上 下
111 / 121
第3章

カルロの予感 カルロside

しおりを挟む


「くそっ…!胸糞悪い予感がするはずだ…」


 カルロは壁を右手でガンッと殴りつけて、左手にあるペンダントを強く握りこんだ。

 ーー討伐から帰ってきて、このペンダントをテリアに返すつもりでいた。

 事情を話して、すぐに神殿に鑑定をしに行こうとしていたのだ。

 これが一体何なのかを解明するために。

 いっときだとしても何故、俺が暗黒龍を討伐できたのか、何故、大剣が正常な姿・・・・を取り戻せたのか。

 
 早く解明すべきだとわかっているのに、後回しにし続けた。
 自分の中にある何かが、警告をするように胸をざわめかせた。


 あの女、皇妃だった者・・・・は言っていた。〝子爵家にあった資料を見た〟〝この世界の聖女でも暗黒龍の討伐は出来ます〟と。

 ーー異世界の聖女が現れてからの皇妃の処刑。そして、子爵家を見逃さずに追手を放ってまで一族郎党屠ろうとした神殿。


 総合して考えてみれば、もしも暗黒龍を討伐して帰ってからすぐに、神殿へありのままに報告していたら、今回はーー…


 そこまで考えて、頭によぎったのは、昨日、告白した後に頬を赤らめているテリアだった。


「あり得ない」


 考えすぎだと思いたい、だけど。

 ────・確かに俺はこの目で見た。

 処刑台と、叫び声と、手を伸ばした先で間に合わず斬り込まれていた、あいつの姿を。


ーがちゃっ





「ー…お待たせいたしました。
こちらがフェリミア・ロナンテス様からの──────…っ。
陛下、どうされたですか!?」




 手紙を持ってきたスピアが室内に入ると、そこには拳から血を流している皇帝がいた。

 




♢♢♢




このペンダントは、暗黒龍討伐の時、テリアが俺に手渡したものだ。


 『あんたに貸すから。戻ってきたら返してよ』


 暗黒龍討伐に旅立つ前日、誰も俺が無事に帰ってくるなど思っていない中で〝無事に帰ってきてね〟と言わんばかりに手渡されたペンダントー…。

 


 旅に出たのは聖女の泉が見つかったからだ。

 暗黒龍討伐に役立つ可能性にかけていたつもりだった。

 王が持つ大剣には刃がない。

 それを完全な姿にするために、どうしても異世界の聖女が持つ神力を必要としていた。

 大剣の刃は神力であり、神力は異世界の聖女のみが持っているもの。

 

 俺は、聖女の泉に、神力が残っているのなら、大剣が何か反応を示すかも知れないという、僅かな可能性にかけていた。
 
 もし、何も収穫がなくても、聖女の泉と言う誰も知らないものが実在したのだから、次の希望を探そうと思っていた。

ーーしかし、旅の途中で予想外の出来事が起きたのだ。

 テリアから預かったペンダントを眺めていたとき、強い光を放ち、思わず目を閉じた。

 次に瞼を開いた時、それまではただの柄でしか無かった大剣は、白光の刃を身に付けて完全な姿となって、浮いていた。

 刃は橙色と赤の混ざった炎を白光するその身に絡めて、堂々と輝いていたのだ。

 




 龍を1匹討伐したら、元の姿に戻ってしまったそれは。


 確かに神力でつくられたものだった。





 
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

虐げられてきた私は、それでも……

山本みんみ
恋愛
 私──セレスティア・リオンタリが暮らしているリオンタリ子爵家には姉が三人いる。養子に入った私とは血がつながっていない姉たちだ。身寄りのない私を拾ってくれたリオンタリ夫妻はとても優しくて、いつも私によくしてくれる。それをよく思わなかったのか、毎日のように三人の姉から嫌がらせを受けていた。それでも、夫妻の実子である彼女達のことを悪く言ってしまうことで──夫妻に悲しい思いをさせたくない。そう思った私は、その事実を伝えずに耐え続けていた。  そんなある日──近々開催されるパーティーの招待状を届けるついでに夫妻へと挨拶をする為と言って、ダルエス公爵家の御令息である、テオドール・ダルエス様がこの家を訪れる。 いつものように庭仕事を行っている私を見ながら、夫妻と何かを話している様子の彼は……話し終えたと同時にこちらへと歩いてくる。次の瞬間には何故か彼が、私に一目惚れをしたと婚約を申し込んできた。 しばらくしてダルエス家で暮らすこととなって緊張していた私は、夫妻と別れるのは寂しいけど──三人の姉から受けていた嫌がらせがなくなる……そう思うと、気持ちが楽になった。しかし、本当の地獄はここからだった……

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...