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第2章 騎士学校

第43話 野生の勘を取り戻せ

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「あんたに弟子ができた?」
 朝、学校に行くときにマーフは驚きの声を上げ、好奇な目で俺のことを見る。
「ムリムリ、あんた人に物を教えるって柄じゃないもの」
「ちびっこ剣術大会優勝を目指します」
「あんたそれ本気で言ってんの?その大会レベル高いのよ」
「優勝目指すって約束したしなぁシャウラ」
「うん。優勝を目指すよ僕らは」
「ふーん。あんたらがそこまで言うならその子結構強いの?」
「剣握ったことないって言ってた」
「うん。素人」
 マーフは頭を抱え
「そんなんで優勝できるはずないでしょ!シャウラも知ってるでしょ。みんな本気で戦ってるの」

 シャウラは真剣な顔でマーフを見つめ
「うん。知ってるよ。でも彼の思いは本物なんだ…だから僕らもその本物の思いに応えたいんだ」
「まぁしょうがないわね。何があったかは知らないけれど、あんた達が本気なら応援はするわよ」
「うん、ありがとう」

 マーフは俺の方を見て
「でも1週間しかないのに、その素人をどうやって鍛えるのよ」
「とりあえず、一晩考えた案があるんだけど…」
「何よ言いなさいよ」

 ――放課後

 学校の門の前にパックが立っている。
「師匠!!」
 そういって俺達に駆け寄ってくる
「へぇぇ君があんたの弟子かぁ」

 パックは胸を張り
「そうだ。俺が師匠の一番弟子のパック・ゴーシュだよろしく!」
「マーフよ。威勢がいい子ね」
「ねーちゃんは師匠のこれ?」
 パックは小指を立て俺に見せる

 ボコン!

「…んなわけあるか!」
 マーフは顔を真っ赤にさせパックの頭を叩く。

「痛っ!!」
 パックは頭を抑え
「何すんだよ。ねーちゃん…さては」
 パックがそういいかけるとマーフはパックの首を抑えこみ、少し離れた場所に連れて行く。

 ブルブルと震えながらパックとしれっとした顔のマーフが戻ってくる。
「冗談のつもりで言ったのにあのねーちゃんこええ」
 俺はパックに頷きながら話しかける。
「怖いから近寄っちゃダメだぞ」

 しみじみと俺の顔を見てマーフが話す。
「口の悪さまで師匠に似てるのねぇ」
「はいはい」

 そんなやり取りをした後パックが目を輝かせて話しかけてくる。
「それで師匠。今日の練習は?」
「ああ、それだけどな、ちょっと俺に考えがあって」

 そういって俺達はマーフの馬車に乗る。
「パック、一緒に来い」
 パックは怪訝そうに俺を見てから馬車に乗り込むと馬車は走り出す。
「師匠、練習だよ?別に馬車に乗る必要ないじゃん」
「それがあるんだよなぁ」
「ねーちゃん達も何か聞いての?」
「私はあなた達を連れて行く場所しか聞いてないわ」
「だったらどこに行くか教えてくれよー」
「それは着いてからのお楽しみー」
 悪ふざけっぽく俺が言う。
「ちぇっ」
 パックは不貞腐れてそっぽを向く。

 30分ほど馬車が走り停車する。

「着いたわよ」
 そういってマーフが馬車の扉を開けると、まだ陽は高いが来るものを拒むような鬱蒼とした森が目の前に広がっている。
 俺はその森にある種の懐かしさを感じながら馬車から降りる。
「うん、うんいい森だ!」
 その言葉に3人は無言になる。

 俺は用意した荷物を持ち森のなかに入っていく。
 …他の3人は入り口で俺が入っていくのを黙ってみている。

「あれ?一緒に入ってきてよ」
「あんた剣術の練習するんでしょ?」
 マーフは怪訝そうな顔をして尋ねてくる。
「うん、そうだよ」
 そういいながら俺が先陣を切って森の奥に入っていく。草をかき分け、小川を越え暫く入っていくとちょうど4人で座ることができるような平らな場所があり、そこに俺は腰を下ろす。
「じゃあみんな座って」
 3人はやっとの思いでついてきたと言うような表情をしており、黙って腰掛けて一息ついている。
「あんたの体力はホント化物ね」
 呆れたような顔でマーフが言った。

 パックの方をみると今までの威勢の良さもなくただ黙って座っている。

 3人に聞こえるような声で口を開く。
「それじゃパックくんの特訓内容を発表します」

「これから5日間。パック君はこのナイフと火打石と水のみで生活してもらいます」
 荷物をパックに放り投げる。パックは荷物を受け取り蒼い顔をして呟く
「うそ…俺は剣術の練習を頼んだのに」
 パックを睨むように俺は話す。
「1週間で勝つ。そのためにはこれしかないんだ。名付けて野生の勘を取り戻せ作戦だ」

 3人共唖然とし、慌てたようにシャウラが話しかけてくる。
「え?それってどいうこと」
「俺はここより危険なものがうろつく森にパックと同じ年ぐらいで3ヶ月は放置されたんだ。そのときに俺の師匠が言った。人間本来の強さを取り戻すことが強くなる近道だって」
「そ、そんな無茶苦茶な…」
「たった5日間だ。余裕余裕」

 その話を聞いてパックは目を輝かせ
「わかったよ師匠。師匠もやってきたことなんだね…俺5日間で必ず野生の勘を取り戻すよ!」

 その言葉を聞いて、少し嬉しくなり、声が上ずる。
「そうだ!その意気だ!」

「で、食事とかどうすれば?」
「え?自分で捕まえて食べる。これが野生の基本だろ?」
「自分で捕まろって言われても…弓も無ければ罠もないのに…」
「まあ見てろ」

 俺は耳を澄ます…ガサ、ガサと近くで音が聞こえる。
 スッっと跳びあがり、草むらに突っ込む。手を伸ばしその音がさせたものを掴みながら一回転をする。そしてその掴んだものの耳を掴み、皆のもとに戻る。

「野ウサギだ。この辺は動物が多いから捕まえ食えばいい」
 野ウサギを離すと野ウサギは慌てた様子で奥に逃げていく。
 それをみてパックはまたもや目を輝かせ
「師匠…すげぇぇ尊敬する」
「そうだろ?この5日間であれぐらいはできるようにな」
「うん。分かった」
 パックは興奮気味に頷いた。

「それじゃ俺達は行くから、じゃあ5日後」
 そう言ってもと来た道を帰っていく。
 心配そうな表情をしたマーフが話しかけてくる。
「ねえ、ほんとに5日間放置するつもりなの?」
「毎日、見に来るよ。バレないようにね」
「そっかならいいけど」

 怪訝そうな顔をしたシャウラが
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だろ。この森は危ない奴とか出ないし」
「そんな問題じゃないような」
「これを乗り越えたらパックは強くなる!」

 こうしてパックは5日間、森のなかで生活するようになった。


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