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17.彼の幸せ

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 あれからしばらく時は流れたが、相変わらず、執務と視察はライナートがほとんどやっており、今度は北の視察を終えて、王宮に戻って来た。

 世継ぎが生まれると、より一層ローレンスは、子供にかかりきりで、最近では、王も一生独身でもいいから、僕に王位を継いでほしいと言い出した。

 ローレンスを見ていると王には、誰しもがなれるわけではないことがわかって来た。
 母がぜひ僕にと言った理由も。

 そんなことを考えながら、居室に戻ると、シチューの香りがして、僕は急いで、テーブルのそばまでやって来ると、そこにはオーレリアがいて、

「温かいうちに食べましょう。」

 と僕を笑顔で迎える。

 僕は夢を見ているかのように嬉しくて、言葉にならず、ただ、頷いて、椅子に腰掛ける。

 すると、いつものようにオーレリアは、僕にワインを継いでくれる。

 涙が溢れ、大好きなシチューの味がしない。
 僕の涙が多すぎる。

 そんな僕をオーレリアは静かに見守っている。

「ありがとう。
 来てくれたんだね。」

 僕はどうしても、感謝が伝えたかった。

「ええ、私もライが好き。
 あなたが幸せになるには、私が必要ってやっとわかったの。

 私はね、最初から、ライの幸せしか思ってなかった。
 ライを幸せにするために、出て行ったの。

 でも、私がいた方がライが幸せなら、いつまでも、あなたのそばにいるわ。」

「うん、いて。
 あの時、ちゃんと向き合って、王位を放棄していれば、こんなことにならなかった。
 僕がすべて悪い。」

「そんなことはないわ。
 ライはお母様との約束を守って、立派な王になろうと努力していたんだもの。

 私はそんなライが好きよ。
 やってみないとわからなかっただけ。
 ライも私も。

 私はライと離れて、幸せを感じることはなかった。
 ただ、ライが望むシチューを作ろうって、それだけ。

 私達って不思議ね。
 お互い大分、しつこいわ、ふふ。」

「本当、なんなんだろうね、僕達。
 一緒にいるだけで、こんなに幸せなんて、本当どうかしてる。

 でも、もう二度と離れないって思えるくらいには、成長した。
 リア、僕は君を愛してる。」

 そう言って、オーレリアを抱きしめた。

 二人は遠回りをして、自分達の気持ちを再確認しただけだった。
 ただ、二人にはそれが必要だったから。


 その後、オーレリアは貴族の養子となり、ライナートと結婚した。

 それと同時に、王位継承権もライナートに戻り、オーレリアがいることでライナートは、母が望んだ正しい王になった。

 その後、二人には三人の子供が生まれ、その子もまた、賢王と呼ばれて、ロアル王国の安泰の時は続いていく。




              完
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みんなの感想(2件)

しまこ
2024.10.13 しまこ

返信ありがとうございます。
そうですね、各々のの気質ですね。
良い旦那さまなのでしょう。
兄弟仲が良いようですし、お母様はよく分かってたのですね。
ドロドロとドアマットヒロインも好きで読みますが、ドロドロなしも安心できるので好きです。
新しい作品も楽しみにしております。

解除
しまこ
2024.10.13 しまこ

素敵なお話しでした。
ずっと二人が想いあっててよかったです。
でも、弟が情けない感じかなぁ。家庭を大事にするのはいいんだろうけど、ちょっと頼りなさすぎでは???
権力争いのドロドロにならなかったから、よかったのかな、あんな弟でも。

月山 歩
2024.10.13 月山 歩

感想ありがとうございます。
人には、それぞれ気質があって、だからこそ、得るものと得ないものがあるって、思っています。
キアーラにとってはいい男かな?
筆者は、ギスギスしていると、書いていても疲れてくるので、ゆるい感じでも、読んでくださって感謝しております。

解除

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