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6、鏡よ鏡

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「やい、子分」

「へい、親分」

「俺ァな、死ぬのは怖くはねえが、天国には行きてえ」

「そりゃあ、意外だな。どうしてです?」

「死んだ母ちゃんが、天国にいるからだ」

「まあ、そりゃあ無理な話ですね。今までの所業からすると、親分は確実に、地獄生きだ」

「うるせいやい、まあ、実のところ、俺もそう思ってるさ。だがよウ、どうにかして天国行きにできねえものか」

「簡単な事ですぜ。天国か地獄か、決めるのは閻魔様だ。閻魔えんま様を、だませばいいんでさ」

「お前、今からでもいいから善い行いをしろとか、そういうことは言えねえのか」

「冗談でしょう、今更手遅れですぜ。それより親分、閻魔様がどうやって天国か地獄かを決めるか、ご存じで?」

「知らねえ。お前は知ってるのか」

「そりゃあ知ってます。あっしは一度、三途の川を渡りかけやしたから。いいですか、閻魔様は、浄玻璃鏡じょうはりきょうっていう鏡を持ってます。その鏡に、良い奴か悪い奴か、全部映し出されるってわけですよ」

「なるほど。なら、その鏡を盗めばいいんだな」

「親分、閻魔様の目の前で悪い事してどうするんですか」

「それもそうだ。なら、その鏡をすりかえる」

「すりかえるって、何と?」

「魔鏡だよ。昔、隠れキリシタンが使ってた代物だ。鏡に光を反射させると、マリア像が浮かびあがってくる。マリア様の代わりに、善人の俺様を浮かばせようって魂胆だ」

「かあーっ。よくもそんな悪行、思いつきやすねえ」

「やい子分、さっそく俺様の魔鏡を作らせろ」

「親分、それなら善い行いをしてくだせえ。そうでないと、良い姿を映す魔鏡は作れやせんぜ。ボランティアか何かして、写真に収めて、それをもとに魔鏡を作らせやすから」

「ボランティア?んなもん、性に合わねえ。やい子分、俺を魔鏡作りの工房へ連れて行け。そこで鏡作りを手伝う」

「へえ。しかし、役に立ちますかねえ」



(ゴシゴシ、キュッキュッ、ゴシゴシ、キュッキュッ)

「はあ、疲れた。おい子分、交代だ」

「だめですよ、親分。あっしがやったらせっかくの善い行いが台無しですぜ」

「けっ。だいたい、ザクロで鏡を磨くとはよ。令和の大泥棒の名が泣くぜ」

「ほら親分、つべこべ言わずに磨く!あっ、ザクロ食べちゃだめですって!しかも皮ごと!」

 バタッ

(親分の倒れる音)

「え?親分?どうしたんですか?親分?親分!おやぶーん!!」



「うーん…ここは、どこだ?」

「おい、貴様、名を名乗れ」

「何だてめえは。こちとら起きたばっかりなんだ。てめえから名を名乗れ」

「わしは閻魔だ」

「閻魔あ?本物か」

「貴様は死んだ。ザクロの皮の毒に当たってな」

「ザクロだと?令和の大泥棒が、ザクロ食って死んだなんて、口が裂けても言えねえ」

「なに、泥棒?貴様は地獄…」

「ちょっと待った。俺は善人だ。どれ、俺は鏡を磨くのが上手いんだ。その浄玻璃鏡を磨いてやる。ピカピカの鏡で、よおく俺を見てみろ」

(ゴシゴシ、キュッキュッと磨きながら、胸元から魔鏡を出してすり替える)

「ほら。ずいぶんきれいになっただろ」

「ここに映っているのは貴様か」

「ああそうでえ。…ん?なんだこりゃ?これは俺じゃねえ、子分の野郎だ!」

「貴様は地獄行きだ」

「うるせえ!さっきからべらべらと偉そうに!だいたいてめえは人の運命を決めるほど偉いのかってんだ!生きてりゃ嘘の一つもつくだろうが!舌を抜かれるくらいなら、俺がてめえの舌を引っこ抜いてやる」

(閻魔様に飛びついて、口をこじ開ける)

「やめろ、何をする!」

(ガブッ)

「ひゃあ、驚いた。閻魔の舌がこんなにうまいとは。どこかで食べた味だな。牛タンにそっくりだ」

(閻魔様の口からよだれが滝の様に出てくる)

「うめえ、うめえ、こりゃ上物の牛タンだ。おい、このよだれの量はなんだ。俺の体がべたべたじゃねえか。おっ…さてはてめえ、嘘をついたな。この浄玻璃鏡に映ってるのは、閻魔じゃなくて、牛魔王だ」

「おのれ、ばれたか!!」

「閻魔のふりして嘘をつくなんざ、とんでもない野郎だ。地獄に落ちろ!!」



「親分、親分…親分!!あっしです!気がつきやしたか!!」

「ここはどこだ」

「鏡の工房ですよ。はあ~、驚かせないで下せえよ。親分、ばったり倒れて、そのまま息が止まっちまったんですぜ。ところで親分、すごい汗だ」

「汗じゃねえ、よだれだ。それよりお前、俺をだましやがったな!この魔鏡に映るのは、俺じゃなくてお前の姿じゃねえか」

「あ、ばれました?でもこれは、あっしの深い愛情ゆえですぜ」

「何い?何が愛情だっていうんだ」

「だって、親分の母ちゃんなら、絶対に地獄にいるはずでさあ。親分が天国に行っちまったら、会えないでしょうが」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<浄玻璃鏡>
浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ、じょうはりきょう)とは、閻魔が亡者を裁くとき、善悪の見きわめに使用する地獄に存在するとされる鏡である。閻魔王庁に置かれており、この鏡には亡者の生前の一挙手一投足が映し出されるため、いかなる隠し事もできない。おもに亡者が生前に犯した罪の様子がはっきりと映し出される。もしこれで嘘をついていることが判明した場合、舌を抜かれてしまうという。(Wikipediaより抜粋)

<魔鏡>
魔鏡(まきょう)は、平行光線ないし点光源からの拡散光線を反射すると、反射面のわずかな歪みにより反射光の中に濃淡があらわれ、像が浮かび上がる鏡(特に銅鏡)である。日本では古墳時代の三角縁神獣鏡で魔鏡の現象が確認されている。17世紀に入ると隠れキリシタンの間で隠れ切支丹鏡が作られ、禁止されたキリスト教の十字架やマリアなどを隠したまま浮かび上がらせ、それを崇拝してきた。手作業による魔鏡製作は和鏡を製造する山本合金製作所などが技術を継承しており、1990年と2014年にローマ教皇へ隠れ切支丹鏡が献上されている。(Wikipediaより抜粋)

<ザクロ>
(石榴、柘榴、若榴)は、ミソハギ科ザクロ属の1種の落葉小高木、また、その果実のこと。庭木などの観賞用に栽培されるほか、食用になる。
ザクロの実は、銅鏡の曇りを防止するために磨く材料として用いられた。
江戸時代の銭湯には湯船の手前に「石榴口」という背の低い出入り口があったが、これは「屈み入る」と「鏡鋳る」(鏡を磨くこと)とを掛けたものともいう。
果皮を乾燥させたもの(石榴果皮:せきりゅうかひ)も樹皮や根皮と同様の目的で用いられることが多く、中国やヨーロッパでは駆虫薬として用いた。ただし、根皮に比べ揮発性アルカロイドの含有量は低く効果も劣る。また、回虫の駆除に用いられたこともあった(Wikipediaより抜粋)

<唾液>
牛は1日に約100リットルもの唾液を分泌する。(Wikipediaより抜粋)

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