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第18話 鉄マユ ーユージンsideー
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私は目を開いて、頭に被ったヘルメット状のVRマシンを取り外す。体を天蓋付きの大きなベッドから降ろして、30畳はある部屋のクローゼットにVRマシンをしまい込む。
私は部屋にある化粧台に座って、自分の顔を見る、そこにはさっき助けた聖女アレクシアとそっくりな顔した人間が映し出されている。
「あの人の中身は男の人なのよね……」
ボソッと私は呟いた。
彼女の名前は、鉄マユ。時価総額数兆円とも言われる巨大企業、鉄財閥の創業者一族、鉄家の次女にして跡継ぎの目されている眉目秀麗、頭脳明晰、品行方正を絵に書いたような17歳の令嬢。それが鉄マユなのだ。
そんな彼女が何故、救国オンラインを始めるに至ったのかそれは1か月前まで遡る。
――1カ月前
「はぁ……」
車の後部座席に座る私は窓の外を眺めながら大きなため息をつく。
今日は父に言われて会合に参加させられたその帰りの車中。父が私に紹介する殿方は、みな素敵な家柄も確かな紳士達ばかりだけれど……みんな私を見ているのではない。鉄家を見ている。
男の人達はみんなそう私、鉄マユをみているのではない。鉄家をみて私に声を掛けてくるのだ。車が門をくぐり正面玄関に着く。執事が後部座席を開くと私が降りる。
お気に入りの青いドレスを着ていた私はそのまま部屋に戻ろうとすると、ボサボサの髪で黒縁の眼鏡を掛けた上下スウェットのだらしない格好をしている3つ上の姉のアキの姿が目に飛び込んでくる。
「マユちゃんおかえりー」
と話しかけるお姉さまの目は真っ赤に充血している。
「お姉さま、また徹夜ですの?」
「そっもうすぐ即売会が近いから、追い込みってやつでね……」
「まだあんな穢らわしいものを書いてらっしゃるのですか?」
私がそういうとお姉さまは
「マユちゃんもBLの尊さが分かる日がくるよ」
そう言ってうんうんと頷いている。
「私にはあんな男同士で抱き合ったりしてる絵は理解できません! 」
ピシャリとそう言って私は自分の部屋に戻り、ドレスを脱ぐ。
姉は私のように跡取りを巡ってお見合いのようなことはさせられていない。姉は自由奔放な性格で型に嵌められる私のような生き方を嫌った。
ある時、父と大喧嘩をして家を飛び出して一人暮らし始めた姉だったが、父というものにとって娘は可愛いものらしく、とにかく家に居てくれと父が折れて家に戻ってくることとなった。
姉は昔から絵が上手く、一人暮らしを始めたときに同人誌というものを作ってそれを売って生計を立てていたらしい。
その同人誌というものを私もチラッと読ませてもらったのだけれど、男と男があられもない姿で抱き合ったりしている本を売って大人気だと胸を張っていた。
私はそんな姉が……どこかで羨ましく思っていると思う。私には父に歯向かうような勇気もなく、やりたいことも特技もない。
ただ言われるがままに育ってきた私には無理な生き方。
そのままドレスを脱いでラフな格好をした私は大きなベッドでゴロっと横になる。
コンコンとドアをノックしたと思ったら返事をする前にガチャっとドアを開ける。こんな開け方をするのはこの家の中では姉しかいない。
「お姉さま、何のようですの?」
私はドアの反対方向を向いているが、入ってきた人はもう分かりきっているので確認もせずに話しかける。
「ちょっとマユちゃんとお話しようかなぁと思って」
「即売会で忙しいんじゃないんですか?」
「うん……まあそうだけど一息ついたからちょっとねぇ」
そしてベッドに腰掛けてたのだろう、ベッドが少し軋む。
「マユちゃんこっちむいてー」
そう言われゴロっと横を向くと何やらヘルメットのようなものを持った姉さんの姿がある。
「ヘルメット?」
私がそういうと姉は首を横に振る。
「VRマシンっていうゲーム機。これを被ってゲームをするの」
「へぇぇ。今はそんなに凄いんですね」
「そう。凄いの。これを使ってゲームをしたら別の誰かになれるんだよ」
「別の誰かに……」
すると姉は急にしんみりしたような感じになって
「私がさ、家のことを全部放り出してマユに押し付けたせめての罪滅ぼしかなって……」
「お姉さま……」
「もうマユちゃんがさ、私みたいに放り出すなんてこと出来ないよね……だったゲームの中だけは違う自分になって楽しめたらって思ってこのゲーム機プレゼントなんだ」
「お姉さま……私はそんな事思ったことなんて……」
「このゲーム機にもうゲームインスールしてあるし、マユちゃんスマホ持ってないから、私のサブスマホと繋いである」
姉はそう言うとヘルメットを私に強引に被せる。
「それじゃゲームスタートするから目を閉じて」
「え?えええ?」
私は戸惑いながら目を閉じる。
すると目の前に救国オンラインという表示が現れた。
私は部屋にある化粧台に座って、自分の顔を見る、そこにはさっき助けた聖女アレクシアとそっくりな顔した人間が映し出されている。
「あの人の中身は男の人なのよね……」
ボソッと私は呟いた。
彼女の名前は、鉄マユ。時価総額数兆円とも言われる巨大企業、鉄財閥の創業者一族、鉄家の次女にして跡継ぎの目されている眉目秀麗、頭脳明晰、品行方正を絵に書いたような17歳の令嬢。それが鉄マユなのだ。
そんな彼女が何故、救国オンラインを始めるに至ったのかそれは1か月前まで遡る。
――1カ月前
「はぁ……」
車の後部座席に座る私は窓の外を眺めながら大きなため息をつく。
今日は父に言われて会合に参加させられたその帰りの車中。父が私に紹介する殿方は、みな素敵な家柄も確かな紳士達ばかりだけれど……みんな私を見ているのではない。鉄家を見ている。
男の人達はみんなそう私、鉄マユをみているのではない。鉄家をみて私に声を掛けてくるのだ。車が門をくぐり正面玄関に着く。執事が後部座席を開くと私が降りる。
お気に入りの青いドレスを着ていた私はそのまま部屋に戻ろうとすると、ボサボサの髪で黒縁の眼鏡を掛けた上下スウェットのだらしない格好をしている3つ上の姉のアキの姿が目に飛び込んでくる。
「マユちゃんおかえりー」
と話しかけるお姉さまの目は真っ赤に充血している。
「お姉さま、また徹夜ですの?」
「そっもうすぐ即売会が近いから、追い込みってやつでね……」
「まだあんな穢らわしいものを書いてらっしゃるのですか?」
私がそういうとお姉さまは
「マユちゃんもBLの尊さが分かる日がくるよ」
そう言ってうんうんと頷いている。
「私にはあんな男同士で抱き合ったりしてる絵は理解できません! 」
ピシャリとそう言って私は自分の部屋に戻り、ドレスを脱ぐ。
姉は私のように跡取りを巡ってお見合いのようなことはさせられていない。姉は自由奔放な性格で型に嵌められる私のような生き方を嫌った。
ある時、父と大喧嘩をして家を飛び出して一人暮らし始めた姉だったが、父というものにとって娘は可愛いものらしく、とにかく家に居てくれと父が折れて家に戻ってくることとなった。
姉は昔から絵が上手く、一人暮らしを始めたときに同人誌というものを作ってそれを売って生計を立てていたらしい。
その同人誌というものを私もチラッと読ませてもらったのだけれど、男と男があられもない姿で抱き合ったりしている本を売って大人気だと胸を張っていた。
私はそんな姉が……どこかで羨ましく思っていると思う。私には父に歯向かうような勇気もなく、やりたいことも特技もない。
ただ言われるがままに育ってきた私には無理な生き方。
そのままドレスを脱いでラフな格好をした私は大きなベッドでゴロっと横になる。
コンコンとドアをノックしたと思ったら返事をする前にガチャっとドアを開ける。こんな開け方をするのはこの家の中では姉しかいない。
「お姉さま、何のようですの?」
私はドアの反対方向を向いているが、入ってきた人はもう分かりきっているので確認もせずに話しかける。
「ちょっとマユちゃんとお話しようかなぁと思って」
「即売会で忙しいんじゃないんですか?」
「うん……まあそうだけど一息ついたからちょっとねぇ」
そしてベッドに腰掛けてたのだろう、ベッドが少し軋む。
「マユちゃんこっちむいてー」
そう言われゴロっと横を向くと何やらヘルメットのようなものを持った姉さんの姿がある。
「ヘルメット?」
私がそういうと姉は首を横に振る。
「VRマシンっていうゲーム機。これを被ってゲームをするの」
「へぇぇ。今はそんなに凄いんですね」
「そう。凄いの。これを使ってゲームをしたら別の誰かになれるんだよ」
「別の誰かに……」
すると姉は急にしんみりしたような感じになって
「私がさ、家のことを全部放り出してマユに押し付けたせめての罪滅ぼしかなって……」
「お姉さま……」
「もうマユちゃんがさ、私みたいに放り出すなんてこと出来ないよね……だったゲームの中だけは違う自分になって楽しめたらって思ってこのゲーム機プレゼントなんだ」
「お姉さま……私はそんな事思ったことなんて……」
「このゲーム機にもうゲームインスールしてあるし、マユちゃんスマホ持ってないから、私のサブスマホと繋いである」
姉はそう言うとヘルメットを私に強引に被せる。
「それじゃゲームスタートするから目を閉じて」
「え?えええ?」
私は戸惑いながら目を閉じる。
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