零しながら、再びその場へと腰を下ろす。
 そして次は白王が眼鏡を押し上げながら、呟いた。

「と、いうことは……力を注いだ時の戦の反応と言うのは……そっちの感じか?」
「そうや。とんでもないで」
「……ちょっと、何だよその旨味だけの役割! ご褒美しかないじゃん! 2人で独占しようとしてたのか!?」

 青王の言葉に、朱王は眉を寄せた。青王を指さしながら、弐王へ喚き散らす。

「なぁ、やっぱ青はあかん! こいつ昔から翡燕に色々してたやんか! 抜け駆けして口付けとかしてたやん!」
「してたな」
「してた」
「しない方が悪いじゃん!」

 他の四天王とは違い、青王は昔から戦司帝へ積極的にアプローチしていた。
 戦司帝は応じなかったが、青王に良く寝込みを襲われていたものだ。口付けも、積極的に仕掛けられていた。
 他の四天王から反感を買っても、青王は一向に止めることは無かったのだ。

「だから言ってるじゃん! やることやってから後悔しなって! お前らも戦がいなくなって後悔したんなら、今度こそさぁ!」
「それは許さん」

 すかさず言ったのは弐王だ。
 朱王と黒王に「お前が言うな」という視線を送られても、弐王はまったく動じない。

「自分で言うのも何だが、翡燕には過去の傷がある。抉らないように気を付けないと、あの子の精神が持たん」

「過去の傷とは?」

「……私が居ないときに、朱王に聞け。この際もう正直に言うが、私はお前たちより遥かに翡燕を愛している自信がある。こんな事をお前たちに頼むことすら、慚愧に堪えない。翡燕を抱くのは許さん」

 さらりと言う弐王に対して、黒王が殺意を剥き出しにした。今にも剣を取り出しそうな様子の黒王を、白王が慌てて制する。

「に、弐王様? ……とんでもない事言っていませんか? 付いて行けないのですが……事情が分からないので何とも言えませんが……」

「あかん、騙されんな白。この人が一番の悪党やねん。愛しているなんて言ったら、一番あかん人や。……よう言えるもんやな」

「……事実だから仕方がない」

 そう言うと弐王は立ち上がった。
 四天王とサガラ、獅子王を見渡して、皇族らしい良く通る声で告げる。


「抜け駆けはゆるさん。四天王で代わる代わる翡燕を潤せ。不正が無いか互いに監視せよ。翡燕がこのことに気付いたら翡燕は拒む。よって十分に注意するように。獅子王とサガラは、四天王が注ぎ始めて二時間を過ぎたら、強制的に止めに行け。分かったな?」
「……ぎょ、御意……」
「では、今日の当番は……」

「俺や!」
「俺」
「ちょっと待った。普通ここは朱と黒は遠慮するところだろう? ここは私が!」
「ぼくがやりたい!」

 言い争い始めた四天王を見て、弐王は舌打ちを零している。どうやら本当に慚愧に耐えないようだ。
  


________

 そして、謎の追いかけっこを終えた翡燕は、今獅子王の腕の中にいる。

 朱王や黒王に抱き上げられると抗議の声を上げる翡燕が、獅子王だと大人しく腕に納まる。それが何故なのか、獅子王はいつも戸惑うのだ。

(きっとおれが特別とかじゃない……主にとっておれはただの獣なんだ……)

 そういう対象にもされていない。そう思うと、信じられないくらい胸が痛くなる。

 主へ向ける感情が変わり始めている。それは獅子王も分かっていた。四天王から力を注がれている翡燕を想像するだけで、叫び出したくなる。

「獅子丸、また大きくなったな」
「……そうですか」
「そうだよ。背中に手が回らなくなった。ここまでしか届かない」

 翡燕が細い腕でぎゅうと抱きしめ、獅子王の背中で手をパタパタとはためかせる。
 仕草一つ一つが可愛らしいのも、今の獅子王にとっては辛いだけだった。

 「おれだって、主に注ぎたい」その一言が言えないのが、ひたすらに情けないのだ。
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