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第3章 鴉

第72話 平和ボケ

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 眩しさに顔顰めながら目を開く。東の空に太陽が昇ってきているのが見えた。
 数時間の休憩のつもりであったのが、皆の疲弊していた。それが自然に朝になっていたということだ。
「おはよう」
 おはよう?ああ朝の挨拶か……

 寝ぼけた頭にふいに話しかけれ、一瞬きょとんとしてしまう。
 そしてその挨拶の声の主を理解するまで数秒かかる。

「お、おはようございます!」
 リリカの顔は昨日のそれではなく、司令官として冷静沈着ないつもの表情に戻っている。
「また寝ぼけてるのか?すぐに出るぞ!」
 どうやら俺が一番最後まで寝ていたようで、皆の視線が痛い…
「さあ、行くぞ!」
 リリカの合図で21名全員で行軍を始めた。

 野を越え山を越え、丸2日不眠不休で歩き続け王都が遠くに見えてきた。
 1年ぶりの王都…恐らく軍の編成でシャウラ達は忙しくしているだろう。散っていった仲間達のためにも必ず祖人を打ち破って見せる!

 みな同じ気持ちなのだろう…ものこそ言わないが、それまで疲労しているという表情の者が多かったが目に力が宿り全員が同じ方向を向いて前に前に一歩づつ力強く歩く。そしてその速度も上がっている。

 王都に辿り着く、いつものように人々が行き交い賑わいを見せる市場、いつものように騎士団員が見回りをしている。そういつものように…

 そう1年前と何も変わらない王都がそこにあった。
 その様子に少しだけ面を食らう一同。
「民には知らせていない…か」
 リリカは冷静にそう呟く。

 そうか…そうだな。王都に脅威が迫っていると言うことを知れば無用な混乱を招くだけ…き、騎士団本部…騎士団本部に行けば兵の再編でみな忙しく動き回っているはず…
「騎士団本部に行くぞ」
 リリカが皆にそう伝える。

 そして全員で騎士団本部に向かう。1年ぶりの騎士団本部だ…こんな形で戻ってきたくはなかったな…

 大きな白い2本の柱が特徴的な騎士団本部が見えてくる…来たのだが…
 そこにはいつものように騎士団員が書類をもって出入りしているだけ、変わらない日常があった。

 リリカはあくまでも冷静に呟く。
「伝わっていなかったか」

 そうだ…そうなのだ伝書鳥で飛ばし早馬で伝えようとしたがそれらがことごとくだめだっただけだ。俺たちが伝えればすぐに緊急事態として諸侯に伝令され兵の編成をし討伐隊が組織されるはず。

 リリカが俺に声をかける。
「とりあえず、副騎士団長補佐のレグルスに会うぞ。ラグウェルついてこい」
「…はい」

 リリカとともに剣聖レグルスの部屋に向かう途中に話しかけてくる。
「どう思う?」
「伝わっていないだけかと…」
「それならいいがな…ここにいる連中は祖人を知らない…鴉は所詮閑職だ」
「300年前、祖人に対抗するため周辺諸国の王達が協力して十王国の建国となった…祖人の驚異これは建国の時と同じ脅威ってことなんじゃ…」
「ふん、300年前のことなんて誰も覚えていないからな」

 レグルスの部屋に向かう途中、騎士団長の部屋の扉を力強く閉め、眉間にシワを寄せたレグルスがやってくる。
 俺たちの姿を見て目を伏せ、聞こえるように呟く。
「ついてこい…」
 レグルスの後を追って、レグルスの部屋に入る。

 部屋に入るなりレグルスは深刻な表情で話始める。
「報告は読んだ…しかし兵は出せない…いや出さない」
「え?祖人が15万もの祖人が壁を越えてきているんですよ…仲間達は傷つき死んでいった…それなのになんで!!」
 気が付くと俺はレグルスの胸元を掴んでいた。

 リリカがレグルスを胸ぐら掴んでいる俺の手に自らの手をすっと置き諭すように話しかけてくる。
「よせ、ラグウェル」
その言葉を聞いて少しだけ冷静になり、俺は手を離す。

「大方、野蛮人ごとき何万人来ようがすぐにでも追い払える。諸侯から兵の招集などいらん!こんなところか」
 リリカがそう言うとレグルスが伏目がちに頷く。
「王がそう言われた…そう言われた以上、諸侯も兵を動かさない…もうどうしようもない…長すぎたんだ祖人の脅威がない日々が…」
 リリカは表情を変えずレグルスに問う。
「祖人達は2,3週間で王都に到着する。それで騎士団はどうするんだ?このまま祖人が王都に到着するまで待つのか?」
「ああ…そうなる王都の北の平原で迎え撃つことになる」

 リリカはそれを聞いて嘲笑う。
「騎士団3000と王都の1万の兵で祖人15万と戦うのか?こりゃ傑作だ」
「ああ…王はそれで十分と思われている。祖人の一撃では騎士の鎧は砕けないと」
「そうか…この王都もあと2週間の運命だな」
「…」
 レグルスは押し黙り何も言えない。

 リリカはまた冷静な表情でレグルスに話しかける。
「私なら1500で祖人を打ち破れる策があるのだが乗ってみるか?」

 レグルスは顔を上げリリカの肩を掴み興奮気味に話しかける。
「それはどんな策だ?」

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