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6.一人で
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邸を出た私は、王都のどこに修道院があるのかよくわからなかった。
私の人生で関わることになるとは、全く思っていなかったから。
子沢山で金銭に余裕がない実家には迷惑をかけたくないから帰れないし、だからと言って何かできそうな商売すらない。
そんな私は、やはり神に仕えるしかないだろう。
とぼとぼと道を歩いていると、今一番会いたくない人と会ってしまった。
ヨアネスである。
彼は乗っている馬車を止めると、私に話しかけて来て、無視してもお構いなしに話す。
「お前こんなところを一人で歩いて、危ないだろう。
ギルマン侯爵家の馬車は?」
「出してもらえなかったの。
ヨアネスに関係ないわ。」
「馬車すら出してもらえないのかよ。
可哀想なやつだな。
だったらいいから馬車に乗れよ。
どこ行くつもりか知らないけれど、この道最近追い剥ぎがあったところだぞ。
どうして歩くならもっと大きな道を選ばないんだ?」
「大きな道がどこなのか、わからないの。」
「しょうがないな。
だから、早く乗れ。」
私は追い剥ぎは怖いし、駄々を捏ねても仕方ないので、馬車に乗せてもらうことにした。
「お前、ギルマン卿とうまくいってないのか?
顔色も悪いぞ。」
「嫌われてしまったみたい。
私が約束を守らないで、彼を拒否したから。」
私は涙が溢れ出た。
本当は私ずっと泣きたかった。
ヨアネスのことは嫌いだけれど、幼馴染だから、お互い気兼ねなく思ったことを話せるのだ。
マーカス様ともこうやって話せたら、わかり合えることができるはずなのに。
マーカス様にどうしても許して欲しかったし、もう一度抱いて欲しかった。
もう、すべてが遅いけれど。
「おい、泣くのかよ。
あんな格上の男と結婚するからだぞ。
好き勝手に振り回されて、終わりだろ?」
「そうなのかも。
私が高望みして無理して結婚したから。
だから、うまくいかなかったのかも。」
「俺のところ来るか?
妾にならしてやれるぞ。
俺あの後、結婚しちゃたから。」
「ダメよ。
あなたのところには行きたくない。
それにヨアネスの奥様に悲しい思いをさせたくないの。
だから、修道院まで乗せて行って。
私そこに入るわ。」
「本気かよ。
ギルマン侯爵とはどうするんだ。」
「離縁するわ。」
「後から俺のせいにされたら困るんだけど。」
「大丈夫よ。
マーカス様は私にもう興味がないと思うわ。
それに、私達のことはヨアネスとは関係ないんだから。
奥様を大切にしてあげて。」
「わかったよ。
だけどさ、その前に宿とってやるから、一晩休んで、せめてそこで美味しいものを食べてから行けよ。
修道院なら質素な食べ物しか出ないだろ?
お前顔色悪いんだから、たらふく食べてから行けよ。
金銭は払っておくから。」
「ヨアネス、どうして優しいの?」
「幼馴染の仲だろ、俺達。
それに元々俺とのことがあったから、あいつに目をつけられての今だろ?
何か目覚め悪いつうか。
これ以上あいつに関わりたくないんだ。
逆に俺はさ、お前に振られてから、お前と結婚するより全然いい財産持ちの女と結婚できたからさ。
俺今金持ちなんだわ。」
「良かったわね。
じゃあ、ありがとう。
もう会うこともないし、最後に甘えるわ。
さようなら。」
ヨアネスは私を宿に下ろすと、金銭だけ払って、馬車で去って行った。
私は宿に一人で入り、部屋の窓を開けて、見るともなしに王都の街並みを見る。
話し声、馬車の蹄の音、市場の呼び声そのどれもが私には新鮮だった。
王都はいつでも活気があり、賑やかだ。
みんな楽しそう。
いいなぁ。
だったら、この中の一人に私もなればいいんだわ。
何も修道院に行かなくても、一般の民として生きていけばいいじゃない。
すると塞ぎ込んでいた思いが晴れて、段々と元気が湧いてくる。
少なくとも、一人で飢えるまで、生きるためにこの街で戦っていこう。
食堂でヨアネスに言われた通り、お腹いっぱい食べて、これからの思いを胸にベッドに横になる。
私は負けないわ。
生きる力がわいてくる。
そう思いながら、ベッドで寝ていると、ドアをバンバン叩く音で目が覚めた。
誰かがこの部屋のドアを叩いている?
誰?
こんな夜更けに。
寝たふりでやり過ごす?
「イザベラ、いるんだろう?
早く開けて。」
マーカス様だ。
彼がどうしてここに?
私はベッドから出ると、急いでドアを開けた。
すると、マーカス様が目を見開いて、眉をひそめてすごい勢いで部屋に入って、鍵を閉めた。
「マーカス様どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。
どうして邸を出て行った?」
「それは、お手紙に書いたわ。」
「終わりにしましょう。
さようなら。
ありがとう。って、これで満足する人間なんていないよ。」
「ごめんなさい。
説明不足と言うわけね。」
「そうだけど、そうじゃない。
あの男はどうした?
あいつの馬車でここまで来たんだろう?
いるのはわかっているんだ」
マーカス様は強張った顔で、私に問いかける。
「もしかしてヨアネスのこと?」
「そうだ。」
「ヨアネスならいないわよ。
私を下ろして帰ったから。」
マーカス様は私がそう言っても納得できないようで、硬い表情のまま部屋を見渡す。
けれども、一人分の荷物しかなく、ベッドも二人で使った形跡はない。
足早に、トイレ、浴室を探しても、どこにもいない。
マーカス様は、歯を食いしばったまま、囁いた。
「いないな。」
「ええ、幼馴染だけど、ヨアネスのことは好きになったことはないの。
だから、二人で何かすることはないわ。
知っているでしょう?
それに彼は、私より金持ちの女性と結婚できたって喜んでいたわ。」
「そうか。」
勢いを失ったマーカス様の顔をよく見ると、目は落ちくぼみ、頬もこけている。
「マーカス様、ちゃんと休んでいる?」
「それをイザベラが言うわけ?
僕にもう嫌と言った君が?」
「ごめんなさい。
あの時はマーカス様との約束を守れなかったわ。
それもお手紙で謝るべきだったわね。
ごめんなさい。」
「そうじゃないんだ。
イザベラは悪くない。
僕が最初からすべて悪いんだ。
でも、そのせいでついに嫌われたと思った時、どうしていいかわからなかったんだ。」
「許してくれ、イザベラ。」
そう言うとマーカス様は血の気が引いたままの表情で、私を抱きしめた。
「私は怒ってなどいないわ。
でも、もうマーカス様と結婚を続けていくのは、無理だと思ったの。
お互いに好きな気持ちが無ければ、閨事は寂しいだけなのよ。
続けていく内に心がバラバラになる。
だから、もう終わりにしようと思ったの。」
「嫌だ、終わりにするなんて言わないで。」
「無理よ。
あなたは別の世継ぎが見込める相手を探した方がいいわ。
私ではなく。」
「どうして?
どうして僕が君以外の女性とそんなことをしないといけないんだ。」
「だって、マーカス様は世継ぎが欲しくてしていたのよね?
知っているのよ。」
「世継ぎも欲しい。
けれど、それだけじゃない。
イザベラが欲しくて、していたんだ。」
「えっ?
私が欲しいの?
私はずっとあなたのものだったわ。」
「うん、この前までは。
でも、あの時心の底から拒否されて、もう僕のことが嫌いなんだと思ったよ。」
「確かにあの時、心の底から拒否したのは本当よ。
でも、それは体調が悪いのもあるけれど、あなたが私の心を気遣ってくれなかったからよ。」
「体調が悪かったの?」
「そうよ。
薬草茶を飲んで寝ていたわ。
言わなかったかしら?」
「聞いていない。
やめて、もう嫌としか言われていない。
あの時の僕の絶望が、君にわかるかい?
忙しい最中に何とか時間を作って、やっと帰れたんだ。
久方ぶりに。
君としたいと思って、楽しみに帰ったのに、君にこっぴどく拒否されたんだ。
僕がいない方が良いと思われていることが、わかったよ。
帰って来ないで黙って働いていろと、言われた気分だったんだ。
それからは怖くて帰れなかった。
もし体調が悪いなら言ってって言ったよね?
教えて欲しかったよ。」
「ごめんなさい。
起きがけの時は、どうしても頭が働かないの。」
「僕のことを嫌っているわけじゃないんだね。
そうだと知れて本当に良かった。
僕は君に嫌われていると認めることが、ずっと怖くて、途方に暮れていたんだ。
だとしても、僕は君を追い詰めてしまった。
もう君に僕の罪を白状するよ。
聞いてくれるかい。」
「ええ。」
私の人生で関わることになるとは、全く思っていなかったから。
子沢山で金銭に余裕がない実家には迷惑をかけたくないから帰れないし、だからと言って何かできそうな商売すらない。
そんな私は、やはり神に仕えるしかないだろう。
とぼとぼと道を歩いていると、今一番会いたくない人と会ってしまった。
ヨアネスである。
彼は乗っている馬車を止めると、私に話しかけて来て、無視してもお構いなしに話す。
「お前こんなところを一人で歩いて、危ないだろう。
ギルマン侯爵家の馬車は?」
「出してもらえなかったの。
ヨアネスに関係ないわ。」
「馬車すら出してもらえないのかよ。
可哀想なやつだな。
だったらいいから馬車に乗れよ。
どこ行くつもりか知らないけれど、この道最近追い剥ぎがあったところだぞ。
どうして歩くならもっと大きな道を選ばないんだ?」
「大きな道がどこなのか、わからないの。」
「しょうがないな。
だから、早く乗れ。」
私は追い剥ぎは怖いし、駄々を捏ねても仕方ないので、馬車に乗せてもらうことにした。
「お前、ギルマン卿とうまくいってないのか?
顔色も悪いぞ。」
「嫌われてしまったみたい。
私が約束を守らないで、彼を拒否したから。」
私は涙が溢れ出た。
本当は私ずっと泣きたかった。
ヨアネスのことは嫌いだけれど、幼馴染だから、お互い気兼ねなく思ったことを話せるのだ。
マーカス様ともこうやって話せたら、わかり合えることができるはずなのに。
マーカス様にどうしても許して欲しかったし、もう一度抱いて欲しかった。
もう、すべてが遅いけれど。
「おい、泣くのかよ。
あんな格上の男と結婚するからだぞ。
好き勝手に振り回されて、終わりだろ?」
「そうなのかも。
私が高望みして無理して結婚したから。
だから、うまくいかなかったのかも。」
「俺のところ来るか?
妾にならしてやれるぞ。
俺あの後、結婚しちゃたから。」
「ダメよ。
あなたのところには行きたくない。
それにヨアネスの奥様に悲しい思いをさせたくないの。
だから、修道院まで乗せて行って。
私そこに入るわ。」
「本気かよ。
ギルマン侯爵とはどうするんだ。」
「離縁するわ。」
「後から俺のせいにされたら困るんだけど。」
「大丈夫よ。
マーカス様は私にもう興味がないと思うわ。
それに、私達のことはヨアネスとは関係ないんだから。
奥様を大切にしてあげて。」
「わかったよ。
だけどさ、その前に宿とってやるから、一晩休んで、せめてそこで美味しいものを食べてから行けよ。
修道院なら質素な食べ物しか出ないだろ?
お前顔色悪いんだから、たらふく食べてから行けよ。
金銭は払っておくから。」
「ヨアネス、どうして優しいの?」
「幼馴染の仲だろ、俺達。
それに元々俺とのことがあったから、あいつに目をつけられての今だろ?
何か目覚め悪いつうか。
これ以上あいつに関わりたくないんだ。
逆に俺はさ、お前に振られてから、お前と結婚するより全然いい財産持ちの女と結婚できたからさ。
俺今金持ちなんだわ。」
「良かったわね。
じゃあ、ありがとう。
もう会うこともないし、最後に甘えるわ。
さようなら。」
ヨアネスは私を宿に下ろすと、金銭だけ払って、馬車で去って行った。
私は宿に一人で入り、部屋の窓を開けて、見るともなしに王都の街並みを見る。
話し声、馬車の蹄の音、市場の呼び声そのどれもが私には新鮮だった。
王都はいつでも活気があり、賑やかだ。
みんな楽しそう。
いいなぁ。
だったら、この中の一人に私もなればいいんだわ。
何も修道院に行かなくても、一般の民として生きていけばいいじゃない。
すると塞ぎ込んでいた思いが晴れて、段々と元気が湧いてくる。
少なくとも、一人で飢えるまで、生きるためにこの街で戦っていこう。
食堂でヨアネスに言われた通り、お腹いっぱい食べて、これからの思いを胸にベッドに横になる。
私は負けないわ。
生きる力がわいてくる。
そう思いながら、ベッドで寝ていると、ドアをバンバン叩く音で目が覚めた。
誰かがこの部屋のドアを叩いている?
誰?
こんな夜更けに。
寝たふりでやり過ごす?
「イザベラ、いるんだろう?
早く開けて。」
マーカス様だ。
彼がどうしてここに?
私はベッドから出ると、急いでドアを開けた。
すると、マーカス様が目を見開いて、眉をひそめてすごい勢いで部屋に入って、鍵を閉めた。
「マーカス様どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。
どうして邸を出て行った?」
「それは、お手紙に書いたわ。」
「終わりにしましょう。
さようなら。
ありがとう。って、これで満足する人間なんていないよ。」
「ごめんなさい。
説明不足と言うわけね。」
「そうだけど、そうじゃない。
あの男はどうした?
あいつの馬車でここまで来たんだろう?
いるのはわかっているんだ」
マーカス様は強張った顔で、私に問いかける。
「もしかしてヨアネスのこと?」
「そうだ。」
「ヨアネスならいないわよ。
私を下ろして帰ったから。」
マーカス様は私がそう言っても納得できないようで、硬い表情のまま部屋を見渡す。
けれども、一人分の荷物しかなく、ベッドも二人で使った形跡はない。
足早に、トイレ、浴室を探しても、どこにもいない。
マーカス様は、歯を食いしばったまま、囁いた。
「いないな。」
「ええ、幼馴染だけど、ヨアネスのことは好きになったことはないの。
だから、二人で何かすることはないわ。
知っているでしょう?
それに彼は、私より金持ちの女性と結婚できたって喜んでいたわ。」
「そうか。」
勢いを失ったマーカス様の顔をよく見ると、目は落ちくぼみ、頬もこけている。
「マーカス様、ちゃんと休んでいる?」
「それをイザベラが言うわけ?
僕にもう嫌と言った君が?」
「ごめんなさい。
あの時はマーカス様との約束を守れなかったわ。
それもお手紙で謝るべきだったわね。
ごめんなさい。」
「そうじゃないんだ。
イザベラは悪くない。
僕が最初からすべて悪いんだ。
でも、そのせいでついに嫌われたと思った時、どうしていいかわからなかったんだ。」
「許してくれ、イザベラ。」
そう言うとマーカス様は血の気が引いたままの表情で、私を抱きしめた。
「私は怒ってなどいないわ。
でも、もうマーカス様と結婚を続けていくのは、無理だと思ったの。
お互いに好きな気持ちが無ければ、閨事は寂しいだけなのよ。
続けていく内に心がバラバラになる。
だから、もう終わりにしようと思ったの。」
「嫌だ、終わりにするなんて言わないで。」
「無理よ。
あなたは別の世継ぎが見込める相手を探した方がいいわ。
私ではなく。」
「どうして?
どうして僕が君以外の女性とそんなことをしないといけないんだ。」
「だって、マーカス様は世継ぎが欲しくてしていたのよね?
知っているのよ。」
「世継ぎも欲しい。
けれど、それだけじゃない。
イザベラが欲しくて、していたんだ。」
「えっ?
私が欲しいの?
私はずっとあなたのものだったわ。」
「うん、この前までは。
でも、あの時心の底から拒否されて、もう僕のことが嫌いなんだと思ったよ。」
「確かにあの時、心の底から拒否したのは本当よ。
でも、それは体調が悪いのもあるけれど、あなたが私の心を気遣ってくれなかったからよ。」
「体調が悪かったの?」
「そうよ。
薬草茶を飲んで寝ていたわ。
言わなかったかしら?」
「聞いていない。
やめて、もう嫌としか言われていない。
あの時の僕の絶望が、君にわかるかい?
忙しい最中に何とか時間を作って、やっと帰れたんだ。
久方ぶりに。
君としたいと思って、楽しみに帰ったのに、君にこっぴどく拒否されたんだ。
僕がいない方が良いと思われていることが、わかったよ。
帰って来ないで黙って働いていろと、言われた気分だったんだ。
それからは怖くて帰れなかった。
もし体調が悪いなら言ってって言ったよね?
教えて欲しかったよ。」
「ごめんなさい。
起きがけの時は、どうしても頭が働かないの。」
「僕のことを嫌っているわけじゃないんだね。
そうだと知れて本当に良かった。
僕は君に嫌われていると認めることが、ずっと怖くて、途方に暮れていたんだ。
だとしても、僕は君を追い詰めてしまった。
もう君に僕の罪を白状するよ。
聞いてくれるかい。」
「ええ。」
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