上 下
38 / 121
第1章

獣人の隠れ里1

しおりを挟む
 私達は今、王都から馬車で3時間ほどで到着するドルイド地区に向かっていた。其処は森の奥深くに、ドルイドの神聖な滝をよりしろに獣人の隠れ里があるから、きっと獣人であるアリスティナ姫の居心地が良いのではないかと考えたからだ。

 馬車で揺られながら、アリスティナ姫を気遣った設計のその馬車は広い作りになっていて、小さな寝床が完備されており、獣人の隠れ家に到着するまではアリスティナ姫には身体を休めてもらう為睡眠を取ってもらう事にした。

 なので、今アリスティナ姫は猫と共にその小さな寝床に横たわっている。

 アレンとユラには今後の動きを相談する為にテリアの向かいに座ってもらった。

「あのね、今から行く所にあるドルイドの滝って、昔聖女様がそこで修行してたんだって。だから、その滝壺に沸いている泉の水を飲んだらたちまち何かご利益ないかな?」

 テリアの申し出に、ユラが真剣に「それは効き目がありそうですね!」と頷く中、暫く黙っていたアレンが口を開く。

「何でテリア様はそのような事を知っているのですか?」

「聖女教育でね!聖女にまつわる事は教わってるのよ~。
尊敬した?」

 胸を張って答えるテリアに、アレンは小さく首を振る。

「いえ、そちらの話では無くて。
獣人の隠れ里が其処にあると、何故言い切れるのですか?」


「(…ちょっとは尊敬して欲しいなぁ)
そんな事、皆んな知ってるんじゃないの?」

「知るわけないでしょう。何の為の〝隠れ里〟ですか。人目を避けて生活してるからでしょう。」

「…そうなんだ。何で隠れてるんだろう…?
照れ屋なのかな?獣人って。

でも子爵領の獣人達は全然平気そうだったのに地域柄なのかな?」

 テリアの反応にユラは苦笑いをして、アレンは左手で顔の半分を覆って溜息をついた。

「……で、隠れ里を誰かに聞いたんですか?
信憑性あるものかを判断したいのでそれだけ答えてもらえますか?無駄足踏みたくないので。」

「やぁね!信用してないの?
猫が教えてくれたのよ。」

 アリスティナの横で丸くなって寝ている猫に視線が集まり、アレンの頭には頭痛が湧き出て来たのは言うまでもない。
 眉間にシワを寄らせるなと言う方が無理な話だ。

「まさか、テリアお嬢様はその猫が言葉を話したと言ってます?」

「そんな訳ないじゃない!」

「ですよね。安心しました。」

「私が猫の言葉を分かるようになって来たのよ。まだ単語少しだけど。

やっぱり言語を覚えるのは大切なのよね!」

 途端に顔を覆って項垂れているアレンに、ユラは何かに耐えるように額から汗をだらだらと流しながら唇をひき結んで目を閉じて瞑想している。


(…2人とも馬車で酔ってしまったのかな?)

 
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

虐げられてきた私は、それでも……

山本みんみ
恋愛
 私──セレスティア・リオンタリが暮らしているリオンタリ子爵家には姉が三人いる。養子に入った私とは血がつながっていない姉たちだ。身寄りのない私を拾ってくれたリオンタリ夫妻はとても優しくて、いつも私によくしてくれる。それをよく思わなかったのか、毎日のように三人の姉から嫌がらせを受けていた。それでも、夫妻の実子である彼女達のことを悪く言ってしまうことで──夫妻に悲しい思いをさせたくない。そう思った私は、その事実を伝えずに耐え続けていた。  そんなある日──近々開催されるパーティーの招待状を届けるついでに夫妻へと挨拶をする為と言って、ダルエス公爵家の御令息である、テオドール・ダルエス様がこの家を訪れる。 いつものように庭仕事を行っている私を見ながら、夫妻と何かを話している様子の彼は……話し終えたと同時にこちらへと歩いてくる。次の瞬間には何故か彼が、私に一目惚れをしたと婚約を申し込んできた。 しばらくしてダルエス家で暮らすこととなって緊張していた私は、夫妻と別れるのは寂しいけど──三人の姉から受けていた嫌がらせがなくなる……そう思うと、気持ちが楽になった。しかし、本当の地獄はここからだった……

恋人が聖女のものになりました

キムラましゅろう
恋愛
「どうして?あんなにお願いしたのに……」 聖騎士の叙任式で聖女の前に跪く恋人ライルの姿に愕然とする主人公ユラル。 それは彼が『聖女の騎士(もの)』になったという証でもあった。 聖女が持つその神聖力によって、徐々に聖女の虜となってゆくように定められた聖騎士たち。 多くの聖騎士達の妻が、恋人が、婚約者が自分を省みなくなった相手を想い、ハンカチを涙で濡らしてきたのだ。 ライルが聖女の騎士になってしまった以上、ユラルもその女性たちの仲間入りをする事となってしまうのか……? 慢性誤字脱字病患者が執筆するお話です。 従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティのお話となります。 菩薩の如き広いお心でお読みくださいませ。 小説家になろうさんでも投稿します。

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

処理中です...