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第3章学園入学
真実は何か1
しおりを挟む「ウルク殿下とライザ様を2人きりにするつもりは無かったんです。突然、私の体調が優れなくなりまして…」
「………ー」
イリンの返答に、ルイスは黙り込んでしんと辺りが静まり返った。
そんな中で急なお客様に対して、おもてなしの準備を整えた使用人達が、ベルンとルイスの前にティーカップを置いて、タイミングを見計らったように部屋から出て行く。
最後に出て行こうとしている使用人が扉の前に立ち、深々と意味深なお辞儀をした後、部屋の扉がパタンと閉じられた。
それまで、黙していたベルンは、優雅な動作でティーカップを口元に運び、一口紅茶を口に含んで呑み込んだあと、ゆらりとカップを揺らす。
「ー・さて、本題に入ろうかしら。貴女はライザを呼び出して、何を吹き込む気だったの?」
すっと目を上げたベルンの鋭い視線に射抜かれて、イリンは反射的にビクリと身体を反応させた。
状況に困惑しながら完全に怯えている様子のイリンは、後ろめたいことでもあるのか、すっと目を逸らした。
そんな様子を見て、ライザはふと思った。
…ーイリンは、第2王子が私をここへ呼び出す為に利用されたのだと思ったけれど、もしかしてそれだけでは無いのかしら。
「…わ、私は。皆様を救おうとしていただけです」
「そうだよ。彼女は兄上と…アウステル公爵を救いたい一心だった」
ウルクはイリンに同調しながら、まるで悲劇を語ろうとしているように、大袈裟に眉根をよせ、右手で顔を覆いながら憂いのある溜息をついた。
「どう言うことかしら?私があんたに助けて貰わなくちゃいけないことなんてあったかしら?」
「兄上は少し…いや大分夢見がちでお優しいですからね、弟としては心配なんですよ」
「あらそう?貴方以外は皆そんなものよ?」
ふふっ…と、一見何のわだかまりの無い仲睦まじく笑みを浮かべ談笑している兄弟だが、言葉の端々には互いに刺々しさを孕んでいた。
そんな中で、シレッと紅茶を飲んでいたルイスをチラリと見て、ウルクは語りかけた。
「アウステル公爵…貴方とライザとの関係は聞きました。炎の中助け出されて恩義を感じて依頼、感謝の気持ちを恋心だと勘違いしてしまったとか」
「…」
第2王子の言動ではルイスに喧嘩を売っている。何故そんなことをするのだろう。ルイスを怒らせて、彼に何かメリットをもたらすとは思えないのに。
ルイスはわざわざ否定するのが面倒なのか、黙って紅茶を啜っていた。
ーーけれど、何故か、ルイスを侮辱されている様に聞こえて沸々とした怒りが心の中に込み上げてきたライザは、思わず口を挟んだ。
「ウルク殿下に、ルイスの何が分かるのですか?人の噂のみで全てを把握した気で語るのはやめてください」
ウルクを見ていたライザは気付かなかった。
それまで反応を示さなかったルイスがライザを見つめていることを。
それに気がついたウルクは、面白いことを見つけたと言う様に、ニヤッと小さく口角を上げる。
「そうか、それは失礼した。
確かに、本当にアウステル公爵があの火事から助け出されたことを恩義を感じて、ましてや恋心を抱いてしまったのであればーー…それ程悲惨なことはないだろう。
違うのであれば良かった」
…何を。言っているのこの人は。
「今日ライザを此処に呼び出したのは、本当にあの火事でアウステル公爵を助けた人物をいつ公にするかと言うことなんだ」
「?何を言ってーー」
「だって。
君は、火に近づけ無いはずなのに。どうやって炎が燃え盛る邸宅に入っていけるんだ?
ーーねぇ、ライザ。嘘はいつかバレるものだよ」
ーーそうか、この人。ウルク殿下は。
私を前世で知っているからこそ、あのことも知っているんだ。
だからこんなに確信して私が火に近づけるはずが無いと思っている。
「どう言う事よ?」
ウルクが何の証拠も示せず、言い出した事とは思えず、ベルンは訝しげに問いかける。
「本当に貴方を救い出した人物は、此処に居るイリン・ヒロアニアですよ」
指し示されたイリンは、照れた様に頬を染めた。
「もしも、あの火事でライザに惚れたのだとしたら、それは偽りの記憶で出来た感情ですよ。ですが、そんなことは無いんですよね?アウステル公爵?」
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