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第1章

アレンの過去2 アレンside

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 わたしが次に目を覚ました時、弟は治療を受けていた。
 この頃数こそ少ないが、子爵領には獣人が奴隷ではなく民として、普通に存在していた。その獣人達と、人の医者が協力して懸命に世話をしてくれていた。

 その中に、あの小さな少女がいた。
 村まで降りてきて、わたしと弟に良いのではと言う薬草を摘んできたりしていた。

 彼女はテリア・ロナンテス。この子爵領の令嬢だと人伝に聞いた。想像していた上流階級の令嬢と違って、彼女は下層階級に混ざって行動をしている。その家族は顔を見せる様子はないが、家族揃って温厚な方々らしい。

 わたしを拾った時は、親戚のパーティーからテリア様が抜け出していたそうで、だからその場にそぐわないドレスを着ていたのだと判明するのはまた後の事。

 だがやはりどんなに無難な服でも、つぎはぎの無く小綺麗な様は、下層階級の中では光っているように見えた。

 その瞳に宿る黄金色の瞳は、真っ直ぐで。

 だけど、弟は皆の手当ての甲斐もなく、数週間後にこときれた。

 墓の前で座るわたしの後ろで、テリア様が泣いていた。

「何で、見ず知らずの他人である貴方が泣くんですか?」

「そんなの。かなしいからっ。…っ!
だって、だってわたしのいもうとが、しんじゃったらてかんがえっ。ウェェェン!!!
アレンがなかないからぁっ!なんでぇぇぇ。」


  大きな声で年相応に泣いているテリア様を見て、わたしの瞳からも涙が溢れてきた。もうこんなに素直に泣かないと思っていたのに。


 心の中には小さな弟が『お腹すいたよ。お兄ちゃん。』『寒いよ。お兄ちゃん』そう言って、小さい身体を必死にくっつけて、わたしにしがみついていた。

 見るからに獣人である弟を持って、煩わしく無かったと言ったらそれは嘘だ。
 人間のフリをしていた方が、ただの奴隷や乞食だとしても何倍も生きやすい。

 だけど、それでもやっぱり、守りたかったのだ。
 守れるだけの力が欲しいと思った。でもこの世は生まれながらに既に運命が決められていた。
 わたしが弟の為に出来る事は跪いて慈悲を乞う事だけだ。

 この先、ずっと。1人でそう言う世の中で生きて行くのかと絶望した。もう守るものもない。

 何も、ない。


 
 それから3日間。行く宛のないわたしは弟の墓の前で座り続けた。

 この領地の者達は優しくて、皆がチラホラと声を掛けてくれた。食事の心配をしてくれた。

 だけど、もう遅いんだ。
 助けて欲しい時に、欲しい言葉が無くて弟は手遅れになったのだから。
 

「アレン、わたしといもうとのしつじにきまったの。」

 ある夕暮れ時の事、墓の前に座るわたしの横に立ってテリア様が言った。

 正直何を言っているかわからない。

 (しつじって言うのは、執事のことか?いや幻聴か。)

「何かの…ごっこあそびなら…他のものに頼んでください。」

「ここにいるひと、わたしのいえにおかねはらってる。
でもアレンはらってない。」

 そう言われるとぐうの音も出ない。

(…テリア様って、もしかしてかなり頭が良いのか?)

「…働けと。…そうですね。もっともです。分かりました。」

 この時既にわたしには、生きる為に働く気力は残っていなかった。そろそろこの地を去ろう。そして迷惑のかからない所でのたれ死のうとさえ思っていた所だ。

 テリアは首を横にフルフル振って、にこりと笑う。

「めいれいなの!
アレンきょうからわたしのしつじなの!」


 「ん?」

 ボンヤリしていると、テリアの後ろから後の同僚となるユラと言う少女がわたしの腕を捻り上げる勢いで掴んで馬車に放り込んだ。


 それからと言うもの、何ら説明もなく、逆らう気力もないわたしは言われるままに教育を数ヶ月に渡り受けた。


 そして、テリア様はわたしを拾った店先へ連れてきた。

「此処で、何をする気ですか?」

「ふくしゅう!アレン、おこっていい。ここのひとアレンたちをけった。だからアレンもけっていい!」

 
「はい?」




 
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