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訪れたピンチに マーガレットside
しおりを挟むマーガレットがお忍びで城下町に降りた際はその途中にある森林に息抜きとして、立ち寄るのを楽しみにしていた。
今日もまた、森林に立ち寄り美しい泉の見える芝生に腰を下ろして、城下町で購入したパンと飲み物をいつも護衛してくれている気心知れた女騎士リラと共に食べる事にした。
リラには最初こそ遠慮されたが、徐々にその事に慣れてきたのか、今ではすっかり打ち解けている。
騎士と言ってもお忍びなので、私服同然の彼女は何処か美しく凛々しい淑女だった。
(こんなに綺麗で魅力的な女性が騎士団に居たら、きっと恋心を抱く人が…なんて、恋愛小説の読みすぎね。ふふっ。)
そんな事を傍で考えながらも、お茶をしていると、茂みからガサガサと音がした。
「!」
リラは地面に置いていた剣に手をかけると、周りを警戒し始める。
如何やら雲行きが怪しいようで、茂みからはぞろぞろと見るからに野蛮な男達が出てきた。
マーガレットを背にして剣を構えたリラを揶揄うように口笛を鳴らす者が数人いる。その姿は何処か侮りを感じさせる。苛立ちを滲ませてリラは言った。
「何処から迷い込んできた。無礼者共。」
リラが睨み付けるも、気にした様子のない男達は次々と馬鹿にしたように挑発を口にする。
「へへっ。奥にいる女はお金持ってそうだな。大人しく金を出した方が良いぞ。」
「そうそう、女2人じゃなぁ…。」
じりじりと近寄って来る者達に、じっくり様子を見ていたリラは数人が間合いに入った瞬間、鞘で当身を入れていく。
呻き声を上げるも、膝をつかない者達に、リラは舌打ちしながら考えていた。
(抜剣も致し方ないか。人数が多く手加減は出来ない。)
「マーガレット様、お下がりくださ…ー
女騎士リラの言葉を遮るように、数人がかりで剣を突きつけてきた男達の暴挙を遇らいながら、直ぐに体勢を立て直して足に力を入れ、斬りつける。
しかし、男達の中で1番手練れと思われる者がリラの剣を受けとめ弾き返した。
「…!」
次の瞬間、後ろから別の男が振り下ろした棍棒で殴られたリラはそのまま気絶してしまった。
「!!リラ!」
マーガレットがリラの元へ駆け寄ると、それを取り囲んでいる男達はニヤニヤとその姿を見下ろした。
「さぁ、お嬢様。
お金を、私共に恵んではくれませんかねぇ?」
「ー・わかったわ。これを持って行きなさい。」
スカートのポケットにしまっていた巾着を取り出して、男の足元に投げたマーガレットに、巾着を拾った男は嬉々としながらそれを懐にしまう。
そして
「何処かにまだ、隠し持ってるかもしれないな。その女護衛とて金品を持っているかもしれない。」
「!持って来たのはそれだけよ。」
「分からないだろう?隅々まで調べないと」
下卑た笑い声を上げる最中、気絶した女騎士を庇うように毅然と男達を睨みつけているマーガレットを見て男達は尚更テンションを上げている。
「ほら、お嬢様。お洋服を脱ぐお手伝いを致しましょうか?くくくっ…」
そう言ってマーガレットに手を伸ばした時、男達の1人が周囲の異変に気が付いた。
「おい、なんか音がしないか?」
「そうか?…そういや、なんだ?まるで馬がー…ぐぎゃ!!
草わらを掻き分けて姿を現した馬がドカリと男の1人を踏みつけてマーガレットを飛び越え、向かいに居た男達に突進してゆく。馬に踏まれそうになるのを慌てて飛び退いた事で辛うじて男達はかわした。
馬が走り去ったあと、反射的に後ろへ飛び退き距離を取った男達の視線の先には、馬の背から飛び降りた人影に警戒心を表す。
そこには近衛隊の制服を身に纏った騎士がいた。
「な、何で此処に近衛騎士が…。」
「騎士と言っても1人だけだ!一々動揺するな。全員でかかれば問題ない!」
力の差を感じながらも、数の力に安堵感がまだ男達にあるのか、勢いをつけて襲いかかろうとしている。
その様に動じる事なく、静かな怒りをペリドットの瞳に宿した騎士は言った。
「貴様ら、覚悟は出来ているな?」
柄に手をかけて鞘から剣を引き抜こうとしている辺境伯の姿に、先程まで状況についていけず唖然としていたマーガレットは、はっとした。
「…っ彼等を、殺さないでください。」
多勢に無勢なこの状況で何を良迷い事をと思われるかもしれない。
けれどもマーガレットはわかっていた。
この場に居る者の中で、辺境伯は格段上な力が備わっている事は明白であると。
名実共に王の信頼を寄せられている辺境伯は、現状で誰1人命を散らさずに済ませる力を持っている事を。
突然の事に震えてしまい、通常では聞き取れないほどに、か細く小さな声で言葉にしたマーガレットの声が聞こえたのか、柄に掛けられた手は、剣の刃を鞘へとおさめた。
「御心のままに。」
返答と同時に先程まで殺気立っていた気配を鎮めた騎士の姿に、マーガレットが目を見開いた時。
数の力で対抗しようと一斉に向かってきた男達の刃を左手で掴んだ鞘で受け止め流す。
そのまま左腕に反動をつけ、柄で男の溝落ちを攻撃した事で、まずは1人目をその場に倒れこませる最中、間を開ける事なく続けて右手の拳により2人目の顎を殴りつけ、そのまま肘を3人目の頬にめり込ませると膝をつかせ、片腕を後ろ手にしてねじり上げる。
呻き声を上げた男の腕を後ろ手にねじり上げたまま前に突き出して、他の男達にどうするのか、視線で伺うと、
あっという間に3人が倒された事で、残された男達はじりじりと後ずさった。
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