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一章
23:訪問者?
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初めて面会した日だけでは時間が足りず、詳細を煮詰められなかった朔斗とサリア。
しかし、二回目の面談で細かいところまで契約内容を決めた彼らは、五年契約を無事に結んだ。
それによって秋津サリアという特殊探索者が、朔斗率いるパーティーに加入した。
彼らのパーティーは現在三人。
パーティー名は朔斗と恵梨香が話し合った結果、<EAS>となった。
これは『終わらない冒険』という言葉を英語にしたEndless AdventureのEとA、そしてパーティーの核となる人物――朔斗のSをくっつけたもの。
自分のイニシャルをパーティー名に入れることを、当初は反対していた朔斗だったが、それは恵梨香によって頑なに却下され、最終的に朔斗が折れた形となり、パーティー名が無事に決定されたという経緯がある。
そんな<EAS>は三人でダンジョンを攻略していて、すでに下級二回、中級を五回踏破していた。
下級は四日、中級は五日――この日数は何か?
それぞれのダンジョンをクリアするのにかかる日数というのが答え。
もちろんこれは平均日数と言われているもので、絶対的なものではない。
ダンジョン内で討伐するモンスターの数、戦闘にかける時間、休憩を取る頻度、歩く速度などといった要因によって、クリアに必要な日数は左右される。
ちなみに環境が厳しくなる砂漠や雪山などは人気がなく、『チェンジ』をする探索者が多い。
この『チェンジ』というのは、WEOにある大きなモノリスを使用してダンジョンに飛び、そこの環境が気に入らなければ、ダンジョン入口にあるモノリスを利用してWEOに舞い戻り、さらにまたWEOにあるモノリスを使ってダンジョンに行くことを指す。
そのようにして探索者はできる限り、自分たちが戦いやすいフィールドを選択するのだ。
しかし、砂漠などの不人気エリアに、誰も行かないのかというとそれも違う。
なぜなら砂漠や雪山には、そこにしか存在しないモンスター、鉱石、植物もあって、それを必要とする人や企業もいるからだ。
さておき、<EAS>の方針は可能な限り速くダンジョンをクリアすることなので、下級は三日、中級は四日で踏破するのを目指しているし、問題なく実行していて今のところそれは破られていない。
一般的に言われているクリア日数より短くする意味――これはレアボスに遭遇する可能性を上げたり、報酬箱をより多く開けたりするために必要だから。
また、クリアするのに必要な日数を短縮するため、朔斗は地図を購入している。
すべてのダンジョンではないし、中級までのランクに限るのだが、世界各地のダンジョンマップの多くはWEOが販売しているのだ。
上級以上の地図も一部は発売されているが、ダンジョンの難易度の関係上、マッピングが終わっていて、且つそれが公開されている箇所は少なくて話にならない。
上級のダンジョンを攻略できるのは、基本的にCランクの最上位以上の探索者であり、その数は三二〇万と少し。
探索者全体の人数がおよそ一億人なので、Cランクの最上位以上の探索者がいかに少ないか一目瞭然だろう。
ちなみに<ブレイバーズ>はCランクだが、まだ上位まで到達していない。
しかし彼らのパーティーはバランスが良く、さらに恵まれたジョブ構成のために上級ダンジョンをクリアできたのだ。
三人で挑戦した五度目の中級ダンジョンをクリアし、他のふたりと一緒にWEO東京第三支部から出た朔斗。
彼はオレンジ色に染まった空の下を歩きながら、しみじみと口にする。
「【解体EX】の新しい使い方を、今回のダンジョンで試せたのは大きな収穫だった」
誰に言ったわけでもない言葉に反応したのは恵梨香。
「私が役に立ったみたいで良かった!」
「ん、ああ。聞こえてたか。ありがとな。俺が思いついていないやり方だった。さすが恵梨香だ」
「えへへ」
義兄に褒められて有頂天になった恵梨香が相好を崩しつつ何度も頷く。
素直に喜ぶ義妹を見た彼の心が温かくなり、ふと空を見上げて呟いた。
「もうすぐ四月も半ばか。最近はすっかり暖かくなった」
朔斗に続いて声を出したのは恵梨香とサリア。
「だねぇ。それに綺麗な夕焼け」
「最近は充実しているからか、時間の流れが早く感じるんやけど、ふたりはどう?」
朔斗が問いかけに答える。
「同じだな。正直、<ブレイバーズ>にいたときよりも充実してる」
「あー、それはわかる。以前のさく兄は、ダンジョンから戻ってくる度に疲れ切った顔をしてたもん」
何度も頷く恵梨香に対し、苦笑いをした朔斗が言う。
「あの頃は体力よりも気持ち的にな……俊彦がイケイケすぎて、それを宥めたり戦闘中にパーティー全体を見て指示出しをしたり、精神的疲労が大きかったんだよな。モンスターと対峙している際は、俊彦も一応俺の言うことを聞いてくれていたんだが、振り返ってみると結構不満気な顔をしていたかもしれない」
「わかるぅ、あの人ってマウント取るの好きだもんね。会話していても自慢話が多いし、俺スゲーってのがありありだったよ」
「『剣聖』だけあって、戦闘面では頼りになったんだけどな。学生時代はまだ良かったが、どんどんプライドが肥大化していってた。なんとなく気づいてはいたが……それでもトラブルを起こしていなかったし、俺は俺でエリクサーのために必死になりすぎてて、そういうところを見落としていたというか、あえて見えないようにしていたんだと思う。だからこそ追放されてしまったと言えるだろう」
若干気落ちした朔斗へサリアが話しかける。
「ウチもいろいろあったからわかるんやけど、人間関係は難しいよねぇ。もともとが友人関係だとしても、探索者だと利害関係があからさまになってくるし」
「まあな。ただそれでも小さい頃からの友人だったんだ……俺がもっと注意深く立ち回っていたら――あいつらとの関係が切れないで、もっと上手く付き合っていられたかもしれないって最近思うようになった」
恵梨香がため息をつく義兄に言う。
「そうやって考えちゃうのは、さく兄に余裕が出てきたからじゃないかな? それが良いとも悪いとも私は言わないけど、それでもあの当時は仕方なかったって思うよ。それにそうじゃなきゃ、私がさく兄とパーティー組めていなかったし!」
「ウチもや!」
往来がある通りだというのに、自分へと詰め寄ってくる少女ふたり。
朔斗は思わず笑ってしまう。
(今さら<ブレイバーズ>のメンバーのことを考えていても仕方がない……か。あいつらとの未来は途絶えたんだ)
そう吹っ切った彼は話を変える。
「今日はどこかに寄って夕食を食べるか?」
「うん!」
「そうやね」
朔斗や恵梨香の勧めもあり、サリアは現在彼らと一緒に住んでいる。
もともと彼女はひとり暮らしをしていた。
サリアは児童養護施設の出身。
彼女が小さい頃に母親が父親に捨てられ、サリアが四歳のときに母親は病気で帰らぬ人に。
その後、父親が彼女を引き取ることはなく、サリアは児童養護施設に入れられた。
今の地球は希少なスキルやエリクサーなどがあるため、お金さえ積めばサリアの母親も助かっただろう。
しかし、一般的な会社員だった母親にはそんな蓄えはなく、ふたりを捨てた父親からも援助がなかったのだ。
そういった背景もあり、家族に憧れを持っていたサリアは朔斗や恵梨香の関係を羨んでいた。
家族といっても朔斗と恵梨香に血の繋がりはないし、それはすでにサリアも聞き及んでいるが、義妹を大事にする朔斗や義兄に恋慕している恵梨香を見ていると、本当の家族以上の家族に見えるのだ。
三人がそこそこの人気店でご飯を食べたあと、それ以上寄り道をせずに自宅へと向かう。
朔斗の左に恵梨香、そのさらに左にサリアが歩いている。
少女ふたりに視線を向けた朔斗は内心思う。
(本当にこのふたりは仲良くなったよな。恵梨香は家に友達を呼んだことがなかったから、友達付き合いが苦手だと思っていた。成人して成長したか? いや、ただ単に気が合うのかもしれないな)
現在、地球上に存在する各国のすべては成人を十六歳と定めている。
義務教育が中学校までであり、それ以降は自己責任の元ではあるが、死のリスクがあるダンジョンへと挑戦できるというのがその大きな理由。
(んー、パーティーメンバーだからって線もあるか。できるだけリスクを遠ざけているとはいえ、ダンジョンでは生死が懸かっているし、ひとたび立ち入れば数日間は閉ざされた空間で一緒に行動せざるを得ない)
楽しそうに会話をしている恵梨香とサリアを見ていた朔斗はそう思った。
しばらく歩き続けた彼らの視界が三人が住む家を遠目に捉える。
さらに自宅へ近付いた時、朔斗の肩眉が上がり、ふと呟く。
「あれは誰だ?」
そう言った彼の視線の先には、ひとりの女性。
彼女は朔斗たちの家の門前で佇んでいるのだった。
しかし、二回目の面談で細かいところまで契約内容を決めた彼らは、五年契約を無事に結んだ。
それによって秋津サリアという特殊探索者が、朔斗率いるパーティーに加入した。
彼らのパーティーは現在三人。
パーティー名は朔斗と恵梨香が話し合った結果、<EAS>となった。
これは『終わらない冒険』という言葉を英語にしたEndless AdventureのEとA、そしてパーティーの核となる人物――朔斗のSをくっつけたもの。
自分のイニシャルをパーティー名に入れることを、当初は反対していた朔斗だったが、それは恵梨香によって頑なに却下され、最終的に朔斗が折れた形となり、パーティー名が無事に決定されたという経緯がある。
そんな<EAS>は三人でダンジョンを攻略していて、すでに下級二回、中級を五回踏破していた。
下級は四日、中級は五日――この日数は何か?
それぞれのダンジョンをクリアするのにかかる日数というのが答え。
もちろんこれは平均日数と言われているもので、絶対的なものではない。
ダンジョン内で討伐するモンスターの数、戦闘にかける時間、休憩を取る頻度、歩く速度などといった要因によって、クリアに必要な日数は左右される。
ちなみに環境が厳しくなる砂漠や雪山などは人気がなく、『チェンジ』をする探索者が多い。
この『チェンジ』というのは、WEOにある大きなモノリスを使用してダンジョンに飛び、そこの環境が気に入らなければ、ダンジョン入口にあるモノリスを利用してWEOに舞い戻り、さらにまたWEOにあるモノリスを使ってダンジョンに行くことを指す。
そのようにして探索者はできる限り、自分たちが戦いやすいフィールドを選択するのだ。
しかし、砂漠などの不人気エリアに、誰も行かないのかというとそれも違う。
なぜなら砂漠や雪山には、そこにしか存在しないモンスター、鉱石、植物もあって、それを必要とする人や企業もいるからだ。
さておき、<EAS>の方針は可能な限り速くダンジョンをクリアすることなので、下級は三日、中級は四日で踏破するのを目指しているし、問題なく実行していて今のところそれは破られていない。
一般的に言われているクリア日数より短くする意味――これはレアボスに遭遇する可能性を上げたり、報酬箱をより多く開けたりするために必要だから。
また、クリアするのに必要な日数を短縮するため、朔斗は地図を購入している。
すべてのダンジョンではないし、中級までのランクに限るのだが、世界各地のダンジョンマップの多くはWEOが販売しているのだ。
上級以上の地図も一部は発売されているが、ダンジョンの難易度の関係上、マッピングが終わっていて、且つそれが公開されている箇所は少なくて話にならない。
上級のダンジョンを攻略できるのは、基本的にCランクの最上位以上の探索者であり、その数は三二〇万と少し。
探索者全体の人数がおよそ一億人なので、Cランクの最上位以上の探索者がいかに少ないか一目瞭然だろう。
ちなみに<ブレイバーズ>はCランクだが、まだ上位まで到達していない。
しかし彼らのパーティーはバランスが良く、さらに恵まれたジョブ構成のために上級ダンジョンをクリアできたのだ。
三人で挑戦した五度目の中級ダンジョンをクリアし、他のふたりと一緒にWEO東京第三支部から出た朔斗。
彼はオレンジ色に染まった空の下を歩きながら、しみじみと口にする。
「【解体EX】の新しい使い方を、今回のダンジョンで試せたのは大きな収穫だった」
誰に言ったわけでもない言葉に反応したのは恵梨香。
「私が役に立ったみたいで良かった!」
「ん、ああ。聞こえてたか。ありがとな。俺が思いついていないやり方だった。さすが恵梨香だ」
「えへへ」
義兄に褒められて有頂天になった恵梨香が相好を崩しつつ何度も頷く。
素直に喜ぶ義妹を見た彼の心が温かくなり、ふと空を見上げて呟いた。
「もうすぐ四月も半ばか。最近はすっかり暖かくなった」
朔斗に続いて声を出したのは恵梨香とサリア。
「だねぇ。それに綺麗な夕焼け」
「最近は充実しているからか、時間の流れが早く感じるんやけど、ふたりはどう?」
朔斗が問いかけに答える。
「同じだな。正直、<ブレイバーズ>にいたときよりも充実してる」
「あー、それはわかる。以前のさく兄は、ダンジョンから戻ってくる度に疲れ切った顔をしてたもん」
何度も頷く恵梨香に対し、苦笑いをした朔斗が言う。
「あの頃は体力よりも気持ち的にな……俊彦がイケイケすぎて、それを宥めたり戦闘中にパーティー全体を見て指示出しをしたり、精神的疲労が大きかったんだよな。モンスターと対峙している際は、俊彦も一応俺の言うことを聞いてくれていたんだが、振り返ってみると結構不満気な顔をしていたかもしれない」
「わかるぅ、あの人ってマウント取るの好きだもんね。会話していても自慢話が多いし、俺スゲーってのがありありだったよ」
「『剣聖』だけあって、戦闘面では頼りになったんだけどな。学生時代はまだ良かったが、どんどんプライドが肥大化していってた。なんとなく気づいてはいたが……それでもトラブルを起こしていなかったし、俺は俺でエリクサーのために必死になりすぎてて、そういうところを見落としていたというか、あえて見えないようにしていたんだと思う。だからこそ追放されてしまったと言えるだろう」
若干気落ちした朔斗へサリアが話しかける。
「ウチもいろいろあったからわかるんやけど、人間関係は難しいよねぇ。もともとが友人関係だとしても、探索者だと利害関係があからさまになってくるし」
「まあな。ただそれでも小さい頃からの友人だったんだ……俺がもっと注意深く立ち回っていたら――あいつらとの関係が切れないで、もっと上手く付き合っていられたかもしれないって最近思うようになった」
恵梨香がため息をつく義兄に言う。
「そうやって考えちゃうのは、さく兄に余裕が出てきたからじゃないかな? それが良いとも悪いとも私は言わないけど、それでもあの当時は仕方なかったって思うよ。それにそうじゃなきゃ、私がさく兄とパーティー組めていなかったし!」
「ウチもや!」
往来がある通りだというのに、自分へと詰め寄ってくる少女ふたり。
朔斗は思わず笑ってしまう。
(今さら<ブレイバーズ>のメンバーのことを考えていても仕方がない……か。あいつらとの未来は途絶えたんだ)
そう吹っ切った彼は話を変える。
「今日はどこかに寄って夕食を食べるか?」
「うん!」
「そうやね」
朔斗や恵梨香の勧めもあり、サリアは現在彼らと一緒に住んでいる。
もともと彼女はひとり暮らしをしていた。
サリアは児童養護施設の出身。
彼女が小さい頃に母親が父親に捨てられ、サリアが四歳のときに母親は病気で帰らぬ人に。
その後、父親が彼女を引き取ることはなく、サリアは児童養護施設に入れられた。
今の地球は希少なスキルやエリクサーなどがあるため、お金さえ積めばサリアの母親も助かっただろう。
しかし、一般的な会社員だった母親にはそんな蓄えはなく、ふたりを捨てた父親からも援助がなかったのだ。
そういった背景もあり、家族に憧れを持っていたサリアは朔斗や恵梨香の関係を羨んでいた。
家族といっても朔斗と恵梨香に血の繋がりはないし、それはすでにサリアも聞き及んでいるが、義妹を大事にする朔斗や義兄に恋慕している恵梨香を見ていると、本当の家族以上の家族に見えるのだ。
三人がそこそこの人気店でご飯を食べたあと、それ以上寄り道をせずに自宅へと向かう。
朔斗の左に恵梨香、そのさらに左にサリアが歩いている。
少女ふたりに視線を向けた朔斗は内心思う。
(本当にこのふたりは仲良くなったよな。恵梨香は家に友達を呼んだことがなかったから、友達付き合いが苦手だと思っていた。成人して成長したか? いや、ただ単に気が合うのかもしれないな)
現在、地球上に存在する各国のすべては成人を十六歳と定めている。
義務教育が中学校までであり、それ以降は自己責任の元ではあるが、死のリスクがあるダンジョンへと挑戦できるというのがその大きな理由。
(んー、パーティーメンバーだからって線もあるか。できるだけリスクを遠ざけているとはいえ、ダンジョンでは生死が懸かっているし、ひとたび立ち入れば数日間は閉ざされた空間で一緒に行動せざるを得ない)
楽しそうに会話をしている恵梨香とサリアを見ていた朔斗はそう思った。
しばらく歩き続けた彼らの視界が三人が住む家を遠目に捉える。
さらに自宅へ近付いた時、朔斗の肩眉が上がり、ふと呟く。
「あれは誰だ?」
そう言った彼の視線の先には、ひとりの女性。
彼女は朔斗たちの家の門前で佇んでいるのだった。
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