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第2章

条件とは  ロザリーside

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 皇帝の言う条件とは何なのか、かつて政敵だったテンペル公爵に大臣の椅子をくれると言うのだ。

 余程の条件なのだろう。次期テンペル公爵になる弟の為、私は絶対にその条件を満たしてみせる。

 息を呑んで皇帝の言葉を待った。

「俺は煩わしい話は嫌いだ。
だから貴様達に求める事だけ言おう。

2年以内にテンペル公爵家を皇妃の完全な後盾となるよう手配しろ。」


「?…それは、皇妃の…とは、テリア皇妃陛下の事で?」

「他に皇妃はいないだろ、案外理解の遅い奴だな。」


「申し訳ございません…、、」

 先程企みがバレた時以上にロザリーは混乱していた。

 皇帝の意図が汲み取れない。テリア皇妃の立場を盤石にする事に皇帝のメリットが思い当たらないからだ。

 
 テリア皇妃は前皇妃が、カルロ皇帝を貶めるために用意した妃である。特段優秀な訳でも無く、見目は良い方だけれどあの程度なら他にも居そうなものだ。

 わざわざ、敵対していたテンペル公爵家の過去を赦し、大臣にしてまで皇妃の立場を盤石にするくらいなら、妃を廃した後、後盾ある皇妃を新たに設けた方が皇帝にも、周囲にとっても楽で納得出来る道だ。

(…ーまさか。

いや、〝まさか〟ではない。

行き着く答えは、一つしかない。

 皇帝はテリア皇妃を自分の伴侶としておきたいんだ。)


「何だ?
先程〝なんなりと〟と言ってたよな?
ここへきて無理だとかのたまうんじゃ無いだろうな?興醒めにも程があるぞ。」
    
「……っ。」


 父である現テンペル公爵はこの話に頷かないだろう。何故なら自分の娘が同じ年頃でいる上に、テリア皇妃に価値を見出していない。

 条件の話をしたら多分こう言うだろう。「あの皇妃で満足するなら、おまえを尚更お気に召すだろう。」と。

 故に父がテンペル公爵のままでは皇帝の条件はクリア出来ない。


(2年以内に、テンペル公爵家の当主を弟に継承させ、テリア皇妃のご実家である子爵家と姻戚になれと?

だけど、テリア皇妃は皇帝と離縁すると言っていたのだけれど…ー)


 色々と課題は山積みで疑問もあるけれど、どうやら皇帝と皇妃で意見が割れているのは確かだ。それも周りの認識とは逆でややこしい。

 要するに皇帝には皇妃を廃する気も離縁する気もないのだ。



 公爵家の事はともかく、あの皇妃様の様子を見るに、一刻も早い離縁を所望しているけれど。

(困ったわ。直ぐに結論を出せるものではない。どうしたら良いかしら…。)

 様子を伺う私を横目で見た後に、夜空へと視線を写していくその紅蓮の瞳は、否を言わせる気はない。


「…恐れながら1つ伺いたき事がございます。」

「何だ?手短にすませろ。」

「その〝条件〟は、陛下にとって重要な事であると思います。
それを何故、かつて政敵であった我公爵家に…?」

「…あの時は殆どの者が政敵だった。 
現在大臣の位にいる者達とて、皆完全な味方で居た者ばかりとは言えない。

ある意味政敵で居た者達よりも信用ならない。どっちつかずだった狸ばかりだ。」

「ー…、、」

「聞きたいのは、これだろ?

どんぐり達が背を比べあっている所、テンペル公爵家にチャンスをやるのは何故か?
貴様はどう考えている?」

 

 我公爵家と、他の家の違い…。
 …まさか?


「…皇妃様に、選ばれたから…ですか?」


「正解だ。」


 (…〝まさか〟だった。さっきまで、凄く格好良い皇帝に見えていたのに。何だか一気に残念な人になったような。)

「……。」


「あいつが適当に選んで手元に置く者は、不思議と信頼がおけるか、使える者、若しくはその両方をもつ者ばかりだ。」

「ー…。」

(何にせよ、今は〝可〟と答える他私に道がない。)

「貴様がどうだか、俺は知らんが、

やめておくか?
テンペル公爵家には無理だと言うなら別の者を当たる。それだけだ。
なに無能でも気にするな、他言しないくらいは出来るだろう。」

 

「い、いえ!是非我公爵家にお任せください。2年以内に必ず、王宮内で皇妃様の地位を盤石となるよう手配致します。」
 

 


 


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