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第2章 王位継承

第11話 剣術指南

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 剣術大会が終わり数日が経過した。
 私は、ヘブンズワークスのオーナー兼リーダーとなった。
 抜けたい人は抜けても構わないといったが、だれ一人の欠ける事はなかった。

 そして私は、最初の仕事として、メンバーに1週間の休養を与えた。

 そのため、昼間の長屋は静まりかえり、私しかいない

 かくいう私は、ミルゲイさんなどから外に遊びに行こうなどと誘われてはいたのだが、どうもその気になれず、昼間だというのに、長屋のベッドに横なりこれからことを思案していた

 今すぐガレオンに帰るという選択、ここに残るという選択どちらが正しいのか…
 ーーおそらく今ガレオンに戻っても、ノーベル家に入ることすらできないだろう、そしてガレオンにいることが分かれば、おそらく殺される。
 しかし、このままここにいて、ギルドの仕事を請け負ってこなしていくだけで、果たしてノーベル家に戻り、エイルに会うことができるというのだろうか…
 予定通りにギルドを自由にすることはできるようになったのだが…


 トン、トン

 長屋のドアをノックする音が響く
「はい」
 私しか長屋にいないため、ドアに向かう。
 相変わらず、綿ぼこりが舞い、すきま風が吹き抜ける廊下をぬけドアの前に立つドアを開ける。
 そこには、貴族風の恰好をした、ホフナー商会の会長リディムさんと、白髪でいかにも紳士風の老人が立っていた。

「どうしたんですか?リディムさん」
「すこし話があってな、中にいれてもらっていいか?」
「汚いところですけど、どうぞ」
 2人を食堂に案内する。

 食堂の椅子に3人で腰を掛け、リディムさんが口を開く。
「こちらは公爵のグレン卿だ」
「グレンだ、リディムより噂は聞いておる」
「いえ、大したことありませんよ」

 グレンさんが話を続ける
「今回は、折り入って頼みがあってこちらに参ったのだが」
「はい」
 私は姿勢を正し、まっすぐにグレンさんの瞳を見る。
「実は、第3王子ソルフィンさまの剣術指南役兼護衛役をお願いしたい」
「なんで私がですか?」
「そなたの胆力と強さ、適任であるとリディムから推薦があってな」

 リディムさんが小声で話し始める。
「実はな、ソルフィンさまは、命を狙われておる」
「なんでですか?」
「今、国民には伏せているが、現王の容態が思わしくない」
「なるほど…跡目争いっていうわけですか」

「そうだ、ソルフィン様はまだ10歳と幼いが、現王の意向にてその後継者にと指名されておる。だがそれに反目しておるのが王弟のバルバトス公でな、バルバドス公は、第1王子のコフィンを推しており、今宮廷は第3王子派とバルバドス派に二分されておる。しかも宮廷の護衛を担当している宮廷騎士団がバルバドス公派のため、ソルフィン様の命が危ない」

「そうだったのですか、それで騎士団の息がかかっていない私に白羽の矢が立ったというわけですか」
「この話、君たちにとっても、悪い話ではないと思うのだが」

「即答というわけにはいかなので…」
「そうだな、一応この話は内密にということで」
「はい、分かりました」
 リディムさんとグレンさんを見送り、部屋に戻る

「剣術指南兼護衛か上手くいけば…」
 そう上手くいけば、ガレオンに堂々といけるかもしれない、そうなればエイルにも堂々と話しが聞ける。

 しかし、失敗しバルバドス派が実権をにぎるようなことがあれば、ギルドの存亡事態が危うくなり、そうなれば…

 ーーその夜

 食堂に誰もいないことを確かめ。ミルゲイさんに耳打ちをし、相談を持ち掛けてみる

「ミルゲイさん実は内密な話があるんですが…」
「第3王子様の剣術指南!!」
「声が大きいですよ」
「すまん、すまん」
「いちおう内密にということなので、ただ今、宮廷内部で対立が起きているようで、その対立の結果いかんではこのギルドがなくなる可能性もあります」

「そうか…でも俺はお前が好きにすればいいとおもう、お前のおかげで俺たちは自由になれたんだし、正直このギルドには未練はないよ」
「ありがとうございます、あとは私の覚悟だけのようです」
「そうだな、自分で決めろ」
「はい」

 ーー次の日

 私は昼食を終え、ホフナー商会の門の前に立っている。
 門の横の扉をノックすると、兵士の恰好をした門番が現れる。
「リディムさんにレクシア来たとお伝えしてほしいのですが」
「レクシアさんですね、どうぞ中へ」
 そのまま、中に通される、この前と同じように整備された中庭に、大きな彫刻などがあり、懐かしいさを覚える。

 そのまま、書斎に通され、リディムさんは机に向かい書類を作成しながら遅い昼食をとっている。
「書類はすべて自分で目を通さないと気に入らないたちでね、少々まちたまえ」
「はい」
 私は書斎に掛けてある淡い茶色の長い髪の美しい女性の絵が気になり、近寄ってみる。
少しリディムさんに似ているような気もするが…

「ああ、その絵かそれは現王が書かれたもので、私に下さったものだ」
「現王さまは絵がお得意なのですね」
「ああ、あのお方は心優しく、絵がお好きだった、王にならなかったら絵描きになっていたと笑っていたがね」
「この絵のモデルは?」

「現王のお妃フラム様だ」
「なるほど、凄くお綺麗な方ですね」
「ああ、しかしソルフィン様をご出産後なくなれてしまってね」

「そうですか…母上に次いで父上も病に伏されるとは、王子様もさぞかし寂しい思いをされているのですね…」
「うむ…すまないが仕事に集中する」
「すいません、黙ってます」

 10分ほど待っていると、仕事を終えリディムさんが立ちがあがる。
「どれ、中庭にでもいって、話をするかの」
「はい」

 二人で中庭の石畳の上を歩く
 リディムさんが歩きながら、話しかけてくる
「結論はでたのか?」
「いえ、一度ソルフィンさまに会ってから決めようかと」
「なるほどな」
「私が命をかけて護るに値する方かどうかを」
「ふむ…」
「もしバルバドス公が実権を握るようなことになれば、私の命にも危険が及びますので」
「確かにそれはありえるな」

「しかし、なぜリディムさんがそこまでソルフィン様に肩入れされるのですか?」

 リディムさんが目を閉じ、数秒の沈黙が流れる。

 そして目を開け昔を懐かしむかのような表情でボソッとつぶやいた。

「書斎の絵」
「ソルフィン様の母上ですよね」
「ああ、そして私の妹でもある」
「…そうだったんですね、通りで面影があると思いました」
「ああ、まだあれが幼い時に生き別れてな、フラムは私が兄だということは知らずに亡くなった」
「それで、ソルフィン様に…」

「…わかりました、この話お受けします」
「会わなくてもいいのか」
「はい、どうしてあなたがここまで肩入れする人物なのか不思議に思っただけですので」
「腑に落ちたのか」
「はい、リディムさんにはお世話になりましたし、今度は私がリディムさんを助ける番です」
「ありがとう」
リディムさんはその眼から一筋の光るものがながれ、私に両手を差し出し、握手を交わした。


 私がホフナー商会を出るころには、太陽が西の空を赤く染めていた。


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