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二章
23:ブレイバーズ 7
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俊彦が父親から借りた特級野営セットを使用して睡眠を取った彼らが、亜人系・特級ダンジョンに来て今日が二日目。
初日は苦戦しながらも、戦闘不能になるまで追い込まれることなく、モンスターを討伐した<ブレイバーズ>。
さりとて、戦線が崩壊するほどでなくとも、ポーションの消費が激しいのは痛いところ。
特に多いのが魔力回復ポーションだ。
初日に瑞穂が使った【ピュリフィケーション】が、彼女の総魔力の二割と引き替えに発動されたのを考えると、魔力を一気に回復できるポーションがいかに大事かわかるだろう。
その重要な魔力回復ポーションの価格や効果などは以下のとおり。
最下級:一〇〇〇円、魔力を一割回復。
下級:五〇〇〇円、魔力を二割回復。
中級:二十万円、魔力を三割回復。
上級:五十万円、魔力を六割回復。
特級:五〇〇万円、魔力が全快する。
超級:一五〇〇万円、魔力が全快し、その後六十分間は魔法を使っても魔力が消費されない。
ちなみに、同ランクの魔力回復ポーションを連続で服用しても、効果はないので注意が必要だ。
それはどういうことかというと、中級魔力回復ポーションを服用してすぐに下級ポーションを飲んだ場合、合計五割の魔力が回復するのだが、下級の次に再び下級を口にしても、魔力の回復量は二割になってしまう。
このことは治療ポーションにも言えることだが、同ランクのポーションは間隔を一時間空けなければ、ポーションの効果が発動しないのだ。
そういった理由から術者は、探索のスピード、敵の強さ、そのダンジョンで使用するであろう魔法の種類やそれに伴って消費される魔力量などを計算し、魔力回復ポーションの使用頻度や、使う種類をきちんと管理する必要があるのだ。
さておき、初日の様子を顧みた俊彦以外のメンバーは、容易に推測できていた――今回の探索において、ボスまでたどり着けないと。
そんな<ブレイバーズ>の初期メンバーである恵子と瑞穂には、新しく設定したひとつの目標があった。
それは<EAS>に加入させてもらうというもの。
そしてそのためには実績が必要だと判断した彼女たちは、今回思い切って特級ダンジョンにやってきていたのだ。
なぜなら、活動の場をすでに特級ダンジョンに移している朔斗と一緒に活動したいのなら、せめて自分たちも同ランクのダンジョンへ行ったという事実を欲したから。
朔斗が出演する動画を見る限り、ボスは彼が倒しているので、彼女たちは今回の探索でボスまで行こうと思っていないし、道中も限界ギリギリまで粘るつもりは毛頭ない。
それでも特級ダンジョンともなれば、いついかなる時に危険が訪れるかわからないため、恵子と瑞穂は貯蓄を切り崩して転移石を用意していた。
この緊急脱出用アイテムを持参しているのは彼女たちだけではない。
息子の身を案じた石井達也が俊彦にプレゼントしていたし、良太も保険として購入してきていた。
五人中、唯一持っていないのが伏見和江。
彼女はパーティーが壊滅してからは常に金欠のため、どうしても用意できていなかった。
そのような裏事情がある中、機嫌の良い俊彦が先頭に立ち、草原を進んでいく。
彼以外の四人の表情が晴れないのを気にも留めない俊彦が能天気な声を出す。
「やっぱりあいつにできて俺たちにできないことはないな」
脳内に朔斗を思い浮かべ、にやりと笑う俊彦。
数秒、誰からの返事もないことで、眉間にしわを寄せた彼が振り向き口を開く。
「皆、聞こえてるか? ダンジョンだから周囲に気を配るのは当然だが、会話もしていかないと身が持たないぜ?」
「そうだよね」
内心とまったく別の言葉を出した良太。
さらに俊彦の同調圧力に負けた女性陣三人も、彼へ同意を示す。
(マジでこいつはイカれてる……昨日もあれだけ苦戦してたってのに、どうしてこんなに気を抜けるんだ? やはり当初の予定どおり、こいつを切り捨てるしかないだろう)
以前、朔斗を引き入れるため、和江を道中で亡き者にしようと画策していた良太だったが、タイミングが悪いことに、<ブレイバーズ>がしばらく中級ダンジョンに潜っていたので、目的を果たせなかった。
なぜなら、そんなに苦戦しない中級に出現するモンスターを相手に、厳しい戦いを演じつつ、仲間に被害を受けさせるという一連の行動を、他のメンバーから疑いの目を向けられずに実行するのは至難の業だったからだ。
俊彦が前を向いて進み始めたので、幼い頃から一緒だった幼馴染へ冷たい視線を送る良太。
しばし、他愛のない会話をしながら探索を続けた<ブレイバーズ>だったが、その足が突如止まる。
彼らの視線の先にあるのは、不自然に生えている数十本の樹木。
それらとまだまだ距離がある中、和江が言う。
「迂回したほうがいいんじゃない?」
「賛成」
「うん」
即座に和江の意見に賛同する恵子と瑞穂。
そして瑞穂がさらに口にした。
「あれは多分――」
彼女が自身の推測をすべて言う前に、言葉を被せてきたのは俊彦。
「このまま直進だ!」
「え!? 危ないよ。あの樹木は、まず間違いなくドライアドだと思う」
「あっ、そうだ。絶対そう」
すぐさま瑞穂と同意見を述べた和江に対し、表情を輝かせた俊彦が告げる。
「俺が一網打尽にしてやるって!」
探索者としての第六感なのか、悪寒がしてきた恵子は絶対にあっちへ行きたくないと願う。
そんな想いを汲み取らない俊彦が恵子に命令を下す。
「まずは遠くから恵子の範囲魔法を撃てばいいだろう? 相手は木なんだからよく燃えるぞ」
「あれを全部燃やし尽くせるだけの実力――私にはないよ」
「大丈夫大丈夫」
「いやいや、本当に無理……無理……」
「恵子の実力は俺が良く知ってるって!」
根拠もない言葉が俊彦の口から出てくることに嫌気が差す女性陣。
三人が及び腰なのを見て取った俊彦は、ここが自分の格好良いところを見せるシーンだと決心していた。
そのため、どうしても全員の意見をすり合わせる必要がある。
普段であればモンスターに向かって猪突猛進を繰り返す彼だったが、あの数相手にソロで突撃するのはさすがに危険だと感じていたのだ。
そんな彼がここまで意見を言っていない良太に視線を向けて口を開く。
「良太はどう思う?」
「うーん、俊彦がいけるって思うなら僕はいいよ」
「おっ、まじか! さすが良太だ! よし、なら行こうぜ!」
女性陣は空耳かと思ったが、目の前で会話をしているふたりを見て、そんなことはなかったのだと気落ちしてしまう。
瑞穂は自分の親友と<EAS>に加入したいと考えていたとはいえ、今はここが自分の属するパーティーだし、人間関係も上手くいっていないが、それでも幼い頃からの友人たちを死なせたいわけじゃないので、やると決めたのなら手抜きをするわけにはいかない。
仕方ないなと覚悟を決めた彼女が言う。
「俊彦は自信満々だけど、どうしても私は不安が残るの。だから、今回の戦闘はいつもより見切りを早くしましょう。最悪、転移石の使用も視野に入れて」
そう言いつつ、保険の品を持たない和江に気の毒そうな視線を向ける瑞穂。
顔を伏せた和江に向かって、ここがターニングポイントだと感じた俊彦が、ポケットから転移石を取り出して言った。
「和江、これを渡しておく。それなら安心だろう? まあ使わないで済むはずだけどな」
にかっと笑顔を見せながら、和江へと近づいた俊彦が転移石を手渡す。
困惑顔の和江はたどたどしく口を開いた。
「そんなの悪いよ……」
「大丈夫だって!」
「それに、もしも使っちゃったら返せないし……」
「危険なときは使ってもいいが、基本的にそうはならないと思うぜ? なんせ俺も本気を出すし、だから俺の雄姿を見ててくれよ?」
黙ってしまった和江に対し、言葉を続ける俊彦。
「心配すんなって。それに万が一それを使ったとしても、俺に返却しなくてもいい。それなら安心だろう?」
「そ、そんな……」
(くっくっく、これで俺の株がストップ高だ。ドライアドを倒したら、今度こそ和江を俺のものにできるだろう。こいついい身体をしてるし、今から気分が上がるぜ! あとはそうだな……彼氏とすぐに別れさせないほうがシチュエーション的に楽しめそうだ)
特級ダンジョンにいるというのに、ゲスな妄想を始める俊彦。
鼻の下が伸び、だらしのない顔になっていることに和江以外の三人が気づく。
恵子と瑞穂は内心『さいってぇー』と俊彦を見下している。
転移石を使うかもしれない状況になってしまう可能性を考えたら、ドライアドと思われるモンスターと戦闘するのは歓迎すべきことじゃないと思う恵子や瑞穂だったが、彼女らがこれ以上反対してもその意見が通らないと、今まで<ブレイバーズ>で活動してきたので、自然と理解できてしまう。
なにより、先ほど一度は覚悟を決めたのだ。
こうして彼ら五人は数が多く、強敵であろうドライアドと戦うため、不自然に出来た樹木の密集地帯へと徐々に近づいていくのだった。
初日は苦戦しながらも、戦闘不能になるまで追い込まれることなく、モンスターを討伐した<ブレイバーズ>。
さりとて、戦線が崩壊するほどでなくとも、ポーションの消費が激しいのは痛いところ。
特に多いのが魔力回復ポーションだ。
初日に瑞穂が使った【ピュリフィケーション】が、彼女の総魔力の二割と引き替えに発動されたのを考えると、魔力を一気に回復できるポーションがいかに大事かわかるだろう。
その重要な魔力回復ポーションの価格や効果などは以下のとおり。
最下級:一〇〇〇円、魔力を一割回復。
下級:五〇〇〇円、魔力を二割回復。
中級:二十万円、魔力を三割回復。
上級:五十万円、魔力を六割回復。
特級:五〇〇万円、魔力が全快する。
超級:一五〇〇万円、魔力が全快し、その後六十分間は魔法を使っても魔力が消費されない。
ちなみに、同ランクの魔力回復ポーションを連続で服用しても、効果はないので注意が必要だ。
それはどういうことかというと、中級魔力回復ポーションを服用してすぐに下級ポーションを飲んだ場合、合計五割の魔力が回復するのだが、下級の次に再び下級を口にしても、魔力の回復量は二割になってしまう。
このことは治療ポーションにも言えることだが、同ランクのポーションは間隔を一時間空けなければ、ポーションの効果が発動しないのだ。
そういった理由から術者は、探索のスピード、敵の強さ、そのダンジョンで使用するであろう魔法の種類やそれに伴って消費される魔力量などを計算し、魔力回復ポーションの使用頻度や、使う種類をきちんと管理する必要があるのだ。
さておき、初日の様子を顧みた俊彦以外のメンバーは、容易に推測できていた――今回の探索において、ボスまでたどり着けないと。
そんな<ブレイバーズ>の初期メンバーである恵子と瑞穂には、新しく設定したひとつの目標があった。
それは<EAS>に加入させてもらうというもの。
そしてそのためには実績が必要だと判断した彼女たちは、今回思い切って特級ダンジョンにやってきていたのだ。
なぜなら、活動の場をすでに特級ダンジョンに移している朔斗と一緒に活動したいのなら、せめて自分たちも同ランクのダンジョンへ行ったという事実を欲したから。
朔斗が出演する動画を見る限り、ボスは彼が倒しているので、彼女たちは今回の探索でボスまで行こうと思っていないし、道中も限界ギリギリまで粘るつもりは毛頭ない。
それでも特級ダンジョンともなれば、いついかなる時に危険が訪れるかわからないため、恵子と瑞穂は貯蓄を切り崩して転移石を用意していた。
この緊急脱出用アイテムを持参しているのは彼女たちだけではない。
息子の身を案じた石井達也が俊彦にプレゼントしていたし、良太も保険として購入してきていた。
五人中、唯一持っていないのが伏見和江。
彼女はパーティーが壊滅してからは常に金欠のため、どうしても用意できていなかった。
そのような裏事情がある中、機嫌の良い俊彦が先頭に立ち、草原を進んでいく。
彼以外の四人の表情が晴れないのを気にも留めない俊彦が能天気な声を出す。
「やっぱりあいつにできて俺たちにできないことはないな」
脳内に朔斗を思い浮かべ、にやりと笑う俊彦。
数秒、誰からの返事もないことで、眉間にしわを寄せた彼が振り向き口を開く。
「皆、聞こえてるか? ダンジョンだから周囲に気を配るのは当然だが、会話もしていかないと身が持たないぜ?」
「そうだよね」
内心とまったく別の言葉を出した良太。
さらに俊彦の同調圧力に負けた女性陣三人も、彼へ同意を示す。
(マジでこいつはイカれてる……昨日もあれだけ苦戦してたってのに、どうしてこんなに気を抜けるんだ? やはり当初の予定どおり、こいつを切り捨てるしかないだろう)
以前、朔斗を引き入れるため、和江を道中で亡き者にしようと画策していた良太だったが、タイミングが悪いことに、<ブレイバーズ>がしばらく中級ダンジョンに潜っていたので、目的を果たせなかった。
なぜなら、そんなに苦戦しない中級に出現するモンスターを相手に、厳しい戦いを演じつつ、仲間に被害を受けさせるという一連の行動を、他のメンバーから疑いの目を向けられずに実行するのは至難の業だったからだ。
俊彦が前を向いて進み始めたので、幼い頃から一緒だった幼馴染へ冷たい視線を送る良太。
しばし、他愛のない会話をしながら探索を続けた<ブレイバーズ>だったが、その足が突如止まる。
彼らの視線の先にあるのは、不自然に生えている数十本の樹木。
それらとまだまだ距離がある中、和江が言う。
「迂回したほうがいいんじゃない?」
「賛成」
「うん」
即座に和江の意見に賛同する恵子と瑞穂。
そして瑞穂がさらに口にした。
「あれは多分――」
彼女が自身の推測をすべて言う前に、言葉を被せてきたのは俊彦。
「このまま直進だ!」
「え!? 危ないよ。あの樹木は、まず間違いなくドライアドだと思う」
「あっ、そうだ。絶対そう」
すぐさま瑞穂と同意見を述べた和江に対し、表情を輝かせた俊彦が告げる。
「俺が一網打尽にしてやるって!」
探索者としての第六感なのか、悪寒がしてきた恵子は絶対にあっちへ行きたくないと願う。
そんな想いを汲み取らない俊彦が恵子に命令を下す。
「まずは遠くから恵子の範囲魔法を撃てばいいだろう? 相手は木なんだからよく燃えるぞ」
「あれを全部燃やし尽くせるだけの実力――私にはないよ」
「大丈夫大丈夫」
「いやいや、本当に無理……無理……」
「恵子の実力は俺が良く知ってるって!」
根拠もない言葉が俊彦の口から出てくることに嫌気が差す女性陣。
三人が及び腰なのを見て取った俊彦は、ここが自分の格好良いところを見せるシーンだと決心していた。
そのため、どうしても全員の意見をすり合わせる必要がある。
普段であればモンスターに向かって猪突猛進を繰り返す彼だったが、あの数相手にソロで突撃するのはさすがに危険だと感じていたのだ。
そんな彼がここまで意見を言っていない良太に視線を向けて口を開く。
「良太はどう思う?」
「うーん、俊彦がいけるって思うなら僕はいいよ」
「おっ、まじか! さすが良太だ! よし、なら行こうぜ!」
女性陣は空耳かと思ったが、目の前で会話をしているふたりを見て、そんなことはなかったのだと気落ちしてしまう。
瑞穂は自分の親友と<EAS>に加入したいと考えていたとはいえ、今はここが自分の属するパーティーだし、人間関係も上手くいっていないが、それでも幼い頃からの友人たちを死なせたいわけじゃないので、やると決めたのなら手抜きをするわけにはいかない。
仕方ないなと覚悟を決めた彼女が言う。
「俊彦は自信満々だけど、どうしても私は不安が残るの。だから、今回の戦闘はいつもより見切りを早くしましょう。最悪、転移石の使用も視野に入れて」
そう言いつつ、保険の品を持たない和江に気の毒そうな視線を向ける瑞穂。
顔を伏せた和江に向かって、ここがターニングポイントだと感じた俊彦が、ポケットから転移石を取り出して言った。
「和江、これを渡しておく。それなら安心だろう? まあ使わないで済むはずだけどな」
にかっと笑顔を見せながら、和江へと近づいた俊彦が転移石を手渡す。
困惑顔の和江はたどたどしく口を開いた。
「そんなの悪いよ……」
「大丈夫だって!」
「それに、もしも使っちゃったら返せないし……」
「危険なときは使ってもいいが、基本的にそうはならないと思うぜ? なんせ俺も本気を出すし、だから俺の雄姿を見ててくれよ?」
黙ってしまった和江に対し、言葉を続ける俊彦。
「心配すんなって。それに万が一それを使ったとしても、俺に返却しなくてもいい。それなら安心だろう?」
「そ、そんな……」
(くっくっく、これで俺の株がストップ高だ。ドライアドを倒したら、今度こそ和江を俺のものにできるだろう。こいついい身体をしてるし、今から気分が上がるぜ! あとはそうだな……彼氏とすぐに別れさせないほうがシチュエーション的に楽しめそうだ)
特級ダンジョンにいるというのに、ゲスな妄想を始める俊彦。
鼻の下が伸び、だらしのない顔になっていることに和江以外の三人が気づく。
恵子と瑞穂は内心『さいってぇー』と俊彦を見下している。
転移石を使うかもしれない状況になってしまう可能性を考えたら、ドライアドと思われるモンスターと戦闘するのは歓迎すべきことじゃないと思う恵子や瑞穂だったが、彼女らがこれ以上反対してもその意見が通らないと、今まで<ブレイバーズ>で活動してきたので、自然と理解できてしまう。
なにより、先ほど一度は覚悟を決めたのだ。
こうして彼ら五人は数が多く、強敵であろうドライアドと戦うため、不自然に出来た樹木の密集地帯へと徐々に近づいていくのだった。
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