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9.お忍びのお客様

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 結婚式のドレスのオーダーが先日終わり、ルーク様は朝早く王宮にむかわれた。

 私とのことで執務が溜まっているのだろう。

 ミラは一人でゆっくり落ち着くことができ、ぼんやりと庭園でお茶を飲んでいると、薔薇のアーチの陰から平民の服をまとうオーウェン第一王子が、顔を出した。

 慌てて立ち上がり、礼を執ろうとすると

「今日はお忍びだから、いいんだ。
 それにカイルに代わって謝罪したいのは、私の方だ。
 本当に申し訳なかった。

 私はミラ嬢と家族になれると思っていたのに、とても残念だよ。

 本当は私が婚約者になりたかったくらいだけれども、私はすでに王女を迎えているからねえ。」

「もったいないお言葉です。
 私がいたらないばっかりに、このようなことになってしまいました。」

「いや、君に落ち度はなにもないんだ。
 それより今日は聞きたいことがあって、来たんだ。」

「私で答えられることでしたら、何なりとおっしゃってください。」

「ありがとう。
 じゃあ、早速だけど、君は以前からルークと関わりがあったのかい?
 でなければ、この早すぎる婚約の説明が、つかないんだ。

 半年前から、舞踏会でカイルのために会話しているのは、知っている。
 でも、その時だって、自分からすすんでなったんだ。
 突然のあいつの行動に当時周りは、理由を勘繰ったんだ。

 何かしらの政略的魂胆があるのでは、とまで噂されたけど、結局わからずじまいさ。

 それで、今回のことを、私から本人に聞いたら、好きだからってそれだけさ。
 今までは、そういう話から無縁の男だし。

 君はどう思う?」

「慈善活動をしてくれる妻を探してて、私はすすんで行っているからと、伺っております。
 頼まれて渋々行う方は嫌だと。

 多分、少しは関わりがあった私を、気の毒に思ってくれたのでしょう。

 それに、半年前に言葉を交わすようになりましたが、それ以前に、お会いしたことはありません。」

「慈善活動してくれる妻が欲しかっただって?
 初耳だよ。

 そもそもあいつは人間嫌いだし、一生結婚する気はないって言っていたんだ。
 後継も、親戚の中から養子をもらうって。

 それに、気の毒だから結婚するなんて、そんな生優しい男ではないんだ。
 ますますわからないな。」

 オーウェン王子はそう言って、首を捻る。

 そうしていると、邸の方から、ルーク様が慌てた様子でやって来た。

「オーウェン様、何故こちらに。
 王宮ではいなくなったと大騒ぎです。

 それに、ミラに会うなら、私を通していただかないと。」

「ルークのいないところで話したかったんだ。
 僕達は義兄妹になる予定だったし。」

「それは過去のことです。
 今は私の婚約者ですから。」

 と言って私とオーウェン王子の間に立ち、二人の視線を遮った。

「なるほど。
 好きだから結婚するって言っていたのは、案外嘘と言うわけじゃないんだね。
 では、ミラ嬢。
 今日はありがとう。
 また、会おう。」

 そう言うと、ルーク様を伴い、去って行った。

 先ほどオーウェン王子はルーク様が私を好きだから結婚すると言っていた、と話していた。

 そんなことがあるのだろうか。

 私には政略結婚と言っていたけど、周りの方たちがどう思うかに配慮して、そう言ってくれたのね、多分。

 傷物令嬢である私が、少しでもよく思われるように。

 ルーク様には、とても優しくしていただいてるし、これ以上の幸せはないわ。

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