ただ、愛を貪った

夕時 蒼衣

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クズとボロきれ

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 その次の週、私と日野さんは前の週に会えなかった分、激しく求め合い、愛し合った。相変わらず、日野さんの愛し方は暴力的なところがあったけれども、それでもただ、日野さんに必要とされている、という確証を得られている気がして、そんなことはあとはどうでもよかった。何度もキスをした。深く深く愛し合った。でも、それ以上の関係になることは許されなかった。彼には家庭がある。私は、腐っても社会人だ。ここで足を踏み外すわけにはいかなかった。ぎりぎりの境界線上を私たちは歩いて行った。一歩踏み外せばそこは奈落の底だ。私たちの生きる世界で、過ちを犯すということは、社会的に追い詰めなれるということなのである。社会は可哀そうな大人たちに容赦なんてない。大人の世界は厳しく、視線は鋭く冷たい。私たちはその視線をよけながらぎりぎりを渡るほかないのだ。それが、私たちの置かれている立場であり、せめてもの罪滅ぼしなのだ。
 私は彼を愛している。どんな愛され方でもいい。彼が私を必要としてくれるのなら、それで十分なのだ。私は誰かに必要とされたい。でも、それは私を縛るものでは駄目なのだ。縛る縄はどこまでも緩く、それにして私に跡を残す。そんな刺激的な愛を私は愛した。
 彼は私に家族のことについては何も話さなかった。私もそれについては、触れなかったし、私自身も家族の話はしなかった。私たちは互いのことを熟知しているようで、まったく知らなかった。彼について私が知っていることと言ったら、私と同じで、あの小説家の作品が好きなくらいだ。あとはこの無機質な空間が彼の正体をあやふやなものにしていた。
 私は彼を愛している。そうは言っても、彼の家庭を壊してまで彼と一緒になりたいと望んでいるわけではない。ただ、このどっちつかずのこの愛が刺激的で、心奪われた。
 彼といる時だけは、母のことも忘れることができた。つかの間の幸せ。そんなこと言ったら、近所の人たちは大激怒かもしれないが、事実そうだった。あの、忘れたくても、ずっと私の心を支配している母親の呪縛からほんの一瞬だけ解放されることができた。彼といる時だけは、母親のことを忘れることができた。
 ずっと、彼と一緒のいたい。そう思える。明日も明後日も、ずっと彼の隣にいたい。あの家に帰ることもなく、永遠にこの社会の外れで彼と二人きりの世界を生きていきたいと思っている。誰にも邪魔されずに。それこそ、日野さんの家族もいないも同然に、ただ愛をひたすらに貪りたかった。
 社会の目は厳しい。そんなことはわかっている。でも、今このときばかりは、私たちだけの世界を築きたかった。日野さん。私を愛して。悟、私はあなたがどうしようもないくらいくらいに、愛しています。
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