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第6章 剣聖剥奪

第112話 王都陥落

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 ――ラグウェルがサウストンを発つ5日前

「おおお!!」
 城壁の上に立つ兵士達から歓声が上がる。
 王都の城壁に迫りくる木人形達。それに向けて投石機から放たれた巨石が弧を描いて着地しそこにいた木人形達は粉々になった。それを見て兵士達から歓声が上がったのだ。

 しかしその投石機の投石を掻い潜り、木人形たちは街を囲む様に作られた円形の城壁に殺到する。
「油だ!油を使え!」
 城壁にいる兵士達はその指示に従って城壁に油を垂らす。次々と城壁から転落する木人形。

 戦況は膠着状態に陥る。

 城壁近くの指揮所に座るセネバ王子に戦況を伝える騎士。
「セネバ王子! 戦況は膠着状態です。敵軍も攻めあぐねているようです」

 我軍が上手く立ち回っているというのにセネバ王子の顔は浮かない顔をしている。

「まあ八百年間、戦争をしてない国だからね。攻城の技術は劣るだろうね」
 ポツリとそう呟く。

 ドーーンとドーンと数回、爆発する音が響く。

「な、なんだ今のは」
 セネバ王子の側で兵を指揮している騎士がうろたえる。

 そこに青い顔をした一人兵士が慌てて走ってきて、
「報告します! 敵は火球を城門にぶつけています。このままでは城門が持ちません」
「まさか……」
 セネバ王子の横にいる騎士は青い顔をしている。

 セネバ王子はその報告聞き顔色一つ変えずに呟く。
「そらそうだよな……連中は魔法が使えるんだ。俺達のような攻城戦をするわけがない」

 騎士はその声を上ずらせながら
「……王子どうしましょう……城門が突破されれば我々は……」
「そうだね……白旗を上げるしか無いな」
「しかし……王子それだけは……降伏だけは……騎士の名が廃ります!それに降伏したことが国王陛下のお耳に入ればセネバ王子の身も……」

 セネバ王子はハァとため息を一つつくと騎士を見ながらゆっくりと話し出す。

「君は城門が破られても戦うというのか? 王都50万の民を犠牲にしても戦うというのか?それよりも君は騎士の誇りが大事というのか? 国王か……あんなもんはただの飾りだよ。国民無くして国王無しだ。私の身などどうなろうが構わない」

 その言葉の一つ一つに気圧されたのか騎士はうつむいて、はいと返事をすることしかできない。
「よし。では白旗を掲げ、門を開けよ」
「承知しました……」

 そして城壁に白旗が掲げられ、固く閉ざされた城門は3日ぶりに開放されることとなった。

 ――数時間後

 王都宮殿の大理石の床をカツカツと音を立てて歩くクロエ・ノーマンとその部下3名。絢爛豪華な部屋に通され、見事な彫刻が施された椅子に座る。

 そこにセネバ王子が現れる。
「十王国代表のセネバです」
 そういって右手を差し出す。

「賢明な判断でしたな。私はペンタグラム軍事顧問のクロエ・ノーマン。そして私の部下です」
 挨拶とともに握手をかわすとセネバもクロエも椅子に腰掛ける。

 そしてクロエはその眼光鋭い目でセネバ王子を値踏みするような目で見ながら口を開く。
「早速だが、我々の要求は唯一つ。ここゲルニカを明け渡すこと。何人たりともここに住まうことは許されない。住民全員の移動だ」

 セネバは少し考える素振りを見せる。
「ええ。その覚悟はできています。ただ時間が……50万もの民をひとり残らず移動となると2ヶ月……いや3ヶ月はかかるかもしれません」
「ふむ……しかし3ヶ月は長すぎる。1ヶ月だ」

「……1ヶ月ですか……我々に選択権はありませんか……」
 クロエは黙って頷く。

 セネバ王子は疑問に思う。なぜ王都にこれほどこだわり、そして住民たちを排除しようとするのか……通常の戦争であれば王都を占拠したのちに住民たちを労働力として使う。奴隷として使役するのが一般的だ。

 その住民を排斥する、まあ連中にはあの木人形があるから、労働力は必要としていないからと言われればそれで終わりだが……

 しかしそれならば戦争をする必要がない。それは開戦をした時から疑問だった。あの国は魔法がつかえることで内部で全て完結している。それを証拠に800年もの間、戦争をしていない……

 恐らく……ペンタグラムの内部で何かが起き、ペンタグラムから王都に遷都せざる負えなくなったというところか……なぜ王都なのか?それはわからないが……

 とりあえず1ヶ月の猶予はできた……後はラグウェルに託すしかない……

 ◆◇◆

 ペンタグラムの移動要塞に戻ったクロエは水晶玉の向こうにいる、霞んで映るアビゲイルに報告をする。
「1ヶ月でゲルニカを明け渡すことに同意した……が気になることがある」
「気になること?」

 クロエは淡々とアビゲイルに報告をする。
「あまりにあっさりと降伏したということ、それに時間稼ぎをしている節がある」
「時間稼ぎか……」

「国王の姿が見えない。恐らく軍を再編し再び攻撃を加えてくる可能性が高いかもな」
「愚かだな……魔法が使えぬ者は」
「今のうちに全て焼き尽くしてしまおうか」

「いやそれは今はやめておけ。降伏した相手を虐殺するなど、スピカ様の耳に入れば何かと面倒なことになるかもしれん」

「なんだよ。手綱握ってんじゃねーのかよ」
「念には念を入れておかねばな」

「はい、はい分かったよ」
クロエは面白く無さげに返事をすると通信を切る。

「っち降伏なんか認めず焼き払っちまえばいいのになぁあんな連中がどうなろうが関係ねーしな。クソっ1カ月何もすることがねーじゃねーか」

苦虫を噛み潰したような顔をしたクロエはそう呟いた。
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