いちいちやらかす僕の妻

月山 歩

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6.喧嘩するカップル

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 今日、ナイジェルは王宮での業務が終わったら、夜ディナーをすることにして、薔薇の綺麗な公園で、コーデリアと待ち合わせをした。

 だか、コーデリアが一向に公園に来ない。
 結婚してからは、何かとやらかしがちなコーデリアのために、ナイジェルは影を彼女に内緒でつけている。

 内緒にしているのは、やらかしてしまうことをコーデリアが気にしているのを知っているからだ。

 一緒にいない時に、コーデリアにどんなことが起きているのか、あらかじめ知っていたら、心配も減って、僕も安心できる。

 ナイジェルは、さらに公園で待ち続けるが、一向にコーデリアは来ない。
 なので、コーデリア担当の影を呼び出した。

「コーデリアは何をしている?」

「実は、コーデリア様は王都で評判のクッキー店に並んでおります。」

「はっ?」

 どうしてそうなる?
 コーデリアはいつも想定外のことをする。

 何故、僕と約束しているのに、コーデリアは店に並んでいるんだ?

 まぁ、それが、僕のコーデリアか。

「実は、コーデリア様は早めにこちらについて、薔薇を楽しんでいました。

 でも、こちらで喧嘩別れをしたカップルがおりまして。

 どうやら、今日は結婚十周年のお祝いの日だったそうで、当然、女性の方は男性が想い出のクッキーを買って来ると思っていたのに、買って来なかった。

 妻が、夫がクッキーを買い忘れたのは、愛がないからだと怒って帰ったのです。

 なので、コーデリア様は、しょんぼりした男性に付き添って、クッキー店に並んでいます。

 コーデリア様は男性を慰めつつも、もう一度、どうすればその女性と仲直りできるかについて、話しあっています。
 めちゃくちゃ真剣に。」

 影は、真面目な顔をしようとしても、面白くなって、笑っている。

 彼は、長年影として働いて来ており、このたび、コーデリアの影に抜擢された。

 いざ彼女について働いてみると、コーデリアは何をしでかすかわからないので、いつも想定外な展開になるのを目の当たりにしている。

 影にとって、基本的に隠れて警護することは、ほぼ単調なことの繰り返しで、仕事と割り切ってやっていた。

 しかし、コーデリアについてから、退屈とは無縁なのだ。

 それを、ナイジェルも楽しんでいるのは、わかっているので、報告すら笑える。

「そう言うことか。
 正直、十年目のカップルの喧嘩はどうでもいいけど、そこを素通りできないのが、コーデリアだよ。

 じゃ、僕はレストランの食事をお持ち帰りにして、先に邸に帰っているから、後はよろしく。」

 ナイジェルは、鼻歌を歌いながら、邸に向う馬車に乗り込んだ。





 あー、またやってしまった。
 コーデリアは、頭を抱える。

 ナイジェルと約束しているのに、喧嘩別れ寸前のカップルを見過ごすことができず、仲直りの方法を話し合うちに、大分遅くなってしまった。

 ナイジェルに今度こそ嫌われてしまったら、どうしよう。

 急いで公園に戻るが、もうナイジェルはおらず、私を空の馬車だけが待っていた。

 しょんぼりとしながら、コーデリアは邸に帰る。

 邸に着くと、食堂でナイジェルが待っていると執事カミルに言われ、コーデリアは慌てて駆け込み、ひたすら謝る。

「ごめんなさい、ナイジェル。
 待ち合わせに間に合わなくて。」

 コーデリアは俯き、泣きそうな顔になっている。

 そんなコーデリアに、ナイジェルは、

「これ、お持ち帰りにしたんだ。
 何があったか、食事しながら聞こうか。」

 コーデリアは、チラチラとナイジェルの表情を確認するが、ナイジェルは怒っているようすはなく、平然とした顔に見える。

「怒ってないの?」

「僕は最初から君が失敗しがちなのは知っているから、大丈夫だよ。
 話してごらん。」

 その優しい声がけに、コーデリアは安堵して、ナイジェルに出来事を説明した。

 大まかなことはもう先に知っているナイジェルであったが、コーデリアがその時どう思って、行動していたかは、本人にしかわからない。

 もし、僕が普通の令嬢と結婚していたら、お茶会での愚痴か、褒めるしかない刺繍を見せられたり、ありきたりな毎日なのだろう。

 でも、コーデリアといる限り僕は、想定外のコーデリアの話に飽きることはないだろう。

 コーデリアはいるだけで、可愛くて、面白いのだから。

 僕は笑顔で、毎日コーデリアの話を聞くのだった。
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