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一章
25:取材
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審判の日に起きた出来事で幾多の建造物が破壊された。
それは日本の首都である東京も例外ではなく、見るも無残な瓦礫の山が辺り一面に散らばって、モンスターから直接攻撃をくらわなかった者も、二次被害で多くの死傷者を出したのだ。
二一七六年となった今、東京ではその面影はない。
とはいえ、現在は多くの市町村が破棄されており、未だに復旧していない場所もあるが、そういった場所は日本の人口がもっともっと増えない限り、復興は難しいと言えるだろう。
さておき、東京にある住宅街の一角に朔斗たちの家があった。
それは二階建ての家屋。
玄関の正面に小さな庭があり、家は外塀で囲まれている。
この家を購入したのは朔斗の父親。
間取りは一階にリビング、キッチン、トイレ、バスルーム、朔斗の父母が使用していた夫婦の寝室、二階には<EAS>三人それぞれの部屋や、物置と化している部屋――そんな5LDKの家だ。
時刻はちょうど十四時になったところ。
黒瀬家のリビングには人影が四つ。
自信に満ち溢れた表情をしている朔斗、笑顔を浮かべて興味深そうな感情を持て余している恵梨香、口を閉じて冷静にしているサリア、柔らかい表情の千代。
数人が座れるソファーに朔斗、恵梨香、サリアが座っていて、その対面に千代が腰をかけている。
数分前に黒瀬家を訪れた千代は、目の前の三人と軽い雑談を交わしていた。
その際に千代は<EAS>のメンバーに告げていた、普段どおりの口調で話してほしいと。
そうすることで取材の緊張感を無くしつつ、飾らない彼らと良好な関係を築きたいというのだ。
そんな千代はボイスレコーダーを起動させ、これからいよいよ本題に入る。
「では、まず聞かせていただきます。ずばり――朔斗さんの自信の源とはなんでしょう?」
「それは【解体EX】というスキル。効果をひと言で言うと、生きているモンスターも解体可能といったところか」
最初の質問に対して告げられた朔斗の言葉に、千代は驚きを隠せない。
それでもなんとか平静を装った彼女が続けて問う。
「あなたは【解体】というスキルを所持していると聞き及んでいました。そしてそれは討伐されたモンスターから、時間をかけずに素材をはぎ取れる効果ですよね?」
「そうだな。建物とかも対象になるが、それは今はいいか。とりあえず【解体EX】は、【解体】のスキルが進化したもので、俺が<ブレイバーズ>を追放された数分後にそうなったんだ。『解体師』のジョブランクがちょうど上がってな」
「そんな偶然があったのですか?」
「ああ。俺がパーティーから追い出されたときの話を、さっき雑談ついでにしたけど……もしもそのタイミングが、あそこにあったモノリスに俺が触れたあとだったら、俺は奴らにこのスキルの効果を告げて、<ブレイバーズ>の一員として、きっと今も過ごしていただろう」
「追放……その話もいまいち実感がわきません。あなたたちのパーティーは仲が良いと評判でしたから……」
「それは当時の俺も思った。まあ今となってはどうでもいいとまで言わないが、俺はもうあいつらを気にかけていない。だからさっきも言ったように、あいつらが俺を追放しただのなんだの騒いだり、それを記事にしたりしないでほしい。新島さんが俺のことで彼らに取材をした場合、<ブレイバーズ>の面々と俺との間に、また繋がりが出来るかもしれない。もしもそうなったら面倒だ」
「わかりました。そこは安心してください。それにしても――生きているモンスターであっても、解体可能だなんて言葉もないです。さすがに想像もつきませんでした……」
「スキルを使ったら即座にその効果が現れるから、モンスターがどんなに強くても実質即死させられる」
そこまで聞いた千代は自身の身体が震えるのを感じた。
(凄まじいスキルね……サポート系ジョブでありながら、どんな戦闘系ジョブよりも強いじゃないの……敵が多い場合は、すべてのモンスターにスキルを使用し終えるまで、相手からの攻撃を防いだりかわしたりする必要はありそうだけど)
朔斗から聞いた話から、【解体EX】の問題点になりそうなところをすぐさま思い浮かべるあたり、彼女は優秀だ。
(人間を解体しようとは普通は思わないでしょうけど、朔斗君と争うのは無謀以外の何ものでもないわね。【解体EX】が命を奪う以外にも効果を及ぼすのなら、対人において命を奪わなくても楽々制圧できるでしょうし。この辺はおいおい聞いていけばいいかしら)
最初から深く掘り下げていくよりも、徐々に自分という人間を相手の心に浸透させるため、千代はそういった判断を下す。
そうしてその後、ダンジョンでの話を聞いていく。
最初は朔斗がソロ、次いで朔斗と恵梨香のペア、そして特殊探索者キャンペーンを利用し、サリアを雇って三人でダンジョンをクリアしたことなど、朔斗が順序立てて最近の活動を口にしていく。
千代と会話を続けていく中で朔斗は思う――この人からの取材を受けて正解だったと。
朔斗が不快になるような質問をしてこないし、サポート系ジョブだからといって、どうでもいい取材対象として<EAS>を扱わず、きちんと三人を尊重しているのが伝わってくるのだ。
彼は自身の能力がとてつもないと、きちんと自覚していた。
自分のスキルは他の追随を許さないほど有用だし、いずれ彼は探索者のトップにたどり着きたいと願っている。
探索者として上を目指していた今は亡き両親の背中――それを物心がついた頃から見ていたこともあり、自分もいつかは探索者として大成したいという強い想いが朔斗にはあった。
力があればあるほど自然と有名になってしまうし、どうしても有象無象が寄ってきてしまう。
そうした中から、付き合う相手を選ぶのは重要なのだ。
高ランク探索者が持つ権威、莫大な収入、そして広がる人脈――これらはエリクサーを入手する可能性を上げるかもしれない。
すぐさま上昇する探索者ランクではないが、それでもメディアに出れば名前を売れるのだ。
朔斗が考えていたよりも、自分のポテンシャルを見抜く者が現れたのは僥倖かどうか、今の時点ではわからない。
それでも千代との出会いはいいものになりそうだと予感する朔斗。
いずれにせよ、当初の予定では取材だけで済ます予定だった千代。
しかし、彼女が予測もできなかったような凄まじい能力を朔斗は持っていた。
だからこそ、千代はとある提案をするべきだと考え――それを口に出す。
「朔斗さん、動画を配信する予定はありませんか?」
「動画?」
肩眉を上げた朔斗に対して、千代は話を続ける。
「はい。ダンジョンでの様子を配信している人がいるのはご存知でしょうか?」
「ああ、最近は見てないけど、昔は視聴してたな」
「私の見立てですが、朔斗さんは探索者として上を目指したいという気持ちがあると感じました。当然ながらエリクサーの入手――それがまずは優先すべきあなたの目的だというのも理解しています」
「そうだな」
「一番大事なのはお金を稼ぐこととして、ダンジョンの動画を配信している方が多いですが、中にはそれ以外に重点を置いている人もいます。そういった人たちは、承認欲求を満たしたかったり、自分で娯楽を作りたかったり、他人の安全を考え、教材として他の人に見てほしかったりでしょう」
「ダンジョンチューブ、略してDチューブだな」
「ええ、興味ありませんか? あなたがするのなら、相当な収益が得られると思います。当然<EAS>の名前も売れると思います」
朔斗は小さい頃から中学校の途中まで、Dチューブのさまざまな動画を視聴してきており、それは単純に娯楽として楽しめたり、モンスターとの戦闘に役に立ったりしたものなど多岐にわたる。
有名なDチューバーはかなり儲かると彼は耳にしたことがあるが、そもそもそういった者のほとんどが生配信をしていると聞いていた。
もちろん生配信以外でも人気を博す番組はあるが、Dチューバーが扱う動画の一番の売り――それはなんといっても、手に汗握るリアルタイムでの臨場感に尽きる。
皆が皆、誰かが死ぬ場面を見たいわけではないが、それでも生死をかけて戦っている探索者の姿は、ストーリーありきの物語などと一線を画す。
すべての動画がそうではないが、それでも多くの人がこう評するだろう――ストーリーなき大冒険と。
それがDチューバーが配信する動画。
審判の日以降――人命が簡単に失われたり、ダンジョンという存在が人類の生活に根づいていたりする世の中になったとはいえ、多くの動画で人の生死を配信するのは問題があると世界中で物議を醸した。
そういった背景から、一時的にDチューブが下火になった時代もあるが、現在はそれも収まっている。
その理由のひとつとして挙げられるのが、生配信をするDチューバーは自分たちが世論に叩かれてしばらくしてから、彼らが入場するダンジョンの難易度を絞っていったという点があった。
難しいダンジョンでの様子を生で流せば流すほど、視聴者数が稼げてそれに比例して収入も右肩上がりになるのだが、自分たちの命の危険度は反比例に跳ね上がっていくので、そういったリスクを取らない者ばかりになっているのが今の時代。
生配信の場合は、基本的にボス有り特級ダンジョン以上になることはほとんどない。
ボス無しであれば危険度が下がるため、特級を対象にしている人気Dチューバーもいる。
また、上級ダンジョンを生で配信できれば、ほぼ人気配信者になれるだろう。
そして、多くのDチューバーが主戦場としているのが、最下級から中級までのダンジョンとしているため、死者の数はそこまで多くない。
このようにしてリスクを減らした結果、Dチューバーを非難していた声も減っていったのだ。
Dチューブについて少し考えていた朔斗が言う。
「Dチューバーとして活動したら、そこで得た収益をエリクサー代に回せるが……そもそもエリクサーは簡単に購入できるような物じゃない。よっぽど売れっ子にならなきゃ収益もたかが知れてるだろうが。それはそれとして、うちには『リンカー』がいない。そして俺はそこいらのDチューバーのように、トーク力に長けているわけじゃないし、今はパーティーメンバーを三人までに抑えていたいという気持ちもある」
実は地球からの電波がダンジョン内まで届かないし、有線を引くことも不可能。
そのためダンジョンに入ってしまえば、スマホでの通話やインターネットへの接続もできないのだ。
トランシーバーや無線機などもその機能を失ってしまう。
ダンジョンにこういった特性があるので、インターネットに生配信以外のダンジョン動画をアップしたい者は、まずはビデオカメラで撮影し、それをダンジョンから出たあとに編集をしている。
そして生配信をする場合は、ダンジョンから地球のインターネットに接続させるために、『リンカー』が持つスキル――【コネクト】が必要不可欠。
生配信であろうとなかろうと、Dチューバーとして活動するには、カメラマンとして動く人物以外の四人で、戦闘や諸々を完結させられる能力が必須だ。
もちろんカメラを設置しておくことで、五人目の役割をカメラマンじゃなく、戦闘員とすることも可能だが、その場合は目まぐるしく変わる現場の動きを捉えきれないし、モンスターの攻撃にカメラが巻き込まれて破壊される可能性も捨てきれない。
「撮影者には心当たりがありますので、その点は大丈夫かと思います」
Dチューブは一大コンテンツ。
それに<EAS>が出演したのなら、それは取材をした千代や彼女が属する会社にも大きな恩恵を及ぼすだろう。
(撮影者? それは誰だろう。というか、今入れるつもりはないって言ったんだが、どういうつもりだ?)
そんな疑問を持った朔斗が、それを口にしようとする前に千代が言う。
「ええ。ところで……現状維持のまま、メンバーを三人にしておきたいのはなぜでしょう?」
千代の問いかけに対し、チラッと左右にいる恵梨香とサリアに視線をやったあと、朔斗がその理由を述べ始めるのだった。
それは日本の首都である東京も例外ではなく、見るも無残な瓦礫の山が辺り一面に散らばって、モンスターから直接攻撃をくらわなかった者も、二次被害で多くの死傷者を出したのだ。
二一七六年となった今、東京ではその面影はない。
とはいえ、現在は多くの市町村が破棄されており、未だに復旧していない場所もあるが、そういった場所は日本の人口がもっともっと増えない限り、復興は難しいと言えるだろう。
さておき、東京にある住宅街の一角に朔斗たちの家があった。
それは二階建ての家屋。
玄関の正面に小さな庭があり、家は外塀で囲まれている。
この家を購入したのは朔斗の父親。
間取りは一階にリビング、キッチン、トイレ、バスルーム、朔斗の父母が使用していた夫婦の寝室、二階には<EAS>三人それぞれの部屋や、物置と化している部屋――そんな5LDKの家だ。
時刻はちょうど十四時になったところ。
黒瀬家のリビングには人影が四つ。
自信に満ち溢れた表情をしている朔斗、笑顔を浮かべて興味深そうな感情を持て余している恵梨香、口を閉じて冷静にしているサリア、柔らかい表情の千代。
数人が座れるソファーに朔斗、恵梨香、サリアが座っていて、その対面に千代が腰をかけている。
数分前に黒瀬家を訪れた千代は、目の前の三人と軽い雑談を交わしていた。
その際に千代は<EAS>のメンバーに告げていた、普段どおりの口調で話してほしいと。
そうすることで取材の緊張感を無くしつつ、飾らない彼らと良好な関係を築きたいというのだ。
そんな千代はボイスレコーダーを起動させ、これからいよいよ本題に入る。
「では、まず聞かせていただきます。ずばり――朔斗さんの自信の源とはなんでしょう?」
「それは【解体EX】というスキル。効果をひと言で言うと、生きているモンスターも解体可能といったところか」
最初の質問に対して告げられた朔斗の言葉に、千代は驚きを隠せない。
それでもなんとか平静を装った彼女が続けて問う。
「あなたは【解体】というスキルを所持していると聞き及んでいました。そしてそれは討伐されたモンスターから、時間をかけずに素材をはぎ取れる効果ですよね?」
「そうだな。建物とかも対象になるが、それは今はいいか。とりあえず【解体EX】は、【解体】のスキルが進化したもので、俺が<ブレイバーズ>を追放された数分後にそうなったんだ。『解体師』のジョブランクがちょうど上がってな」
「そんな偶然があったのですか?」
「ああ。俺がパーティーから追い出されたときの話を、さっき雑談ついでにしたけど……もしもそのタイミングが、あそこにあったモノリスに俺が触れたあとだったら、俺は奴らにこのスキルの効果を告げて、<ブレイバーズ>の一員として、きっと今も過ごしていただろう」
「追放……その話もいまいち実感がわきません。あなたたちのパーティーは仲が良いと評判でしたから……」
「それは当時の俺も思った。まあ今となってはどうでもいいとまで言わないが、俺はもうあいつらを気にかけていない。だからさっきも言ったように、あいつらが俺を追放しただのなんだの騒いだり、それを記事にしたりしないでほしい。新島さんが俺のことで彼らに取材をした場合、<ブレイバーズ>の面々と俺との間に、また繋がりが出来るかもしれない。もしもそうなったら面倒だ」
「わかりました。そこは安心してください。それにしても――生きているモンスターであっても、解体可能だなんて言葉もないです。さすがに想像もつきませんでした……」
「スキルを使ったら即座にその効果が現れるから、モンスターがどんなに強くても実質即死させられる」
そこまで聞いた千代は自身の身体が震えるのを感じた。
(凄まじいスキルね……サポート系ジョブでありながら、どんな戦闘系ジョブよりも強いじゃないの……敵が多い場合は、すべてのモンスターにスキルを使用し終えるまで、相手からの攻撃を防いだりかわしたりする必要はありそうだけど)
朔斗から聞いた話から、【解体EX】の問題点になりそうなところをすぐさま思い浮かべるあたり、彼女は優秀だ。
(人間を解体しようとは普通は思わないでしょうけど、朔斗君と争うのは無謀以外の何ものでもないわね。【解体EX】が命を奪う以外にも効果を及ぼすのなら、対人において命を奪わなくても楽々制圧できるでしょうし。この辺はおいおい聞いていけばいいかしら)
最初から深く掘り下げていくよりも、徐々に自分という人間を相手の心に浸透させるため、千代はそういった判断を下す。
そうしてその後、ダンジョンでの話を聞いていく。
最初は朔斗がソロ、次いで朔斗と恵梨香のペア、そして特殊探索者キャンペーンを利用し、サリアを雇って三人でダンジョンをクリアしたことなど、朔斗が順序立てて最近の活動を口にしていく。
千代と会話を続けていく中で朔斗は思う――この人からの取材を受けて正解だったと。
朔斗が不快になるような質問をしてこないし、サポート系ジョブだからといって、どうでもいい取材対象として<EAS>を扱わず、きちんと三人を尊重しているのが伝わってくるのだ。
彼は自身の能力がとてつもないと、きちんと自覚していた。
自分のスキルは他の追随を許さないほど有用だし、いずれ彼は探索者のトップにたどり着きたいと願っている。
探索者として上を目指していた今は亡き両親の背中――それを物心がついた頃から見ていたこともあり、自分もいつかは探索者として大成したいという強い想いが朔斗にはあった。
力があればあるほど自然と有名になってしまうし、どうしても有象無象が寄ってきてしまう。
そうした中から、付き合う相手を選ぶのは重要なのだ。
高ランク探索者が持つ権威、莫大な収入、そして広がる人脈――これらはエリクサーを入手する可能性を上げるかもしれない。
すぐさま上昇する探索者ランクではないが、それでもメディアに出れば名前を売れるのだ。
朔斗が考えていたよりも、自分のポテンシャルを見抜く者が現れたのは僥倖かどうか、今の時点ではわからない。
それでも千代との出会いはいいものになりそうだと予感する朔斗。
いずれにせよ、当初の予定では取材だけで済ます予定だった千代。
しかし、彼女が予測もできなかったような凄まじい能力を朔斗は持っていた。
だからこそ、千代はとある提案をするべきだと考え――それを口に出す。
「朔斗さん、動画を配信する予定はありませんか?」
「動画?」
肩眉を上げた朔斗に対して、千代は話を続ける。
「はい。ダンジョンでの様子を配信している人がいるのはご存知でしょうか?」
「ああ、最近は見てないけど、昔は視聴してたな」
「私の見立てですが、朔斗さんは探索者として上を目指したいという気持ちがあると感じました。当然ながらエリクサーの入手――それがまずは優先すべきあなたの目的だというのも理解しています」
「そうだな」
「一番大事なのはお金を稼ぐこととして、ダンジョンの動画を配信している方が多いですが、中にはそれ以外に重点を置いている人もいます。そういった人たちは、承認欲求を満たしたかったり、自分で娯楽を作りたかったり、他人の安全を考え、教材として他の人に見てほしかったりでしょう」
「ダンジョンチューブ、略してDチューブだな」
「ええ、興味ありませんか? あなたがするのなら、相当な収益が得られると思います。当然<EAS>の名前も売れると思います」
朔斗は小さい頃から中学校の途中まで、Dチューブのさまざまな動画を視聴してきており、それは単純に娯楽として楽しめたり、モンスターとの戦闘に役に立ったりしたものなど多岐にわたる。
有名なDチューバーはかなり儲かると彼は耳にしたことがあるが、そもそもそういった者のほとんどが生配信をしていると聞いていた。
もちろん生配信以外でも人気を博す番組はあるが、Dチューバーが扱う動画の一番の売り――それはなんといっても、手に汗握るリアルタイムでの臨場感に尽きる。
皆が皆、誰かが死ぬ場面を見たいわけではないが、それでも生死をかけて戦っている探索者の姿は、ストーリーありきの物語などと一線を画す。
すべての動画がそうではないが、それでも多くの人がこう評するだろう――ストーリーなき大冒険と。
それがDチューバーが配信する動画。
審判の日以降――人命が簡単に失われたり、ダンジョンという存在が人類の生活に根づいていたりする世の中になったとはいえ、多くの動画で人の生死を配信するのは問題があると世界中で物議を醸した。
そういった背景から、一時的にDチューブが下火になった時代もあるが、現在はそれも収まっている。
その理由のひとつとして挙げられるのが、生配信をするDチューバーは自分たちが世論に叩かれてしばらくしてから、彼らが入場するダンジョンの難易度を絞っていったという点があった。
難しいダンジョンでの様子を生で流せば流すほど、視聴者数が稼げてそれに比例して収入も右肩上がりになるのだが、自分たちの命の危険度は反比例に跳ね上がっていくので、そういったリスクを取らない者ばかりになっているのが今の時代。
生配信の場合は、基本的にボス有り特級ダンジョン以上になることはほとんどない。
ボス無しであれば危険度が下がるため、特級を対象にしている人気Dチューバーもいる。
また、上級ダンジョンを生で配信できれば、ほぼ人気配信者になれるだろう。
そして、多くのDチューバーが主戦場としているのが、最下級から中級までのダンジョンとしているため、死者の数はそこまで多くない。
このようにしてリスクを減らした結果、Dチューバーを非難していた声も減っていったのだ。
Dチューブについて少し考えていた朔斗が言う。
「Dチューバーとして活動したら、そこで得た収益をエリクサー代に回せるが……そもそもエリクサーは簡単に購入できるような物じゃない。よっぽど売れっ子にならなきゃ収益もたかが知れてるだろうが。それはそれとして、うちには『リンカー』がいない。そして俺はそこいらのDチューバーのように、トーク力に長けているわけじゃないし、今はパーティーメンバーを三人までに抑えていたいという気持ちもある」
実は地球からの電波がダンジョン内まで届かないし、有線を引くことも不可能。
そのためダンジョンに入ってしまえば、スマホでの通話やインターネットへの接続もできないのだ。
トランシーバーや無線機などもその機能を失ってしまう。
ダンジョンにこういった特性があるので、インターネットに生配信以外のダンジョン動画をアップしたい者は、まずはビデオカメラで撮影し、それをダンジョンから出たあとに編集をしている。
そして生配信をする場合は、ダンジョンから地球のインターネットに接続させるために、『リンカー』が持つスキル――【コネクト】が必要不可欠。
生配信であろうとなかろうと、Dチューバーとして活動するには、カメラマンとして動く人物以外の四人で、戦闘や諸々を完結させられる能力が必須だ。
もちろんカメラを設置しておくことで、五人目の役割をカメラマンじゃなく、戦闘員とすることも可能だが、その場合は目まぐるしく変わる現場の動きを捉えきれないし、モンスターの攻撃にカメラが巻き込まれて破壊される可能性も捨てきれない。
「撮影者には心当たりがありますので、その点は大丈夫かと思います」
Dチューブは一大コンテンツ。
それに<EAS>が出演したのなら、それは取材をした千代や彼女が属する会社にも大きな恩恵を及ぼすだろう。
(撮影者? それは誰だろう。というか、今入れるつもりはないって言ったんだが、どういうつもりだ?)
そんな疑問を持った朔斗が、それを口にしようとする前に千代が言う。
「ええ。ところで……現状維持のまま、メンバーを三人にしておきたいのはなぜでしょう?」
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