上 下
2 / 7

桜木 翔(かける)~王道、学園の王子様~

しおりを挟む
 冴えない私はいつものように廊下の隅を、一人で歩いていた。ああ、きょうも、いい天気だななどと、のんきに考えながら歩いていると、いきなり衝撃が走った。痛っ。
「ごめん!!ちょっと急いでるんだ。本当にごめんね。」
 そう言って、その声の主は走り去ってしまった。私は、ついにそこまで影が薄くなったのかと自虐的なツッコみで心の中で笑った。まさか、こんな広い廊下で誰かにぶつかるとは思っていなかった。運動部はみんなこの時間は、部活が始まる時間らしく、終学活が長引いたクラスからこうやってよく走りこんでくる。しかし、どの人も華麗に障害物をよけるようにステップを踏み避けていくというのに。それに、私の前にも後ろにも生徒は歩いているなのになぜ私にだけ体当たりしてきたのだろうと本気で考えていると、後ろから黄色いが張りあがった。
「大丈夫?ケガしてない?」
 そう、尋ねてきたのは紛れもなく王子だった。この五華孟学園、通称イケ学には王子と呼べれるイケメンが存在するのである。黒髪で、チャラいわけでもないけど、その甘いマスクに、この学校の女子はメロメロである。おまけに全国模試では成績上位者として名前がのるような秀才っぷりである。そんな王子が私に話しかけてきたのだ。もう、むしろ、話しかけてくださったと言った方がいいかもしれない。
 そして王子は私に手を差し出してくれた。
「本当にごめんね。さっきのは、僕のクラスメートなんだよ。わざとじゃないんだよ。どうか許してあげてね。」
 そういいながら、私の手をにぎり、私を立たせてくれた。ふらっとして転びそうになっても王子は優しく支えてくれ、大丈夫?と微笑んでくれた。そして、最後にその手の甲にそっと唇を当て、「では、またね。かわいい、お姫様」といった後、華麗なステップで廊下の奥へ消えていった。
 それを見て、また女の子が騒ぎはじめる。「今の聞いた?お姫さまって!それに手の甲にキスも!さすが王子‼あの子、本当に運がいいわ。私もあそこにいたらよかったわ。すこしばかり、吹き飛ばされても、王子が労わってくれるんだもの‼」
 私は手の甲を見て、うっとりとした。この世に本当に王子様はいるんだと確信した。身体を支えてくれた王子のシャンプーの香りを思い出し、胸が弾む。また、ここに来たら、運動部に突き飛ばされるかな。なんて、淡い期待を胸に学校を後にした。

次話、双子の幼馴染。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

夫以上の男、妻以上の女

ヘロディア
恋愛
不倫相手とデートに行く主人公。 その相手も既婚者で、かなり質の悪い行為とは知っていたものの、どうしてもやめられない。 しかしある日、とうとう終わりを告げる出来事が起きる…

泥々の川

フロイライン
恋愛
不遇な生活を送る少年、祢留の数奇な半生。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

処理中です...