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日曜日
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俺は三葉と一緒に、午前中から外に出た。そのあいだ、他愛もない話をした。今日も三葉の体調はよかった。手をつないで目的の場所まで歩いて行った。つないだ手に力は入っていなかった。
「蝉が鳴いているわ。」
銀杏の葉が黄色く色づいていた。紅葉が太陽にかざされていて、輝いていた。もう、肌寒い季節になっていた。日曜日だというのに、ジョギングをしている人としかすれ違わなかった。
家から、歩いて20分くらいの場所にその建物は立っている。全体的に白い外壁で清潔感のある、大きな建物。ちょうど、中から車いすに乗り、看護師さん一緒に話をしている男性がこちらを見て、挨拶している。
「こんにちは。今日も、息子さんに会いに来たんですね。」
毎日まいにち、三葉はここに来ているからだろうか。そう言って、彼は会釈をするとまた、看護師さんと話の続きをしだした。三葉はというと、ただ、黙って微笑んだだけだった。三葉はこういう付き合いが苦手だ。いや、苦手になっていた。
受付を済ませると、迷うことなく廊下の隅にあるエレベーターに乗った。二階の奥から2番目の部屋に蒼汰はいた。
「蒼汰、お父さんが来てくれたわよ。久しぶりでしょ。」
だけれども、蒼汰がその言葉に反応することはなかった。ベッドに寝た切りの蒼汰にはいくつものチューブがつけられていた。枕の横には彼がまだ生きているという証である、パラメーターがずしりと重みを感じさせている。これが、蒼汰の命だ。
「また、クッキーを焼いてきたのよ。好きでしょ。蒼汰は。」
三葉は持ってきたカバンから、紙袋を取り出し、テーブルに置いてあった平たい皿にクッキーを出した。その光景は異様だった。すでに何枚も乗っているクッキーは皿から落ちそうになっていた。それに気が付かないかのように、三葉は何のためらいもなく、その上に次からつぎへとクッキーを並べていった。皿はクッキーの山になっていた。
「蒼汰。おいしい?…そう、よかった。」
三葉は蒼汰に笑いかけた。息子を可愛がる母親だった。ただ、三葉の笑顔に生気はもう感じられなかった。
家に帰ってきた。三葉はまた、クッキーを焼いている。鼻歌を歌いながら。三葉はどこか遠くを見ているようだった。悲しみと幸せが同時に彼女を襲うようだった。疲れた表情にも見えた。
家に帰ってきた。一週間ずっとこの家に帰ってきたのは、いつぶりだろうか。俺はその答えを知っている。そう、三年前のあの夏の日。あのころまで私はずっとこの家に毎日帰ってきていた。あのアパートを借りることも、あの日まで、ずっと、なかった。
「蝉が鳴いているわ。」
銀杏の葉が黄色く色づいていた。紅葉が太陽にかざされていて、輝いていた。もう、肌寒い季節になっていた。日曜日だというのに、ジョギングをしている人としかすれ違わなかった。
家から、歩いて20分くらいの場所にその建物は立っている。全体的に白い外壁で清潔感のある、大きな建物。ちょうど、中から車いすに乗り、看護師さん一緒に話をしている男性がこちらを見て、挨拶している。
「こんにちは。今日も、息子さんに会いに来たんですね。」
毎日まいにち、三葉はここに来ているからだろうか。そう言って、彼は会釈をするとまた、看護師さんと話の続きをしだした。三葉はというと、ただ、黙って微笑んだだけだった。三葉はこういう付き合いが苦手だ。いや、苦手になっていた。
受付を済ませると、迷うことなく廊下の隅にあるエレベーターに乗った。二階の奥から2番目の部屋に蒼汰はいた。
「蒼汰、お父さんが来てくれたわよ。久しぶりでしょ。」
だけれども、蒼汰がその言葉に反応することはなかった。ベッドに寝た切りの蒼汰にはいくつものチューブがつけられていた。枕の横には彼がまだ生きているという証である、パラメーターがずしりと重みを感じさせている。これが、蒼汰の命だ。
「また、クッキーを焼いてきたのよ。好きでしょ。蒼汰は。」
三葉は持ってきたカバンから、紙袋を取り出し、テーブルに置いてあった平たい皿にクッキーを出した。その光景は異様だった。すでに何枚も乗っているクッキーは皿から落ちそうになっていた。それに気が付かないかのように、三葉は何のためらいもなく、その上に次からつぎへとクッキーを並べていった。皿はクッキーの山になっていた。
「蒼汰。おいしい?…そう、よかった。」
三葉は蒼汰に笑いかけた。息子を可愛がる母親だった。ただ、三葉の笑顔に生気はもう感じられなかった。
家に帰ってきた。三葉はまた、クッキーを焼いている。鼻歌を歌いながら。三葉はどこか遠くを見ているようだった。悲しみと幸せが同時に彼女を襲うようだった。疲れた表情にも見えた。
家に帰ってきた。一週間ずっとこの家に帰ってきたのは、いつぶりだろうか。俺はその答えを知っている。そう、三年前のあの夏の日。あのころまで私はずっとこの家に毎日帰ってきていた。あのアパートを借りることも、あの日まで、ずっと、なかった。
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