ただ、愛を貪った

夕時 蒼衣

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真夜中の電話。

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 日曜日の真夜中。その電話は突如として、鳴り響いた。私は眠気眼で携帯をとった。
「はい…」
 こんな時間に、いったい、何の用かと、鈴村綾香は眠いながらにも疑問を感じた。仕事用の携帯ではもちろんない。何か不幸なことが起きたのではと考えたが、その考えはすぐに打ち消された。その電話の声は、私の愛してやまない人だった。電話が来たのはこれが、初めてだった。電話番号は交換はしていたものの、メールでいつも約束事は決めていた。
「今週、土曜日にあの家に来い。」
 たった一言、その言葉だけ言って、彼からの電話は切れた。一方的な電話。興奮したような切羽詰まったような、調子だった。彼に求められているようで、うれしかった。彼が私を欲しているのだと思った。私は、様子のおかしい彼を好意的に受け止めることでその場を、何もなかったかのようにした。

 俺は三葉を部屋から追い出した後、携帯で、鈴村綾香という名前を探した。都合の良い女を最後に都合よく使う算段がついた。綾香はきっと、俺のことを思って、泣いて喜ぶだろう。真夜中だったが、そんなことはお構いなしに、躊躇することなく電話をかけた。4コールしたくらいで、眠そうな声で、綾香が電話にでた。綾香の声をきいて、俺は愕然とした。こんなに魅力のない声だったのかと感じた。老けた声。俺は一言だけ告げると電話を一目散に切った。綾香の声をききたくなかった。こんな、婆さんの声。俺はこんな女に、救いを求めていたのかと、思わず苦笑いした。
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