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チートがない

4 チートを探せ

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 今世の私、ヴィヴィアーチェには前世の記憶がある。
 名前は忘れちゃったけど、孫もいる大往生したで、ウン十年看護師の経験がある女性の記憶だ。
 あ、大往生したならおばちゃんだろうという突っ込みは受け付けませんよ。孫がいたことまでは何となく覚えているけど、どちらかといえば30~40代くらいの記憶が強く残っていて、おばあちゃんだった感じがしないのよね。身体は16歳だから尚更よ。
 転生や転移は前世で読んでいた小説では良くある話だったからすぐに飲み込めたし、人生半ばで旦那や子供を置いて――なんてことになっていたら耐えられないから、寿命を全うした後に“こう”なったことは、神様に感謝したいわ。

 剣と魔法と魔獣蔓延る世界に転生したのだと認識した私は、まず初めに身を守る術を考えた。
 小説でよくあった前世の技術であり、知識。いわゆる“チート”ってヤツよ。
 でも、よく物語にあるように空手や剣道、弓道なんかをしていたから剣なんかの武器を使えるとか、ゲームをやりこんでいて知識が豊富だとかはないし、普通に大往生だから神様にも会ってもないし、異世界転生特典なんてもちろんないのよ。
 おまけに主婦はやっていたけど料理はいつもスマホアプリを使っていたから全くできないし、当然シャンプー、リンス、石鹸、みそ、しょうゆ、マヨネーズ等なんかを手作りしていました──なんてそんな都合の良くて高尚な趣味も経験もない。
 看護師っていっても大病院にいた訳でも医者でもない訳なのだから、医療系のチートなんか絶対無理。
 人生は物語のように都合良くは行かないものなのよ。身にしみて分かったわ。
 現在はチートは諦めて、知り合いのお店のお手伝いをしているの。

 そんなこんなで結局その日は遅くなったし、私がここまで来た目的である薬草もまだ採取出来てないので、お兄さん――プレストとポチとでその場で野営をすることになった。

「おいしーい^^」 

 お礼にご飯を作ってくれるっていうから、ありがたくご相伴に預かった。
 プレストの狩った魔獣の肉と野菜の煮込みスープだったけど、目茶苦茶美味しかった。
 やっぱり人の作ってくれた料理って美味しいわよね。
 私は前世から料理は全く出来ない──というか料理が大嫌いだったものだから、何故か息子が料理男子に成長して私にも作ってくれたりもしたわ。良い想い出ね。異世界の料理男子にも息子にしていた様に頭をヨシヨシしたくなる。しないけどね。
 
「ヴィヴィアーチェは少女という感じがしないな。逆に年上な女性と話している気分になる」
 不意にプレストがそう言った。
「失礼ね」――と言ってはみたが、前世を足したら100も超えているかもしれないから強くはいえなかった。


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