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第3章 鴉

第60話 急転直下

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 洞窟で2日経った。外は相変わらず風の轟音が続いている。
 外を眺め俺はアルクに話しかける。
「吹雪止みませんね」
「こればっかりは分からんからなー1週間続くこともあるし」
「1週間…」

 その話をした数分後、少しだけ風が大人しくなったような気がする。
 その1時間後には風はピタリと止み、晴れ間が見え始める。

「出るぞ!」
 リリカはすぐに荷造りをし出発の準備をする。
 俺もそれに習い、すぐに準備をする。

 外に出るとそれまでの嵐が嘘のように、晴れ渡っている。

 ビューーーッン!!

 俺たちが外にでてすぐだった。空を切る音。
 目の前を矢が通り過ぎていく。

 その瞬間、山なりに放たれた矢が雨のように降り出した。

 バルジがその大きな岩のような剣を振り、矢を薙ぎ払う。
 アルクが叫ぶ。
「あそこだ!」
 100メートルほど先に祖人数十人が矢を構えている。
 リリカは雪山の上を一直線に走り出し、俺たちも剣を抜きその後を追うよう走る。

 それを見て祖人たちは弓を捨て、斧や槍に持ち替え俺たちを迎え撃つ。

 先を走るリリカは剣を横に薙払い、一番近くにいた祖人の首を撥ね飛ばす。

 2番目を走る俺は剣先を祖人の胸に狙いをつけ、走りながら突き刺す。そしてそのまま剣を抜き、隣いる祖人を袈裟斬りする。

 アルクはナイフを両手に持ち、そのまま飛び上がり首を動脈を滑らかに斬り、血を吹き出しながら倒れる祖人。
 バルジは鉄の塊のような剣で祖人を押しつぶす。

 山の上に居た祖人たちはあっという間に倒したはずだった…
 つぎつぎと山を登る祖人の群れが見える。
「まさか…」
 俺たちは祖人の大群に飲まれていたのだった。

「はぁはぁはぁ」
 ブーン
 空を切る剣。

 その隙きを突いて、伸びてくる槍。
 それをなんとかかわす。
 半刻ほど戦い死体の山ができているのだが、祖人はその数を減らすどころか数を増し、攻撃も苛烈になる。
 祖人一人一人は人間より遥かに強い。槍や斧がかすめるだけで致命傷になる可能性すらもある。その緊張感を背負って戦っている。そして足元は雪…いつもよりも体力の消耗が激しい…

 皆の顔をみた。あのリリカですら肩で息をし、苦悶の表情を浮かべている。他の2人ももう限界というような表情で、祖人は輪になり徐々にその輪が狭くなる。

「やられたな…あの吹雪の中を移動しているとは」
 リリカは荒い息のまま話す。
 アルクも肩で息をしながらそれに答える。
「ええ…しかもこの人数まずいですね…」
「あいつらの狙いはおそらく壁…」
「見た感じ数万ってところですか…さすがにこの人数では壁を突破されるかも…」
「アルク…行けるか?」
「まさか…」
「ああ、私たち3人で突破口を開く。壁まで逃げ切れ」
「そんな…副長一緒に逃げましょう…」
「バカ言うなそれは無理だ。私たちの使命はなんだ」
「…壁を祖人の手から守ること」
「そうだ、だからお前が壁に行って伝えるんだ!」

 リリカの顔を見ると覚悟を決めたような目をしている。
「聞こえたなバルジ、ラグウェル。アルクを逃がすそして壁の鴉に祖人の南下を伝えてもらう」
 俺とバルジは戦いながら黙って頷く。

 アルクは蒼い顔をしているが、手を止める暇はなくひたすら戦っている。
「私が3つ数えたらやるぞ」
 コクリと3人は頷いた。

 バルジが先頭になり大きな岩のような剣を振り回しながら、突撃をする。俺たちもその後に続く。
「うおおおおおおお!!」

 バルジが突っ込んだあとを埋めるように祖人がやってくるのを防ぐように俺とリリカが戦う。その間を抜けるようにアルクが通る。

 そうして輪の最後にたどり着き、3人で振り返って戦い出す。
「行け!アルク!!」
 リリカが叫んだ。それを聞くまでもなく必死の形相で走るアルクが見えた。
 俺たちはアルクを追いかけようとする祖人を逃すまいと斬りつける。そして数十分が経っただろうか…

「副長とお前も逃げろ」
 バルジが言った。
「バルジさんの声初めて聞きましたよ」
 横に並んで戦う俺がそう答える。
「フン!」

 そう言いながら特大の剣を振り回すバルジ。しかし体から出血しているようにも見える。
 リリカも剣を振りながらバルジの方を見て呟く。
「バルジ…お前」
 バルジはただ頷いた。

「ラグウェル…行くぞ」
「そんなバルジさんは…」
「あの怪我では動けない…奴はそう悟ったんだここはあいつに任せて行くぞ」
「くっそぉぉぉ」
 俺は叫び、周りにいる祖人達を斬り伏せる。

 しかし何人斬ろうともその数は減らない…くそ!くそ!!!
「行け!!!」
 バルジが叫ぶ。
 リリカは頷き、躊躇する俺に
「バルジを無駄死にさせるつもりか!!!」
 目に涙を貯めそう言った。

 体に力が入る…がどうしようもない…
「すいません!!」
 バルジにそう言って俺は走り出した。リリカも俺の横に並ぶように走り出す。
 ちらりと振り返ると、バルジは祖人の群れに飲み込まれ祖人たちは執拗に追ってきているのが見えた。

「はぁはぁ」
 リリカの後を走って逃げる。リリカの後ろを走れば問題はないはず…だった。
 気がつくとを俺たちは崖の上に立っており30メートルほど下にはごーーっという音とともに氷らない川が流れている。

後ろを振り返る。祖人の群れが迫っている。
「副長…」
「生き延びるためには、こうするしかない…すまんな新人」
「いえ…必ず生き延びましょう」

槍を持った祖人が走ってくる。
リリカは叫ぶ!
「覚悟を決めろ新人!!」
「はい!!」
俺が返事をすると同時に二人で崖下を流れる川に飛び込んだ。
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