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第2章 騎士学校

第46話 ちびっこ剣術大会

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 剣術大会当日の朝を迎えた。シャウラが寮にやってきて俺達は会場へ向かう。剣術大会は学校の近くにある王立武道館と呼ばれる場所で行われる。

 玉ねぎのような屋根が印象的な建物で相当な広さがあり、試合会場は学校の道場4つ分ぐらいの広さで、4試合一気に行うことができる。
 王都で剣術を習う少年、少女達が集う剣術大会であるためその人数も多い。

 パックとは会場で落ち合うようになっており、俺達は一足先に武道館に着きパックを待つ。
 10分ほどまっていると、パックと明らかに活気無く俯いて歩く男が一緒にやってきた。
 俺をみつけたパックは駆け寄ってきて挨拶をする。
「おはようございます!師匠」
「おはようパック」
 無精髭姿で痩せた活気のない男はパックの横に立っており俺達にペコリと頭を下げ話しかけてくる。
「パックの父です…パックがお世話になったみたいで」
「いえ…俺達はパックの夢の手助けをしているだけです」
 俺がそう言うとシャウラも頷く。

 俺達が話をしているところに馬車が止まり、馬車の扉が開く。中から腹がはちきれんばかりに大きく突き出だし醜いヒキガエル様な顎をした中年の男とパックを殴っていたガタイのいい少年イヴァンが降りてくる。

 太った中年の男がパックの父親を見て声を掛ける。
「お前は…確かうちの木を枯らした庭師だったな…二度と私の前に現れるなといっただろうが!!」
 パックの父は俯いて
「す、すいません…」
「フン!」
 イヴァンはパックの胸ぐらを掴み話しかけている。
「親が親なら子も子だな。情けない面してやがるわ」

 パックは掴まれた腕を払い
「お前にだけは絶対に負けない!」
 睨みつけ啖呵を切る。

 余裕を見せるような表情でイヴァンが口を開く。
「どうせ俺と当たる前にお前は負ける。お前が勝てるはずないだろうが」
 そういうとイヴァンとイヴァンの父は会場に入っていく。

「親が親なら子も子だな…ありゃひどいわ」

 ボソッと俺がそう呟くとシャウラも頷き口を開く。
「どこかの火炙りになった貴族を思い出したよ」
「そうだな…」

 パックの父親は俺達に会釈をして会場の客席側の入り口から入っていく。パックは父親に手を振っている。
「パック、父ちゃん好きなんだな」
「うん…でも昔の父ちゃんはもっと格好良くて…俺は本当は父ちゃんみたいな庭師になりたかったんだけど…」
「分かってるよ…今日優勝してお前の父ちゃんに格好いいところみせようぜ」
「うん」
 目を輝かせパックは元気よく返事をし頷いた。

 会場の控室に入ると少年、少女達が思い思いに過ごしている。剣の素振りをするものもいれば、目をつぶり集中しているもの。師匠と話をしているもの。

 俺達は隅っこの椅子に腰掛けている。
 パックがあることに気づき話しかけてくる。
「そういやあの怖いおねーさんは?」
「マーフか、あいつなんか用事があるとかなんとかいって、遅れるとかなんとかいってたな」
「ふーん」

 控室の中央の壁にトーナメント表が掛けられており、パックとイヴァンが当たるのは決勝ということは分かった。ちなみに1回戦の相手は、デイトナ・スタントンという聞いたこともない名前のやつだった。

 控室の扉が開く。係員がやってきて、名前を呼ぶ。その中にパックの名前もあり、パックは立ち上がる。
 俺がパックに話しかける。
「昨日やったようにすればいい…ただそれだけだ」
「はい!」
「よし、良い返事だ」
 俺達はパックの後について会場に向かう。

 会場に近づくにつれ、歓声が徐々に大きくなる。試合会場に入るとすり鉢状になった満員の客席が見える。
 ポツリと俺が呟く。
「すごいな…」
 横にいるシャウラが話しかけてくる。
「でしょ。王都の娯楽の一つでもあるからね」
「なるほど…」

 俺はその客席を見渡すと、貴賓席のようなところに薄いピンクのドレスを着たマーフの姿とビシッとした白い制服を着た剣聖の姿があった。

 パックを見るとガチガチに緊張しているようで、動きが硬く表情も硬い。
 その様子をみてシャウラが呟く。
「大丈夫かな…」
「パック!パック!!」
 パックに俺が声を掛けるが、その声はパックに届かない。

 そしてそのままパックは中央に向かう。

 ちびっこ剣術大会では怪我をしないようにいつもの硬い木剣ではなく、柔な木を使ったもので行われる。
 その剣を審判から受け取り、パックは中央に立つ。

 その様子をみたシャウラは
「大丈夫そうだよ」
「だといいけど…」

 そして試合が始まった。

 パックは引きつった表情のまま、試合開始と同時に剣を振りかぶり真っ直ぐに相手に向かった。

 シャウラが俺のことを不安そうに見る。
 俺もあっ!というような顔でシャウラを見る。

 パックには先に仕掛けるなと言っていた。素人が先に仕掛けても、まずかわされて反撃されてしまう。パックの鍛えた野生の勘を駆使して相手の攻撃をかわしてからのカウンター。これが俺達の作戦…というかこれしかできない。

「あいつ、緊張して忘れてやがる…」
「一体どうすれば…」
「まずい…」

 案の定パックのヒョロヒョロとした一撃はさっくりとかわされ、そのまま相手が反撃に転じてくる。
 パックの腹をかすめていく剣。

「助かったー」
 ホッとすると俺とシャウラ。
「でも…緊張しすぎて我を忘れてるよ…」
「ああ…」

 どうすればいい?どうすれば…

 ダーン!!!

 すこし会場が揺れる。

 審判と相手選手そしてパックが俺の方を見る。
 俺は床を思いっきり両手で叩いた。その音と衝撃がパックに伝わるように。

 審判がこっちにやってきて
「こらぁ!!なにしてんだ!」
「す、すいません。つい応援に力は入っちゃったみたいで」
 俺をかばってシャウラが弁明をする。
「今度やったら退場させるからな!」
 俺とシャウラは審判に頭を下げる。

 パックの方をみると目が合うそしてニコッと笑い、俺が親指を立てるとパックも親指を立てる。
「もう大丈夫」
「ほんとに?」

 そして試合が再開される。

 今度のパックは自ら攻めるようことはせず、相手の出方を待っている。そしてしびれを切らした相手が剣を振りかぶり一直線に突っ込んでくる。その攻撃をパックは昨日のシャウラと戦ったときのようにひらりとかわし、ぽんと相手の頭を叩く。
「勝負あり!!」
 審判がパックの勝ちを宣言した。



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