無双の解体師

緋緋色兼人

文字の大きさ
上 下
27 / 65
一章

27:ブレイバーズ 4

しおりを挟む
 WEO東京第三支部内でも名前がそこそこ売れていて、将来有望だと期待されている男。
 彼の名前は石井俊彦。
 俊彦の父親のジョブは彼と同じく『剣聖』で、その名を石井達也という。
 達也には四人の妻がいる。
 全員が昔からの仲であり、<タナルセア>というパーティーに属していた。
 そのうちのひとりが俊彦の母親だ。
 彼女は『リンカー』のジョブを持っていて、そこそこ人気のDチューバーの一員。

 俊彦には兄弟が数人いて、全員彼の年下だ。
 長男である彼を弟や妹は慕っている。
 逆に両親に反発している子は多いと言えるだろう。
 その理由のひとつとして挙げられるのが、達也たちはAランク探索者であるにもかかわらず、Dチューバーとして無難に活動していること。
 Aランクといえば限られた探索者でありエリートなのだ。
 約一億人と言われている探索者の中にあって、Aランク探索者の人数はおよそ十万人。

 極まれに上級ダンジョンへと足を踏み入れることはあっても、基本的に達也たちの活動の場は中級ダンジョン。
 上級ダンジョンの普通のボスであれば、戦闘の役に立ちにくい『リンカー』がいても問題なく倒せる<タナルセア>だったが、ボス部屋にはひとつの可能性がある。
 それは約一〇〇分の一の確率でレアボスが出現するというもの。
 レアボスは一ランク上のダンジョンに出るボスとほぼ同等の強さと考えられているので、上級ダンジョンでレアボスを引いてしまえば、その強さは特級ダンジョンのボスに匹敵してしまう。

 達也たちの実力を持ってして言えば、特級ダンジョン並のボスに勝てる可能性は十分にある。
 しかし、それは絶対的なものではなく、下手をしたら死者が出るかもしれないのだ。
 それでなくとも、すでに十分にお金を稼いできており、彼らが住んでいる家は豪邸と言って差し支えないほど。
 そのため、達也は自分や愛する妻たちが多くの被害を受けるかもしれない冒険はしたくないのだ。
 レアボスが出現しない特級ダンジョンは、熟練のAランク探索者であれば問題なくクリアできるが、それはあくまでも五人全員が戦闘に役立つスキルを所持していることが前提に挙げられる。
 もちろん、特に優れた能力を持っている人物がパーティー内にいる場合はその限りではない。

 世の中にはさまざまジョブがあり、その中でも『剣聖』は優れたジョブ。
 そんな選ばれた人物であるにもかかわらず、自分の目から見て冒険もしないで腑抜けに見える父親を、俊彦は尊敬することができないでいたし、それを兄弟にも伝えていた。
 朝食を食べたあと、俊彦と話がしたいからという理由で、妻たちや他の子どもらを遠ざけてもらっていた達也が息子に話しかける。

「最近苦労しているみたいじゃないか」
「なんでそんな風に思う?」
「はは、それくらい俊の表情を見ていれば気づくさ。お前の父親を何年やっていると思っているんだ?」

 父親の言い分を聞いた俊彦は鼻を鳴らす。
 不機嫌な息子を見て、穏やかな表情をした達也が言う。

「そういえば、あの子は元気か?」
「あの子?」
「名前はなんだったかな……そうだ、お前の友達の黒瀬朔斗君だ」
「ちっ」
「おいおい、舌打ちすることはないだろう?」

 怒りは湧かないが達也は思う。

(俊彦が反抗的になってきたのは、中学校に入ってしばらくしてからか……昔は俺や母親に甘えてきてたんだが。随分と長い反抗期だ)

 そんな風に息子のことを考えている中、先ほどの質問に俊彦が答える。

「あいつは俺たちの役に立たないと判断して、パーティーから外した」

 達也は驚きに目を見開く。
 彼の記憶が確かならば、黒瀬朔斗は学校の中でも相当な優等生だったはず。
 戦闘系のジョブを持たないにもかかわらず、戦闘学では常に上位の成績を維持していたと耳にしていた。

(そういえば……こいつの反抗期と同時期くらいから、黒瀬君の話を聞かなくなったか。いくら戦闘に特化したジョブを持っていたとしても、小さい頃はサポート系ジョブとの差が見えにくいし、なによりも例え<剣聖>のジョブ持ちであろうと、無条件に技量が上がるわけでもない。大事なのは才能を育てるための努力)

 ジョブとはいわゆる才能であるため、どうしても存在してしまうジョブ至上主義者。
 それはジョブこそ至上と言い切る人たちだ。
 当然ながら自分が所持しているジョブに関連した技量は上がりやすいし、ジョブ次第で非常に有用なスキルを使用できるので、彼らの言い分にも一定の理解を示す人は多い。
 しかし、結局は努力をしなければ才能は開花しないのだ。
 いくら優れたジョブとして<剣聖>を身に宿していても、その下位互換と呼ばれる<剣士>に負ける可能性は捨てきれない。
 例えばの話、<剣聖>と<剣士>と剣系のジョブを持っていない者の剣を扱う才能の上限が、それぞれ一〇〇と六十と四十としたとき、限界ギリギリまで鍛錬を積まなければ技量が上限までいかないし、それを十全に発揮するために必要な身体能力は、ダンジョンをクリアした際のモノリスや日頃のトレーニングによってもたらされる。
 剣系のジョブを所持していない者の中でも、剣の扱いにおいて向き不向きがあるし、やる気の問題も重要なのだが。

(黒瀬君は唯一無二のジョブだったはず。『解体師』の【ディメンションボックス】の価値は計り知れない。無制限に収納できるから、あのスキルだけでもダンジョンでの収入が上がり、それによってポーション類を多めに購入可能だ。そしてそれが結果的に安全性の向上に繋がる)

 そこまで考えた達也はついつい口にしてしまう。
 それが息子の逆鱗に触れるとも気づかず。

「黒瀬君を外したのは失敗だったな。彼は優れた探索者になるだろうに」

 今はそこまで尊敬していないとはいえ、自分の親であることには変わりはない男の口から出た言葉。
 それを耳にした俊彦の頭に血が上る。

「うっせーんだよ! あんな奴は邪魔だ!」

 あまりの剣幕に、達也は息を吞む。
 俊彦は父親に向かって、そのまま抑えきれない感情を吐き出す。

「あいつは所詮サポート系のジョブだ!! 俺のほうがあいつより優秀なんだよ! 現に探索者の世界だと、<剣聖>は大成している奴が多いだろう!」

 そこまで言い切った彼は荒い息を何度も吐く。

(これは……俊は黒瀬君に何かコンプレックスを抱いていたのか? もしかしたら、それは中学校の途中からなのかもしれないな。コンプレックスが反抗期に繋がった可能性もあるか)

 俊彦はすでに成人していて結婚ができる年齢。
 そうであるにもかかわらず、精神年齢が低いと達也は判断した。

(それだけじゃない。俊は優れたジョブを持っていることも相まって、傲慢に育っていたか……これは俺の失態でもある)

 現在の地球は、女性に比べて男性が圧倒的に少ないのは周知の事実。
 思春期以降の女性たちは恋人や夫を得るため、男性の下手に出ることが多い。
 そういった背景もあり、容姿やジョブに優れた男性が女性は自分より下の立場だと認識する者が一定数存在している。
 さらにその対象を、自分よりジョブが劣っていると判断した男性にまで、範囲を広げる者も少なくない。

 石井家のヒエラルキーは頂点を達也としているが、彼の妻たちは全員がおしとやかで長男を甘やかして育てていたため、俊彦は自分が石井のナンバー2だと認識している。
 このまま成長しても決して息子は幸せになれないと判断した達也は、俊彦に向かって低い声を出す。

「お前はすでに成人していて、大人と言っていい。物事をもっと論理的に考える必要があるぞ。感情に振り回されている限り幸せにはなれない。謙虚になり、自分に足りない箇所を克服したり、友人に補ってもらったりしろ」

 今までまともに怒ったことがなく、息子を睨みつける経験が初めての達也。
 そんな父親に相対していた俊彦は、歯を食いしばって鬼の様な形相だ。
 目の前にいる息子を見て達也は思う――この状態はマズいかもしれないな。
 なんとかして息子との仲を修繕し、彼がこれから歩む人生をより良きものになるようにと祈る達也。
 果たして彼が長男を思いやる気持ちは息子に届くのかどうか――それを知る者は存在していないのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

HP2のタンク ~最弱のハズレ職業【暗黒騎士】など不要と、追放された俺はタイムリープによって得た知識で無双する~

木嶋隆太
ファンタジー
親友の勇者を厄災で失ったレウニスは、そのことを何十年と後悔していた。そんなある日、気づけばレウニスはタイムリープしていた。そこは親友を失う前の時間。最悪の未来を回避するために、動き始める。最弱ステータスをもらったレウニスだったが、、未来で得た知識を活用し、最速で最強へと駆け上がる。自分を馬鹿にする家を見返し、虐げてきた冒険者を返り討ちにし、最強の道をひた進む。すべては、親友を救うために。

【R18 】必ずイカせる! 異世界性活

飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。 偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。 ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

処理中です...