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チートがない
1 あなた、お裁縫は出来る?
しおりを挟む知り合いの薬屋さんから受けた仕事をこなすために目的地を目指していた道中、怪我をした一匹の大型犬?を囲んで話し合う男女を見かけた。
短い話し合いの末、いつ魔獣が出てきて襲われてもおかしくない森の中になんの躊躇いもなく犬と共に置き去りにされてしまったお兄さんに、私は声をかけた。
「あなた、お裁縫は出来る?」
って──
★
ダンジョンとコンブリオの街を結ぶ街道から外れた知る人ぞ知る薬草の群生地に向かう途中、悲痛な叫び声が聞こえた。
「ポチっ!!」
すごいネーミングセンスねと感心したと同時に同郷の人かしらと思い、普段なら素通りするところだけど興味が沸いてちょっとだけ様子を見に行くことにした。
ひょいっと離れた茂みから覗くと、横たわっているシルバーカラーの子犬を見下ろす様に立っている大剣を背負った茶髪の軽そうなお兄さんと弓を持ったグラマラスの金髪美女、そして子犬の横にしゃがみ込んでいる腰に剣を差した黒髪の騎士って感じのお兄さんがいた。
「傷が深いわね。血が止まりそうもないわ」とお姉さんが言うと
「ポーションをかけて見る・・・か?」茶髪のお兄さんがちょっと戸惑いながら提案する。
ここから街まで距離もあるし、また魔獣に遭遇する可能性がある。高価なポーションを犬に使うのをためらうのは普通のこと、でしょうね。・・・え、犬でいいのよね?
「いや。まだ街まで距離がある。ポーションはまだ使うかもしれないから、ポチには使えない。まだ食料も何日分か残ってるし、俺はポチが歩けるようになったら街に戻るよ。
すまないが商会に心配するなと伝えてくれると助かる。
いつまでもここにいたら、ポチの血の臭いでいつ他の魔獣が襲ってくるか分からないから危険だ。俺を置いて先に帰ってくれ」
子犬を置いていけないからって、黒髪のお兄さんはひとりここに残る決心をしたらしい。何それ感動なんですけど。年をとってから・・・っていうか、子供を産んでから涙もろくなったのよね──前世の話だけど。
黒髪のお兄さんの言葉を聞いて茶髪のお兄さんとお姉さんは顔を見合わせる。
「そうか?悪いな。お言葉に甘えて先に戻らせて貰うよ」
「くれぐれも気をつけてね。街で待ってるわ」
茶髪のお兄さんは瞬時に、お姉さんは逡巡──と言ってもやけに短かったけど──の末、先に街に帰ることに決めたらしい。
二人は子犬に寄り添うお兄さんに背を向け、振り返りもせずに急ぎ足で行ってしまった。
まぁ、日が暮れる前に街に着きたいだろうし、長居は禁物ってことでしょ。自身の命に関わることだから酷いとは思わないけどね。
二人が見えなくなると、私は茂みから出て彼に声をかけた。
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