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王子とヒロインは出会いを果たす1

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 僕の名はセレナイト王国の第1王子 クリス・ウェルナンシア。今年で14歳になった。

 生まれて間もなく低い身分出身の母が死に、色々と危惧した父が、0歳の僕に公爵令嬢との結婚をさせた。自他共に認める完全な政略結婚だった。
 
 周りは漠然といつか僕が歳に見合う令嬢を側室に迎えるだろうと思っていて、その為様々な名前を付けたパーティーに招かれた。王太子という立場上。そして、いつか必要になる人脈を築く為に応じなければならないものだけには参加したけれど、紹介されたご令嬢は片っ端からやんわりと断ってきた。

 令嬢達の、あの何か期待している目が心底不快だ。いつだったか、「王子様は美しいのに…身の上のせいで遠慮しなければならないのってお可哀想ですわ。」とか言って来た令嬢がいた。

 周りでそう思ってる人達はいるのは知ってたけど面と向かって言ってきたので取り敢えず僕の参加するパーティーを王族を侮辱したという事で出禁にしておいた。これから貴族の令嬢として生きて行きにくそうだね。貰い手見つかるかな?

 まぁ、僕の知った事ではないけどね。

 今日開催されたパーティーは、妙齢にして子供のいなかった宰相の娘が生まれたお祝いで宰相の屋敷に招かれた。

 僕の嫁は貴婦人達と楽し気に談話しながら宰相の妻に挨拶をしている。彼女はその物腰の柔らかさと滲み出る優しさによって、そこに居るだけで皆の心を和ませてくれる。

 本心から出る暖かい言葉に、社交界では心から慕ってくれる貴婦人達が多い。今囲まれているのも彼女を慕う貴婦人ばかりだ。

 その様子を微笑ましく思いながら、僕は僕で他の貴族達と挨拶を交わしていた。そしてやはり、僕のお嫁さんが隣にいない隙を狙って、案の定令嬢を伴い挨拶をしてくる者達がいる。

(疲れたな。
結構皆、自由行動をしているし、宰相が自慢していた庭園でも見ていくか。本当に素晴らしかったらマーガレットにも後で見せてあげよう。)

 横目でマーガレットを見ると、赤ちゃんを抱っこしながら微笑んでいる姿にゾクゾ…いや、母性が溢れているのを感じた。
 同時にそんな女性としての色香溢れるマーガレットを見ている周りの男性貴族の視線にも気付いていた。


(早く、僕の子供孕ませないとなぁ……。)


 宰相自慢の庭園には、宰相が気に入った人しか自由に立ち入れない。警備もしっかりしているし、会場から抜け出してゆっくりするには良い場所だ。

 1人かと思っていたけれど、薔薇の生い茂った隙間から声が聞こえてきた。

「ぅぅぅ…どうじで…グスンっ。」

(先約がいたのか…。しかも泣いてる。仕方ない。別の場所をー…)

 ガサガサと音がして、茂みの間から現れたのはまだ10歳前後と思われる少女だ。その頬には涙の跡があり、手に持ったハンカチを握りしめて、僕と目が合った瞬間、あまりの衝撃と言わんばかりに目を見開いたのがわかった。

「…やっぱりダメなんだ…。」

「……。はい?」

 やっと引っ込んだであろう涙が、僕を見てボロボロと溢れ出す姿に僕とした事が本気で引いた。
 頭がおかしい人なのかと理解して、さっさと逃げようとした瞬間その令嬢は悲痛な声で言った。

「やっぱり、やっぱり辺境伯様はマーガレット様のものなんだぁぁ!!」

 崩れ落ちた令嬢は、少しの沈黙後に、冷静さを取り戻して自分が王太子の前で随分頭のおかしな言動をしていたことに気付いたのか無言で佇む僕を見上げた。

「あ…し、失礼いたしました。ちょっと具合が悪かったもので。あの…。」
「……。」

 チラチラと僕の反応を伺っているが、笑顔で何も言わない僕に視線をそらして、そろりと立ち去ろうとする。

「じゃ、じゃあ…私はこれで…。」

  本来なら、その場で見逃すだろう。頭のおかしな令嬢の叫んだ名前を、同じ名前の別人だろうと考えて。
 でも、と言うのがどうにもひっかかってしまった。

 最近、マーガレットが探していた人物が頭に過ぎる。


 
「今の話を詳しく聞かせてくれるかな?」
「ぁ…いえ。大した話では。」
「それは僕が判断するから。」

  僕の顔を見て、顔面蒼白になって震えている彼女を見下ろす。
 自分より年下の女の子を怯えさせるなんて、マーガレットに見られたら怒られるだろうなぁ…。そんな考えが浮かんで、表情を出来るだけ取り繕った。

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