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青、白
第47話 四色が揃う
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目の前のサガラが、翡燕に向かって手を振っている。驚いたように目を丸くしながら、窺うような目を翡燕に向ける。
「まじで、見えてます? お師匠様」
「見えてる。サガラの目元のホクロまで見えてる」
「……お師匠様、俺にホクロはありませんよ」
「じゃあ、朝餉の胡麻だな!」
朗らかに笑いながら、翡燕は中庭を突っ切った。その足取りに危なげな要素は無い。
そして中庭の半分まで進むとくるりと振り返り、信じられないことを言い放つ。
「サガラ、追いかけっこをしよう」
「は!?」
「今から中庭を逃げ回るから、お前は僕を捕まえてみせなさい」
翡燕は言うなり、中庭を走り出した。
数日間、ほぼ寝たきりだった人間の動きとは思えない。
「あ、あぶね!! 流石に駄目ですって!!」
サガラが叫びながら走り出し、獅子王が居室から飛び出してきた。獅子王も走り回る翡燕に目を剥いている。
「獅子丸! 獅子丸もおいで!」
「まる! お師匠様を捕まえろ!」
皇都巡衛軍隊長と獣人に追いかけられるも、翡燕は見事に逃げ切っている。
楽しそうな笑い声を上げ、ひょいひょいと跳ねたりしゃがんだりしながら、翡燕は2人の動きを避け続ける。
その光景を、朝餉の片づけが終わったソヨとヴァンが、茶を啜りながら眺めていた。
「すっかり元気になっちゃいましたね、翡燕様」
「う~ん、くたっとした翡燕様……可愛かったんだけどなぁ……」
「……元気なのも、可愛いですけどね……あれ、捕まるのかな?」
2人してのんびり話していると、やっと翡燕が獅子王に捕まった。捨て身で飛びかかった獅子王に抱きこまれ、翡燕はきゃっきゃと笑っている。
「あ、あるじ……大人しく、して……」
「あははぁ、楽しかった」
笑う翡燕は、息も上がっていない。反してサガラは、息を荒げて中庭へ座り込んでいる。
それを見た獅子王の腕の中の翡燕が、にんまり笑う。
「僕の目がちゃんと見えてるの、分かったかい?」
「……分かりました……」
サガラの返答に満足したのか、翡燕は獅子王の首元に鼻を擦りつけた。
「ああ、いい匂いだなぁ」と翡燕が頬を緩ませると、獅子王がぎゅうと抱きしめてくる。甘えるような仕草に、翡燕は首を傾げた。
「どうした? 獅子丸?」
「……主のこと、久しぶりに抱っこしました……」
「ああ、本当だな。ここ最近は蘇芳と黒兎ばかりだった。やっぱり獅子丸の匂いが一番落ち着くなぁ」
翡燕が言うと、獅子王の鼻がぐすりと鳴る。
(主……おれだって、主に……)
獅子王の胸がこんなにも締め付けられる理由を、翡燕は知らない。知られてはならないのだ。
それは、白王が初めて屋敷を訪れた、数日後の朝の事だった。
________
翡燕を腕の中に抱きこんで、青王がボロボロと涙を流している。腕の中の翡燕は、くったりと眠ったままだ。
本来なら感動的なその光景を、朱王、黒王、白王は忌々し気に見つめていた。
「おい青、そろそろ離さんかい」
「青、離せ」
「青、そろそろ変われ」
それぞれから投げかけられた言葉を受けて、青王はキッと周囲を睨む。
「うっるさい!! 最後までぼくに黙っといて!!! しかも何!? 戦をこんなに弱らせて! この無能集団!!」
「あぁあ!? 何やてぇ、この青たれ!! 表出ぇ!!」
立ち上がった朱王を制するように白王も立ち上がり、黒王はひたすらに青王を上から睨み付けている。青王はべぇと舌を出し、更に翡燕を抱き込んだ。
以前は四天王が喧嘩すると、止めてくれるのは戦司帝だった。しかし当の本人は寝たままだ。
白王は猛る朱王を羽交い締めにしたまま、静かに叫んだ。
「戦が起きてしまう!! 静かに!」
「……」
「……」
途端に静かになった青王と朱王に、黒王は戒めるような目を向けている。
それぞれが睨み合って牽制している中、低音の声が響いた。
「いいや、翡燕は起きない。青王、そろそろ離しなさい」
寝室に入ってきた弐王は、青王から翡燕を引き剥がし、寝台に寝かせる。
鬼のような形相で自身を睨む朱王と黒王を一瞥して、弐王はパンッと一つ手を叩いた。
「さぁ、サガラも獅子王も入りなさい。大事な話がある。私に殺意を抱いているそこの四天王、まずは座りなさい」
先ほどから寝室の外で様子を窺っていたサガラと獅子王が中に入り、四天王が渋々といった様子で座った。
一つの寝室に、四天王と皇王の実弟、そして獅子王とサガラが収まっている。戦司帝の寝室は決して狭くないが、ここまで大物が揃うと圧迫感で破裂しそうだ。
「さて、私はこの時を待っていた。最後は少し手を入れたが仕方ない……何しろ時間が無いからな」
寝台の上の翡燕は、身動ぎ一つせず、寝息も聞こえないぐらいか細い。
その翡燕の顔を見ながら、弐王は溜息をついた。
「少々細工したが、翡燕が白王と青王を受け入れてくれたのは僥倖だった。そして懸念していた『自ら幕を引く』という選択を捨ててくれたのは一番の収穫だ。自ら死のうとしてしまえば、守りようがない」
弐王はそう言いながら、翡燕の前髪を梳く。
途端に四天王から殺気が漏れ出すが、弐王は歯牙にもかけない。
朱王と黒王を戦司帝の屋敷から退け、白王を翡燕に会わせたのは弐王の細工だった。
それを知った時の朱王と黒王の反発は凄まじいものだったが、翡燕を守るために必要な事だったのだ。
「さて、今回は翡燕のために皆を集めた。これは熟慮の上に出した答えだ。……彼の性格は分かっているだろう。自分の事には無頓着で、気を遣ってないようで遣い過ぎている。……まったく……大らかなくせに、岩のように頑固だ。こんな状態でいるのに、いくら説得しても、翡燕は考えを曲げない」
翡燕の寝台に座って、まるで独り言のように話し続ける弐王に、白王は眉を寄せた。
弐王は昔から会話に難がある人だった。根っからの医者であり、分からないことは探求しつづける学者肌であるためか、はたまたただの癖なのか、話し方が一方的で難解なのだ。
先日翡燕に再会したばかりの白王は、まだ何の事情も知り得ていなかった。青王も然りである。
「……あの、弐王様。何の話をしてらっしゃるんでしょうか? 今回集められたのは、何についての話ですか? 戦が、国の中枢に帰らないという話ですか?」
白王が弐王に問いかける。そもそもなぜ、弐王が絡んでくるのかも分かっていない。
そして朱王と黒王が、鋭い視線を弐王に向ける理由すらも知らないのだ。
白王の問いを受けた弐王が、さも当然のように口を開く。その口から出た言葉は、衝撃的だった。
「いいや。このままだと翡燕は直に死ぬ、という話だ」
「……」
「は?」
ほぼ全員が息を呑む中、黒王は眉を顰めた。依然弐王を睨み付けたまま、唇を噛みしめる。
白王と青王が言葉を失う中、朱王が狼狽えて口を開いた。
「……じ、直に死ぬ? そんな事、聞いてないで! 身体が弱いだけじゃないんか?」
「この国に帰ってきたときには、もう手遅れの状態だったのに、毒までくらった。もう瀕死だよ。正直明日死んでもおかしくない」
「な、何で言うてくれへんかったんや!!」
「朱王。これを言うと、お前は『馬鹿みたいに注ぐ』だろう? ちょっと黙っておけ。他の者に説明するのが先だ」
弐王はそう言うと、扉の近くに立っていた獅子王とサガラに「座りなさい」と促す。
『直に死ぬ』という現実を突き付けられた2人は、看過できないほど動揺していた。倒れでもしてはいけないと、地べたに座らせる。
「翡燕の心臓の核はね、半分炭化していて焼き爛れた状態だ。損傷が激しく、力を溜め込むことも出来ない。だから力を分け与えても、流れ出してしまうんだ。しかし、力を流すことによって、少しだけその核を潤すことが出来る」
弐王が拳をつくり、そこに水をかける。拳が水をまとい、淡い灯りを反射して輝いた。
しかし流れた水は、大半が地面に落ちる。
「こんな風に流された力は、大半が無駄になる。しかし翡燕の核は少なからず潤され、修復はされないがそれ以上悪化することもない」
「じゃあ流し続ければ、戦は生きていられるのか!? それなら答えは出てる! ぼくが注ぐ! ずっと注ぎ続ける!」
青王がそう言うと、弐王は頷くが、朱王と黒王は渋い顔をした。サガラと獅子王も口を引き結んで黙り込む。
「翡燕はそれを固辞した。理由は注いでみれば分かるから、ここでは割愛する」
「え? 何で割愛する?」
「ええから、黙って聞けて! 青たれ!」
肩を竦め、信じられないといった顔をして青王が黙り込む。白王は双方の顔を見ながら頷き、話の先を促した。弐王が頷き返しながら口を開く。
「……そして毒を受け、最近の翡燕は死んだように眠ることが増えた。本能が生命活動を控えているような状態だ。……これを私は、好機だと捉えた」
この弐王の判断は、一種の狂気を孕んでいた。翡燕に対する裏切りの様な行為だ。
その判断に既に加担している朱王と黒王も、相当な覚悟の上だった。
弐王が寝台の脇に置かれている、空になった椀を持ち上げた。翡燕があの苦い薬を飲むための椀だ。
弐王が椀を見つめながら、口を開く。
「私は翡燕に内緒で、薬を盛った。これしかもう方法は無かった」
目の前のサガラが、翡燕に向かって手を振っている。驚いたように目を丸くしながら、窺うような目を翡燕に向ける。
「まじで、見えてます? お師匠様」
「見えてる。サガラの目元のホクロまで見えてる」
「……お師匠様、俺にホクロはありませんよ」
「じゃあ、朝餉の胡麻だな!」
朗らかに笑いながら、翡燕は中庭を突っ切った。その足取りに危なげな要素は無い。
そして中庭の半分まで進むとくるりと振り返り、信じられないことを言い放つ。
「サガラ、追いかけっこをしよう」
「は!?」
「今から中庭を逃げ回るから、お前は僕を捕まえてみせなさい」
翡燕は言うなり、中庭を走り出した。
数日間、ほぼ寝たきりだった人間の動きとは思えない。
「あ、あぶね!! 流石に駄目ですって!!」
サガラが叫びながら走り出し、獅子王が居室から飛び出してきた。獅子王も走り回る翡燕に目を剥いている。
「獅子丸! 獅子丸もおいで!」
「まる! お師匠様を捕まえろ!」
皇都巡衛軍隊長と獣人に追いかけられるも、翡燕は見事に逃げ切っている。
楽しそうな笑い声を上げ、ひょいひょいと跳ねたりしゃがんだりしながら、翡燕は2人の動きを避け続ける。
その光景を、朝餉の片づけが終わったソヨとヴァンが、茶を啜りながら眺めていた。
「すっかり元気になっちゃいましたね、翡燕様」
「う~ん、くたっとした翡燕様……可愛かったんだけどなぁ……」
「……元気なのも、可愛いですけどね……あれ、捕まるのかな?」
2人してのんびり話していると、やっと翡燕が獅子王に捕まった。捨て身で飛びかかった獅子王に抱きこまれ、翡燕はきゃっきゃと笑っている。
「あ、あるじ……大人しく、して……」
「あははぁ、楽しかった」
笑う翡燕は、息も上がっていない。反してサガラは、息を荒げて中庭へ座り込んでいる。
それを見た獅子王の腕の中の翡燕が、にんまり笑う。
「僕の目がちゃんと見えてるの、分かったかい?」
「……分かりました……」
サガラの返答に満足したのか、翡燕は獅子王の首元に鼻を擦りつけた。
「ああ、いい匂いだなぁ」と翡燕が頬を緩ませると、獅子王がぎゅうと抱きしめてくる。甘えるような仕草に、翡燕は首を傾げた。
「どうした? 獅子丸?」
「……主のこと、久しぶりに抱っこしました……」
「ああ、本当だな。ここ最近は蘇芳と黒兎ばかりだった。やっぱり獅子丸の匂いが一番落ち着くなぁ」
翡燕が言うと、獅子王の鼻がぐすりと鳴る。
(主……おれだって、主に……)
獅子王の胸がこんなにも締め付けられる理由を、翡燕は知らない。知られてはならないのだ。
それは、白王が初めて屋敷を訪れた、数日後の朝の事だった。
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翡燕を腕の中に抱きこんで、青王がボロボロと涙を流している。腕の中の翡燕は、くったりと眠ったままだ。
本来なら感動的なその光景を、朱王、黒王、白王は忌々し気に見つめていた。
「おい青、そろそろ離さんかい」
「青、離せ」
「青、そろそろ変われ」
それぞれから投げかけられた言葉を受けて、青王はキッと周囲を睨む。
「うっるさい!! 最後までぼくに黙っといて!!! しかも何!? 戦をこんなに弱らせて! この無能集団!!」
「あぁあ!? 何やてぇ、この青たれ!! 表出ぇ!!」
立ち上がった朱王を制するように白王も立ち上がり、黒王はひたすらに青王を上から睨み付けている。青王はべぇと舌を出し、更に翡燕を抱き込んだ。
以前は四天王が喧嘩すると、止めてくれるのは戦司帝だった。しかし当の本人は寝たままだ。
白王は猛る朱王を羽交い締めにしたまま、静かに叫んだ。
「戦が起きてしまう!! 静かに!」
「……」
「……」
途端に静かになった青王と朱王に、黒王は戒めるような目を向けている。
それぞれが睨み合って牽制している中、低音の声が響いた。
「いいや、翡燕は起きない。青王、そろそろ離しなさい」
寝室に入ってきた弐王は、青王から翡燕を引き剥がし、寝台に寝かせる。
鬼のような形相で自身を睨む朱王と黒王を一瞥して、弐王はパンッと一つ手を叩いた。
「さぁ、サガラも獅子王も入りなさい。大事な話がある。私に殺意を抱いているそこの四天王、まずは座りなさい」
先ほどから寝室の外で様子を窺っていたサガラと獅子王が中に入り、四天王が渋々といった様子で座った。
一つの寝室に、四天王と皇王の実弟、そして獅子王とサガラが収まっている。戦司帝の寝室は決して狭くないが、ここまで大物が揃うと圧迫感で破裂しそうだ。
「さて、私はこの時を待っていた。最後は少し手を入れたが仕方ない……何しろ時間が無いからな」
寝台の上の翡燕は、身動ぎ一つせず、寝息も聞こえないぐらいか細い。
その翡燕の顔を見ながら、弐王は溜息をついた。
「少々細工したが、翡燕が白王と青王を受け入れてくれたのは僥倖だった。そして懸念していた『自ら幕を引く』という選択を捨ててくれたのは一番の収穫だ。自ら死のうとしてしまえば、守りようがない」
弐王はそう言いながら、翡燕の前髪を梳く。
途端に四天王から殺気が漏れ出すが、弐王は歯牙にもかけない。
朱王と黒王を戦司帝の屋敷から退け、白王を翡燕に会わせたのは弐王の細工だった。
それを知った時の朱王と黒王の反発は凄まじいものだったが、翡燕を守るために必要な事だったのだ。
「さて、今回は翡燕のために皆を集めた。これは熟慮の上に出した答えだ。……彼の性格は分かっているだろう。自分の事には無頓着で、気を遣ってないようで遣い過ぎている。……まったく……大らかなくせに、岩のように頑固だ。こんな状態でいるのに、いくら説得しても、翡燕は考えを曲げない」
翡燕の寝台に座って、まるで独り言のように話し続ける弐王に、白王は眉を寄せた。
弐王は昔から会話に難がある人だった。根っからの医者であり、分からないことは探求しつづける学者肌であるためか、はたまたただの癖なのか、話し方が一方的で難解なのだ。
先日翡燕に再会したばかりの白王は、まだ何の事情も知り得ていなかった。青王も然りである。
「……あの、弐王様。何の話をしてらっしゃるんでしょうか? 今回集められたのは、何についての話ですか? 戦が、国の中枢に帰らないという話ですか?」
白王が弐王に問いかける。そもそもなぜ、弐王が絡んでくるのかも分かっていない。
そして朱王と黒王が、鋭い視線を弐王に向ける理由すらも知らないのだ。
白王の問いを受けた弐王が、さも当然のように口を開く。その口から出た言葉は、衝撃的だった。
「いいや。このままだと翡燕は直に死ぬ、という話だ」
「……」
「は?」
ほぼ全員が息を呑む中、黒王は眉を顰めた。依然弐王を睨み付けたまま、唇を噛みしめる。
白王と青王が言葉を失う中、朱王が狼狽えて口を開いた。
「……じ、直に死ぬ? そんな事、聞いてないで! 身体が弱いだけじゃないんか?」
「この国に帰ってきたときには、もう手遅れの状態だったのに、毒までくらった。もう瀕死だよ。正直明日死んでもおかしくない」
「な、何で言うてくれへんかったんや!!」
「朱王。これを言うと、お前は『馬鹿みたいに注ぐ』だろう? ちょっと黙っておけ。他の者に説明するのが先だ」
弐王はそう言うと、扉の近くに立っていた獅子王とサガラに「座りなさい」と促す。
『直に死ぬ』という現実を突き付けられた2人は、看過できないほど動揺していた。倒れでもしてはいけないと、地べたに座らせる。
「翡燕の心臓の核はね、半分炭化していて焼き爛れた状態だ。損傷が激しく、力を溜め込むことも出来ない。だから力を分け与えても、流れ出してしまうんだ。しかし、力を流すことによって、少しだけその核を潤すことが出来る」
弐王が拳をつくり、そこに水をかける。拳が水をまとい、淡い灯りを反射して輝いた。
しかし流れた水は、大半が地面に落ちる。
「こんな風に流された力は、大半が無駄になる。しかし翡燕の核は少なからず潤され、修復はされないがそれ以上悪化することもない」
「じゃあ流し続ければ、戦は生きていられるのか!? それなら答えは出てる! ぼくが注ぐ! ずっと注ぎ続ける!」
青王がそう言うと、弐王は頷くが、朱王と黒王は渋い顔をした。サガラと獅子王も口を引き結んで黙り込む。
「翡燕はそれを固辞した。理由は注いでみれば分かるから、ここでは割愛する」
「え? 何で割愛する?」
「ええから、黙って聞けて! 青たれ!」
肩を竦め、信じられないといった顔をして青王が黙り込む。白王は双方の顔を見ながら頷き、話の先を促した。弐王が頷き返しながら口を開く。
「……そして毒を受け、最近の翡燕は死んだように眠ることが増えた。本能が生命活動を控えているような状態だ。……これを私は、好機だと捉えた」
この弐王の判断は、一種の狂気を孕んでいた。翡燕に対する裏切りの様な行為だ。
その判断に既に加担している朱王と黒王も、相当な覚悟の上だった。
弐王が寝台の脇に置かれている、空になった椀を持ち上げた。翡燕があの苦い薬を飲むための椀だ。
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