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第5章 魔法の国のスピカ

第95話 死文病

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 私は16になった。今日の授業は教室での歴史の授業。階段のように椅子が配置された教室の片隅に腰を下ろす。
 窓から入ってくる春の優しい風が心地よい。
 ガラガラっと引き戸を開け痩せた男の教師が入ってくる。
「今日はペンタグラム建国の歴史だったかな」
 教師はそういうと教壇に分厚い本を置く。

「ペンタグラム建国において一番最初に語らなければならないのは始祖の五家と言われるが、そこの君、答えられるかね?」

 当てられた生徒はあたふたし周囲をキョロキョロと見ながら答えに戸惑う。
「えーっと……」

 教師は頭を抱え
「最近の若者は始祖の五家も知らんのか」
 と言いうと黒板に文字が浮かび上がる。

『始祖の五家、アルタイル家、ノーマン家、ベルマルク家、カービン家、マルフォイ家』

「これが始祖の五家だ。ペンタグラムに生まれて始祖の五家を知らない人間は恥だからな。なスピカ・アルタイル」

 急に私に振られ慌てて顔を伏せる。
「スピカは始祖の五家の一つアルタイル家の人間だ。私達とは住むところが違う選ばれた人間だ」

 私は周囲の注目を浴びながらただ小声でこう言うしか無かった。
「……そんなことないです……」

 今まで伏せて隠してた訳ではないが、改めてこう言われると……ちょっと嫌な気持ちがした。

「まあいい、授業を進めよう」
 教師は黙々と授業を進める。

 私達ペンタグラム人は1000年前にこの地にペンタグラムを建国した。1000年前私達のご先祖様は、悪魔の使い、魔女などと言われ迫害されていた。当時は今よりもずっと魔力が低く、ごく簡単な魔法しか使えることができなかったせいだと言われている。

 そんな中、魔力の高かった一人の人間、ジークスと呼ばれている人間が私達をペンタグラムに導いたとされ、ジークスは導く者と言われるようになった。そしてそのジークスの血を引く五家が始祖の五家と言われるようになる。

「これは今まで伝わってきた伝承だ。最近の歴史研究によるとジークなる人物はなく、魔力の強かった始祖の五家がペンタグラムを建国したとされている」
 教師が注釈を入れる。

 私の父も教師と同じことを言っているのを耳にした。

「しかしこの伝承は根強く、我が国の元首が始祖の五家の合議制で決まる宰相なのは、導く者がこの世に降臨された時に宰相が補助をするためと言われている。まあ今の世で導く者など言われても信じる者などいないだろうがな」

 導く者……幼い頃、父から聞いた昔話、ペンタグラムが危機に陥った時に正しく導くとされる存在。私がその話を聞いた時は怖くて震えた。もしそんなことになったらどうしようと。その時父は私に笑いかけ「そんなことにはならないよ」
 と優しく言ってくれた。


 秋、母が死んだ。原因は夏頃から突如ペンタグラムで流行り出した死文病と呼ばれる流行病。

 身体のどこかに文字の様な痣が現れ、死に至る病。

 父はありとあらゆる方法を用いて母を治そうとしていた。魔法に呪術に錬金術。
 しかしそれらは全く効果なく、母は見るからに痩せ衰え亡くなった。

「フェルトすまなかった。すまなかった」
 そう言って父は悔い、ふさぎ込むようになった。

 父が鬱ぎ込み、私も学校に行く気もせず、大きな家で母の作ったお手伝い人形に世話をされながら暮らしていたある日。

 家の前に一人の痩せて神経質そうな男が現れ、父に会いたいといった。

 アビゲイル・ノーマン。この国の宰相。

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