上 下
9 / 39

9.村の少年

しおりを挟む
 森の入り口で、もう魔獣もいなくなったので、そろそろ転移して、邸に戻ろうかと思っていると、少年が草を掻き分け、薬草を採っているのを見つける。

「ここは、浄化したけど、まだ、魔獣の取りこぼしがいるかもしれないから、子供はまだ立ち入り禁止だよ。」

 浄化して、まだ、いっときも経っていない。
 こんなところに子供がいるのは、危険過ぎる。

「私達と一緒にもう少し森の外まで、出ましょう。」

「いいの。
 ここなら、みんな入って来ないから、薬草たくさんあるもん。」

 少年はこちらを見ようともせず、せっせと薬草を採っている。

「魔獣にやられるかもしれないって、言ってるんだ。」

 そうレオナルドが言うと、少年は手を止め、涙を浮かべながら、二人を初めて見る。

「ごめんね。
 私達あなたが心配なだけなの。
 親御さんもここにいるのを知ったら、悲しむわ。」

「ママは、もう僕がここにいても、わからないよ。
 ママはもう三日も意識がないんだ。
 お医者様ももう無理だって。

 だから、僕、王都の治癒魔法師の人に来てもらえるように薬草を売って、お金を作るんだ。
 ママが死んじゃったら、僕一人になっちゃう。」

「お母さんはそんなに悪いの?
 だったら、私達も薬草を採るの手伝うわ。」

 そう言って、キャロライナは少年と一緒に屈んで、薬草を採り始める。

「やっぱり言うよな。」

 レオナルドはキャロライナが少年を見て見ぬふりができない人だと、薄々感じていたので、諦めて、薬草採取に加わる。

 そして、少年の籠いっぱいに薬草が採れたので、二人は森の外の魔獣が出ない安全なところまで、少年を送ることにする。

 村へ続く道を歩いていると、村の入り口で、中年のふくよかな女性が走り寄って来る。

「マルコ、お母さんが血を吐いたわ。
 お医者様がもうダメだって。」

 少年は薬草の入った籠を投げ出し、慌てて走り出した。

 キャロライナは少年が心配で、後を追うと、小さな家のベッドに少年の母親と思われる青白く、痩せた女性が横たわっている。
 その後をレオナルドが追いつき、女性を見つめる。

「ママ、僕をおいていかないで。」

 少年はその女性の手を握りながら、涙を流している。

「レオ、私達で何とかならないかしら。
 転移して、治癒魔法師の方を連れてくるのは、どうかしら。

 費用は建て替えてくれたら、私が後から払うわ。」

 キャロライナはレオナルドに頼み込む。

「治癒魔法師はそもそも人数が少なく、一日に治癒できる人数も限られる。 

 だからすぐに治癒魔法師に来てもらうことは王族でも難しい。

 リーのつてを使って依頼したとしても、この状態だと間に合わないだろう。」

「そんな。
 レオは治癒魔法は使えないの?」

「ほんの僅かならあるけど、治癒できるほどでは、ないと思う。」

「今私達は二人だわ。
 二人の魔力を合わせて、ちょっとでも可能性があるなら、やってみましょう。

 私はどうなってもいいから。
 お願い、レオ。」

 そう言って、キャロライナがレオナルドを見つめると、少年もレオナルドを見つめ、二人のウルウルした瞳に見つめられると、

「わかった。
 やるよ。
 でも、期待するなよ。」

 と言いながら、レオナルドはキャロライナの手を握りながら、女性に手のひらをかざして、治癒魔力を流す。

 すると、青白かった女性の顔色は、少しず良くなり、苦しそうだった呼吸も穏やかになっていく。

 それと、反対にキャロライナは全身から力が抜けていき、めまいもどんどん強くなり、その場にぐったりとうずくまる。

「お姉さんっ、大丈夫?」

「私は大丈夫よ。」

 何とか返事をするものの、もう立ち上がることさえできなくなっていた。

 レオナルドもまた、青白い顔色をしながらも歯を食い縛って、なんとか耐えていた。

「もう心配はいらないから、後から邸の者をよこす。」

 レオナルドは何とか言葉を発した後、ぐったりしたキャロライナを抱えて、最後の力を振り絞り、ローレンス邸に転移する。

 そして、キャロライナをベッドに寝かせると、トラバスに指示を出し、レオナルド自身も自室のベッドになんとか辿り着き、深い眠りについたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

【完結】その手を放してください~イケメンの幼馴染だからって、恋に落ちるとはかぎらない~

紺青
恋愛
辺境の村に住むルナには、幼馴染がいる。 幼馴染のダレンは体格よし、顔よし、剣も扱えるし、仕事もできる。その上愛想もよく、村の人気者。 村になじまない色彩をもつため、家族からも村人からも遠巻きにされるルナを唯一かまうのはダレンだけだった。 しかし、ルナは自分にだけ、意地悪な面を見せるダレンが苦手で嫌いだった。 村やダレンから逃げ出したいと思いつつ、そんなことは無理だと諦めていた。 しかし、ルナはある日、「人喰い魔女」と呼ばれる薬師のおばあちゃんと出会って…… 虐げられてもくじけない頑張り屋の女の子×美人なチート魔術師の冒険者ギルド職員のカップルが紆余曲折を経て幸せになる物語。 ※外見による差別表現、嘔吐表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

【完結】愛を信じないモブ令嬢は、すぐ死ぬ王子を護りたいけど溺愛だけはお断り!

miniko
恋愛
平凡な主婦だった私は、夫が不倫旅行で不在中に肺炎で苦しみながら死んだ。 そして、自分がハマっていた乙女ゲームの世界の、どモブ令嬢に転生してしまう。 不倫された心の傷から、リアルの恋愛はもう懲り懲りと思っている私には、どモブの立場が丁度良い。 推しの王子の幸せを見届けよう。 そう思っていたのだが、実はこのゲーム、王子の死亡フラグが至る所に立っているのだ。 どモブでありながらも、幼少期から王子と接点があった私。 推しの幸せを護る為、乱立する死亡フラグをへし折りながら、ヒロインとの恋を応援する!と、無駄に暑苦しく決意したのだが・・・。 ゲームと違って逞しく成長した王子は、思った以上に私に好意を持ってしまったらしく・・・・・・。 ※ご都合主義ですが、ご容赦ください。 ※感想欄はネタバレの配慮をしてませんので、閲覧の際はご注意下さい。

【完結】男爵令嬢が気にくわないので追放したら、魔族に侵略されました

如月ぐるぐる
恋愛
*タイトル変更しました マイヤー男爵家は王国に仕える最古の貴族の1つ。 その役目は『魔の森から国を護る』こと。 それが当たり前だと思っていたジェニファーだが、王城でお茶会をしている令嬢・奥方達の会話に驚愕する。 「魔の森なんて、森が深いだけで何もありませんわ。守護なんて楽なお役目ですこと」 魔の森。マイヤー家が代々受け継いだ役目は、魔物や外の脅威から国を護る仕事だったのだ。 ※最初は男爵令嬢視点です。

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~

参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。 二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。 アイシアはじっとランダル様を見つめる。 「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」 「何だ?」 「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」 「は?」 「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」 婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。 傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。 「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」 初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。 (あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?) ★小説家になろう様にも投稿しました★

処理中です...