上 下
3 / 9

3.買い物

しおりを挟む
「ソフィア様、こちらのお店が、邸で植えている花の苗を買っているお店です。」

 今日はナットと一緒に、お花のお店を見に来ている。

 広い店内とそれに続く庭園には、たくさんの種類のお花達が売られている。

「なるほど、こちらのお花達ですか?
 とても美しいものですね。」

 その中に見慣れない花達もあり、その花達は、いったいどこから来ているのだろう?

「店主、これらのお花はどこから、手に入れるのですか?」

「当店では、買い付け担当がおりまして、各地から種や苗を集めて来ています。」

「なるほど、だからこんなに色々種類の花がお店に並んでいるのですね?」

「夫人は、お花に興味がおありで?」

「はい、私は色々なことに興味がありまして、今日はナットについて来てしまったのですよ。

 私は、ソフィアと申します。
 よろしくね。」

「そうでしたか?

 普通は、侯爵夫人ともなれば、個々の使用人と話すことも、ましてやその買い付けに同行するなど、聞いたことがないものですから。」

「ふふ、ご迷惑でなければいいのですが、夫が私の自由を許してくれるものですから。」

 イヴァン様は、私が邸で何をしてようが、全く気にならないようすで、何も言って来ないし、会うこともないから、自由にさせてもらっている。

 以前のファルター様との結婚の時は、彼は、自分の恋人との付き合いを誤魔化すために、私を邸に閉じ込めていた。

 私が体調が悪く、妻の役目を果たせないから、夫は外に恋人を作らざるを得ないと、吹聴していたからだ。

 何故私が、夫のためにそこまで?

 とも思っていたが、邸の中にいる分には、自由にしていいとのことで、お母様の生活を支えるためには、それくらいは受け入れるしかないと思っていた。

 だからこそ今、イヴァン様と再び結婚して、どうような制約が科されるのかと危惧していたが、イヴァン様は私のすることに無関心で、外にも自由に行ける。

 だから私は、色々なことに興味を持ち、出歩くことが楽しくて仕方がない。

 今の生活を満喫しているのだ。

 今は侯爵夫人であっても、いずれただの民になる可能性があると思っているから、貴族夫人同士のお茶会などには、あまり興味がない。

 貴族夫人との愚痴や噂話を延々と聞かされるくらいなら、離縁後にどのような商売をして生きて行こうかと、考えた方がいい。

 私は、売られているお花を見ていると、色々な薔薇の花びらや形、色、香りまでも違うことが気になった。

「ソフィア様、こちらの薔薇達は、品種改良して作られています。

 新しくできた花には、自分の好きな名前をつけれるのですよ。」

「それは素敵ね。

 女性はとにかく薔薇が好きだから、新しい薔薇に自分の名前をつけたい人がいると思うわ。」

「はい。

 愛する女性の名前をつけて、何かの記念に、男性がプレゼントするのも、喜ばれるかと。

 ただ、品種改良して作るので、費用がかかりますので安くはないのです。」

「なるほど、店主は頭がいいわね。

 私にその話をすると言うことは、そう言うお金があり、お花を喜ぶ貴族を紹介しろといいたいのね。」

「さようです。
 ソフィア様には、別でお礼をさせていただきます。」

「わかりました。
 機会があれば。」

「よろしくお願いします。」

 やはり私の武器は、貴族であること。

 素敵な物と出会ったら、それを喜びそうな貴族に紹介する。

 そのような商売が向いているのかしら。




 イヴァンが邸に戻ると、庭園の方から楽しそうな話し声と共に、ソフィアが中心にいて、みんなでスコップを持っている。

 どうやら新しい苗を植えているようだ。

 ソフィアは、今日も庭園で花に囲まれて、笑顔でナットや他の使用人達と話している。

 最近この邸で楽しそうな人の輪の中心には、必ず生き生きとしているソフィアがいる。

 まるで、花のお姫様のような可憐さだ。

 それにナットは、完全にソフィアを崇めているようで、うっとりと見つめている。

 ソフィアが来る前は、この邸で人の笑い声など、ほとんど聞くことは無かった。

 彼女はただ美しいだけでなく、人を惹きつける魅力があり、無口な僕には、眩し過ぎる。

 だとしたら、ソフィアはあの兄と、どんな夫婦だったのだろう?

 いや、彼女のことを考えるのはやめよう。

 僕には関係のない話だし、兄とどうであったかなんて一番聞きたくて、聞きたくない。

 僕は昔から兄も、その腕にぶら下がるようにくっついていた女性達も嫌いだった。

 女性達の頭は空っぽで、兄の目の届かないところでは、他の男達に平気で媚びを売るような人達だった。

 旧家では、兄の彼女が酔っ払って、アルコールの匂いを纏いながら、僕の寝室に入って来るようなこともあり、僕はそのような女性が、吐き気がするほど大嫌いだった。

 だからこそ父に、兄の妻だった人と結婚しろと言われた時、この世の終わりだと思った。

 だが何故か、実際にやって来たソフィアには、今までの兄の彼女達とは、全く違うような違和感を感じている。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

「華がない」と婚約破棄された私が、王家主催の舞踏会で人気です。

百谷シカ
恋愛
「君には『華』というものがない。そんな妻は必要ない」 いるんだかいないんだかわからない、存在感のない私。 ニネヴィー伯爵令嬢ローズマリー・ボイスは婚約を破棄された。 「無難な妻を選んだつもりが、こうも無能な娘を生むとは」 父も私を見放し、母は意気消沈。 唯一の望みは、年末に控えた王家主催の舞踏会。 第1王子フランシス殿下と第2王子ピーター殿下の花嫁選びが行われる。 高望みはしない。 でも多くの貴族が集う舞踏会にはチャンスがある……はず。 「これで結果を出せなければお前を修道院に入れて離婚する」 父は無慈悲で母は絶望。 そんな私の推薦人となったのは、ゼント伯爵ジョシュア・ロス卿だった。 「ローズマリー、君は可愛い。君は君であれば完璧なんだ」 メルー侯爵令息でもありピーター殿下の親友でもあるゼント伯爵。 彼は私に勇気をくれた。希望をくれた。 初めて私自身を見て、褒めてくれる人だった。 3ヶ月の準備期間を経て迎える王家主催の舞踏会。 華がないという理由で婚約破棄された私は、私のままだった。 でも最有力候補と噂されたレーテルカルノ伯爵令嬢と共に注目の的。 そして親友が推薦した花嫁候補にピーター殿下はとても好意的だった。 でも、私の心は…… =================== (他「エブリスタ」様に投稿)

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

公爵令嬢の婚約解消宣言

宵闇 月
恋愛
拗らせ王太子と婚約者の公爵令嬢のお話。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

わたしはただの道具だったということですね。

ふまさ
恋愛
「──ごめん。ぼくと、別れてほしいんだ」  オーブリーは、頭を下げながらそう告げた。  街で一、二を争うほど大きな商会、ビアンコ商会の跡継ぎであるオーブリーの元に嫁いで二年。貴族令嬢だったナタリアにとって、いわゆる平民の暮らしに、最初は戸惑うこともあったが、それでも優しいオーブリーたちに支えられ、この生活が当たり前になろうとしていたときのことだった。  いわく、その理由は。  初恋のリリアンに再会し、元夫に背負わさせた借金を肩代わりすると申し出たら、告白された。ずっと好きだった彼女と付き合いたいから、離縁したいというものだった。  他の男にとられる前に早く別れてくれ。  急かすオーブリーが、ナタリアに告白したのもプロポーズしたのも自分だが、それは父の命令で、家のためだったと明かす。    とどめのように、オーブリーは小さな巾着袋をテーブルに置いた。 「少しだけど、お金が入ってる。ぼくは不倫したわけじゃないから、本来は慰謝料なんて払う必要はないけど……身勝手だという自覚はあるから」 「…………」  手のひらにすっぽりと収まりそうな、小さな巾着袋。リリアンの借金額からすると、天と地ほどの差があるのは明らか。 「…………はっ」  情けなくて、悔しくて。  ナタリアは、涙が出そうになった。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

処理中です...