無双の解体師

緋緋色兼人

文字の大きさ
上 下
23 / 65
一章

23:訪問者?

しおりを挟む
 初めて面会した日だけでは時間が足りず、詳細を煮詰められなかった朔斗とサリア。
 しかし、二回目の面談で細かいところまで契約内容を決めた彼らは、五年契約を無事に結んだ。
 それによって秋津サリアという特殊探索者が、朔斗率いるパーティーに加入した。

 彼らのパーティーは現在三人。
 パーティー名は朔斗と恵梨香が話し合った結果、<EAS>となった。
 これは『終わらない冒険』という言葉を英語にしたEndless AdventureのEとA、そしてパーティーの核となる人物――朔斗のSをくっつけたもの。
 自分のイニシャルをパーティー名に入れることを、当初は反対していた朔斗だったが、それは恵梨香によって頑なに却下され、最終的に朔斗が折れた形となり、パーティー名が無事に決定されたという経緯がある。

 そんな<EAS>は三人でダンジョンを攻略していて、すでに下級二回、中級を五回踏破していた。
 下級は四日、中級は五日――この日数は何か?
 それぞれのダンジョンをクリアするのにかかる日数というのが答え。
 もちろんこれは平均日数と言われているもので、絶対的なものではない。
 ダンジョン内で討伐するモンスターの数、戦闘にかける時間、休憩を取る頻度、歩く速度などといった要因によって、クリアに必要な日数は左右される。

 ちなみに環境が厳しくなる砂漠や雪山などは人気がなく、『チェンジ』をする探索者が多い。
 この『チェンジ』というのは、WEOにある大きなモノリスを使用してダンジョンに飛び、そこの環境が気に入らなければ、ダンジョン入口にあるモノリスを利用してWEOに舞い戻り、さらにまたWEOにあるモノリスを使ってダンジョンに行くことを指す。

 そのようにして探索者はできる限り、自分たちが戦いやすいフィールドを選択するのだ。
 しかし、砂漠などの不人気エリアに、誰も行かないのかというとそれも違う。
 なぜなら砂漠や雪山には、そこにしか存在しないモンスター、鉱石、植物もあって、それを必要とする人や企業もいるからだ。

 さておき、<EAS>の方針は可能な限り速くダンジョンをクリアすることなので、下級は三日、中級は四日で踏破するのを目指しているし、問題なく実行していて今のところそれは破られていない。
 一般的に言われているクリア日数より短くする意味――これはレアボスに遭遇する可能性を上げたり、報酬箱をより多く開けたりするために必要だから。
 また、クリアするのに必要な日数を短縮するため、朔斗は地図を購入している。

 すべてのダンジョンではないし、中級までのランクに限るのだが、世界各地のダンジョンマップの多くはWEOが販売しているのだ。
 上級以上の地図も一部は発売されているが、ダンジョンの難易度の関係上、マッピングが終わっていて、且つそれが公開されている箇所は少なくて話にならない。

 上級のダンジョンを攻略できるのは、基本的にCランクの最上位以上の探索者であり、その数は三二〇万と少し。
 探索者全体の人数がおよそ一億人なので、Cランクの最上位以上の探索者がいかに少ないか一目瞭然だろう。
 ちなみに<ブレイバーズ>はCランクだが、まだ上位まで到達していない。
 しかし彼らのパーティーはバランスが良く、さらに恵まれたジョブ構成のために上級ダンジョンをクリアできたのだ。

 三人で挑戦した五度目の中級ダンジョンをクリアし、他のふたりと一緒にWEO東京第三支部から出た朔斗。
 彼はオレンジ色に染まった空の下を歩きながら、しみじみと口にする。

「【解体EX】の新しい使い方を、今回のダンジョンで試せたのは大きな収穫だった」

 誰に言ったわけでもない言葉に反応したのは恵梨香。

「私が役に立ったみたいで良かった!」
「ん、ああ。聞こえてたか。ありがとな。俺が思いついていないやり方だった。さすが恵梨香だ」
「えへへ」

 義兄に褒められて有頂天になった恵梨香が相好を崩しつつ何度も頷く。
 素直に喜ぶ義妹を見た彼の心が温かくなり、ふと空を見上げて呟いた。

「もうすぐ四月も半ばか。最近はすっかり暖かくなった」

 朔斗に続いて声を出したのは恵梨香とサリア。

「だねぇ。それに綺麗な夕焼け」
「最近は充実しているからか、時間の流れが早く感じるんやけど、ふたりはどう?」

 朔斗が問いかけに答える。

「同じだな。正直、<ブレイバーズ>にいたときよりも充実してる」
「あー、それはわかる。以前のさく兄は、ダンジョンから戻ってくる度に疲れ切った顔をしてたもん」

 何度も頷く恵梨香に対し、苦笑いをした朔斗が言う。

「あの頃は体力よりも気持ち的にな……俊彦がイケイケすぎて、それを宥めたり戦闘中にパーティー全体を見て指示出しをしたり、精神的疲労が大きかったんだよな。モンスターと対峙している際は、俊彦も一応俺の言うことを聞いてくれていたんだが、振り返ってみると結構不満気な顔をしていたかもしれない」
「わかるぅ、あの人ってマウント取るの好きだもんね。会話していても自慢話が多いし、俺スゲーってのがありありだったよ」
「『剣聖』だけあって、戦闘面では頼りになったんだけどな。学生時代はまだ良かったが、どんどんプライドが肥大化していってた。なんとなく気づいてはいたが……それでもトラブルを起こしていなかったし、俺は俺でエリクサーのために必死になりすぎてて、そういうところを見落としていたというか、あえて見えないようにしていたんだと思う。だからこそ追放されてしまったと言えるだろう」

 若干気落ちした朔斗へサリアが話しかける。

「ウチもいろいろあったからわかるんやけど、人間関係は難しいよねぇ。もともとが友人関係だとしても、探索者だと利害関係があからさまになってくるし」
「まあな。ただそれでも小さい頃からの友人だったんだ……俺がもっと注意深く立ち回っていたら――あいつらとの関係が切れないで、もっと上手く付き合っていられたかもしれないって最近思うようになった」

 恵梨香がため息をつく義兄に言う。

「そうやって考えちゃうのは、さく兄に余裕が出てきたからじゃないかな? それが良いとも悪いとも私は言わないけど、それでもあの当時は仕方なかったって思うよ。それにそうじゃなきゃ、私がさく兄とパーティー組めていなかったし!」
「ウチもや!」

 往来がある通りだというのに、自分へと詰め寄ってくる少女ふたり。
 朔斗は思わず笑ってしまう。

(今さら<ブレイバーズ>のメンバーのことを考えていても仕方がない……か。あいつらとの未来は途絶えたんだ)

 そう吹っ切った彼は話を変える。

「今日はどこかに寄って夕食を食べるか?」
「うん!」
「そうやね」

 朔斗や恵梨香の勧めもあり、サリアは現在彼らと一緒に住んでいる。
 もともと彼女はひとり暮らしをしていた。
 サリアは児童養護施設の出身。
 彼女が小さい頃に母親が父親に捨てられ、サリアが四歳のときに母親は病気で帰らぬ人に。
 その後、父親が彼女を引き取ることはなく、サリアは児童養護施設に入れられた。

 今の地球は希少なスキルやエリクサーなどがあるため、お金さえ積めばサリアの母親も助かっただろう。
 しかし、一般的な会社員だった母親にはそんな蓄えはなく、ふたりを捨てた父親からも援助がなかったのだ。
 そういった背景もあり、家族に憧れを持っていたサリアは朔斗や恵梨香の関係を羨んでいた。
 家族といっても朔斗と恵梨香に血の繋がりはないし、それはすでにサリアも聞き及んでいるが、義妹を大事にする朔斗や義兄に恋慕している恵梨香を見ていると、本当の家族以上の家族に見えるのだ。

 三人がそこそこの人気店でご飯を食べたあと、それ以上寄り道をせずに自宅へと向かう。
 朔斗の左に恵梨香、そのさらに左にサリアが歩いている。
 少女ふたりに視線を向けた朔斗は内心思う。

(本当にこのふたりは仲良くなったよな。恵梨香は家に友達を呼んだことがなかったから、友達付き合いが苦手だと思っていた。成人して成長したか? いや、ただ単に気が合うのかもしれないな)

 現在、地球上に存在する各国のすべては成人を十六歳と定めている。
 義務教育が中学校までであり、それ以降は自己責任の元ではあるが、死のリスクがあるダンジョンへと挑戦できるというのがその大きな理由。

(んー、パーティーメンバーだからって線もあるか。できるだけリスクを遠ざけているとはいえ、ダンジョンでは生死が懸かっているし、ひとたび立ち入れば数日間は閉ざされた空間で一緒に行動せざるを得ない)

 楽しそうに会話をしている恵梨香とサリアを見ていた朔斗はそう思った。
 しばらく歩き続けた彼らの視界が三人が住む家を遠目に捉える。
 さらに自宅へ近付いた時、朔斗の肩眉が上がり、ふと呟く。

「あれは誰だ?」

 そう言った彼の視線の先には、ひとりの女性。
 彼女は朔斗たちの家の門前で佇んでいるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...