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学園編

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__________

「あ、チャイム鳴った」

 今日の授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、Bクラスの鉄が目を擦りながらぼやいた。
 
 セラは眉根を寄せ、考え込むように頭を抱えて何やら呻いている。待機命令は解除されていないし、その後の情報も何一つ入ってきていなかった。

 またいつ出撃命令が出されるか分からない。ピリピリとした空気で待ってはいたが、まだ10代の生徒たちだ。
 それぞれ居眠りをしたり、話をしたりと落ち着きがないまま教室にいた。

 教室の外が騒がしくなり、Bクラス以外の生徒は授業から解放されたようだ。その音を聞きながら、教室全体がうんざりした空気に包まれている。
 
 しばらく考えた後、セラは顔を上げて立ち上がった。

「解散しましょう。教室には私が残っておくから」
「それ、お前が怒られないか?」

 同じクラスの道元が、前髪をかきあげながらセラへと問う。道元に頷き返し、セラは笑みを浮かべた。

「大丈夫。召集がかかったらまた連絡するから、今日は皆部屋にいてね。解散」

 同時にガタガタと椅子の音が響き、明るい声が飛び交う。

 部屋を出て行くクラスメイトを笑顔で見送り、セラはゆっくりと腰掛けた。
 指揮官というものがまだ良く解らない。こんなときどんな命令がベストなのか、いつもセラは判断に迷っていた。

(ああ、こんな結果を出すんだったら早めに部屋に帰すんだった。皆、慣れない事で疲れているだろうに…)

 考えを巡らせていたセラだったが、自身の机にお菓子がどんどん並べられていく事に目を丸くする。お菓子を食べながら並べているのは、同じクラスの陸だった。

「はい」
 陸は口をモゴモゴさせながら、棒状のチョコをセラの前に差し出してくる。
「ありがと……」
 セラが一本受け取ると、陸はニコリと笑った。
「お菓子食べながら先生待とう」

 次の袋を開けながら陸が言うと、後ろから道元とクラスメイトの鉄が椅子を持って菓子に手を伸ばす。教室には、もう4人しか残っていない。

 セラはほっと息をつき、陸の頭を撫でた。
 同い年の者からこんな行為をされると大抵の人間は怒りそうなものだが、陸は怒ることもなく大人しく撫でられている。
 同い年ながら、陸は体格も言動もどこか幼い。そのためセラは、つい彼女を妹のように可愛がってしまうのだ。

 菓子袋の中身も半分以上減ったとき、タールマが教室に入ってきた。セラが勢い良く席を立ち、敬礼する。

「自分の判断で一時解散しました。全員異常なし」
「……そうか。待たせてすまなかった。判断は正しい」

 そう答えたタールマは、短くため息を漏らした。

「どうか、されましたか?」

 いつになく疲弊した様子のタールマに、セラが尋ねる。しかしタールマは答えることなくセラたちの机の上の菓子に手を伸ばした。

「……美味しい」

 心ここにあらずといった表情で タールマは呟く。普段の厳格なタールマからは想像できない表情だ。4人は驚き、顔を見合わせるしかない。




________

 夜の医務室で、教師専門の医師であるボルエスタは帰り支度をしていた。
 銀の容器から定期的に滴り落ちる滴の音を聞いていると、ドアの音が軽快に響く。

 午後9時を過ぎれば、授業はもちろん補習も終わっている時間だ。来訪者も激減する。
 9時以降で訪問するとすれば、持病を抱えている教師らだ。しかしもう時刻は日付も替わろうとする頃であった。
 ウェリンク国の校医ボルエスタは、扉の方へ目を向けた。

 そこには知らない男が立っていた。ボルエスタは警戒することなく、その男を見遣った。見ず知らずの男が入室しても、慌てないのは理由がある。

 第一、この学校の教師達しか入れないフロアに容易く入れる訳が無い。第二に、もし侵入できた人物が目の前に立っているのであれば、自分に成す術はない。

「誰ですか?」
 冷静に問うた事に、男は少し驚いていたようだった。
 が、すぐ答えは返ってくる。
「たつとら、といいます」

 名前を聞いた訳ではない。しかし虚を突かれて、ボルエスタは少し吹き出した。
 質問の答えとしては、間違いでは無い。

「今日、赴任してきたんだけど……」

 たつとらの答えに少しの警戒感を残したまま、ボルエスタは笑顔を浮かべる。

「まあ、そこに座ってください」

 また少し驚いたような表情をみせたたつとらは、自身の栗色の髪をくしゃりと撫でた。そしてボルエスタのほうへ歩み寄る。少しだけ目線を下げて、たつとらは口を開いた。

「これから世話になります」

 栗色の髪が照明で金色に輝き、新任の教師は困ったように笑った。
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