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電車の彼(名前は不明)

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 時刻は午後11:00。私は飲み会の帰りでいつも以上に帰りが遅かった。電車はそこそこ空いていると言えば空いていたが、これはあくまで通勤ラッシュに毎日乗っている私の感想であって、現に今すぐにここで私が座る席はない。
 目の前には若い男女が座っている。二人の手には某テーマパークのお土産袋がぶらさがっており、女の子の方は、うとうとと、さっきから頭が下におこっちている。男性の方も疲れているのだろう。女の子のようにはなっていないにしても、だいぶ目が眠そうだ。今にもまぶたが落ちそうなのを必死にこらえているような様子だった。 
 まあ、この時間だし、寝過ごすわけにはいかないのだろう。良い彼氏さんだなと思いながら、しばらくそのカップルを眺めていた。
 女の子が完璧に寝てしまったようで、もう頭が上下することもなくなった。男性の方も目が閉じかけている。どんなに眠くても、お土産をきちんと握りしめているところがなんとも言えない、かわいらしさを感じた。そういうところは、まだまだ子供のようだと微笑ましく、わたしは二人を見守っていた。
 二人とも今どきの若者っぽい格好で、おそらく起きていて、二人で並んで歩いていたら、全くの別人に見えるだろう。女の子は薄っすらとお化粧をしていた。まだ、体がちいさく、高校生くらいなのかと思う。初デートかなとかいろいろ想像して、(いや、初デートでそんな遊園地とか行かないと思うが、これは妄想なので好きにさせてもらいます。)朝から遊びに行っていたのだと考えると、若いっていいなと思う。
 こっちは朝早起きなことは同じでも通勤ラッシュに揺られて、その後はデスクに座りっぱなしだ。私の相棒はというと、デスクの真ん中にどうどうと座っている、あのパソコンくらいだ。他には、日中、ほとんど話しかける相手はいない。話すことはあっても、仕事の業務内容くらいである。
 わたしが一人で黙々とパソコンに向かっている間に、この二人はジェットコースターに乗り、ティーカップに乗り、写真を撮りと楽しくやていてのだと思うと、ああ、なんていい身分なんだろう。1日だけでいいから、あの時に戻りたい。
 ふと、女の子の頭が向かい側の会社員と思われる人物の方に傾いていることに気が付いた。会社員と言っても、まだまだ若い。スーツがよく似合う好青年だ。私が気が付いたそのすぐ後に、男性の方もその状況に気が付いたようだ。最初は眠い目をこすりつつ、私と同じように見守っていた。しかし、女の子はどんどん会社員の方に傾いている。もう少しですっぽりと、好青年の肩に乗りそうである。
 それからはすぐだった。彼は女の子の肩を自分の方に傾けると、優しく自分の肩に彼女の頭を乗せた。そのあと、しばらくして、彼もまた目を閉じた。彼自身も彼女の方に少しだけ傾いていた。寄り添うカップルに不思議と嫌な感じはしなかった。

次話、宅配便のお兄さん。
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