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一章
10:【解体EX】
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三日間の休暇を挟み、初めてソロでダンジョンに挑戦する朔斗。
彼はWEO東京第三支部にあるモノリスのひとつに向かって歩いていた。
時間はまだ朝方のため、ダンジョンから戻って来る者は少なく、逆にこれからダンジョンに潜る探索者が多い。
モノリスがある大部屋にたどり着いた朔斗は目の前にあるそれを見上げた。
彼の視線の先にあるのは、二階建ての建物の厚みを5メートル程度にした特殊な板状の物。
その表面は碧く輝いている。
ここへ来るのはダンジョンに用がある人だけではない。
日頃の経験によってジョブランクが上がる者もいるため、探索者をしていない企業の経営者や役員、会社勤めのサラリーマン、手に職を持っている者なども利用することがあるのだ。
そうはいっても、ランクが上がれば上がるほどそうそう上昇するものではないので、ここに来るのは探索者以外であれば若年層が圧倒的に多い。
周囲にいる人たち同様、朔斗がモノリスに左手を触れさせる。
それと同時に手を置いた周辺が光を発し、彼の眼前にホログラムが浮かび上がった。
朔斗はそれを操作するため、右手を動かす。
最初に表示された文字は――
《カードの発行》
《能力の表示》
《ダンジョンの選択》
という三つ。
ひとつめの《カードの発行》。
ここで発行されるカードは個人カードと呼ばれていて、十歳のときにジョブを発現させた際に初めて発券されるのだが、大きなモノリスから突如としてカードが生えてくる光景に驚く子どもが多い。
また、探索者カードとは個人カードに刻印を入れ、探索者であることをわかりやすいように処理したものだ。
そしてカードを無くしてしまった者は、ここで《カードの発行》を選択し再発行を行うことになる。
ふたつめの《能力の表示》。
これは個人カードや探索者カードでも見られる情報と同じ。
朔斗は迷うことなく三つめの《ダンジョンの選択》を選ぶ。
するとホログラムが切り替わって、違う文字が表示された。
《最下級》
《下級》
《中級》
《上級》
《特級》
《超級》
《神級》
ここでは行きたいダンジョンの難易度を選択することになる。
(今日は【解体EX】の練習をするから、安全のためにも《最下級》だな)
そうして《最下級》の文字に右手人差し指を触れさせた。
それによって文字が更新される。
《ゴブリン》
《コボルト》
《ゾンビ》
《ランダム》
ここで表示されたモンスターの名称は、選んだダンジョンに多く出てくる敵となり、《ランダム》を選択した場合は、出現するモンスターに法則性がなくなってしまう。
最下級ダンジョンは選択肢が少ないが、下級や中級になるにしたがって増えていく。
朔斗は予定どおりに《ゴブリン》と書かれた箇所に指を持っていった。
またまた画面が切り替わり、浮かび上がる最後の選択肢。
《ゴブリン・最下級ダンジョンへの転移》
《はい》
《いいえ》
ひとつ頷く朔斗。
(いくか)
最下級ダンジョンで後れを取るつもりはない朔斗だったが、ダンジョンに初めてソロで突入することもあって、表情がぎこちなく若干緊張した様子が窺えた。
最後に《はい》を選んだ朔斗。
その瞬間――モノリスがある大部屋から彼の姿が掻き消えたのだった。
朔斗の視界が切り替わり、彼の目の前にあったモノリスの大きさは高さ2メートルほどになっている。
これは先ほどのモノリスとは別物。
(今回は洞窟タイプか)
ダンジョンは世界中に無数に存在している。
そのため、今回朔斗が選択したゴブリン・最下級ダンジョンというものは世界にいくつもあって、草原だったり、砂漠だったり、沼地だったり、森林だったりとダンジョン内の環境はさまざま。
複数のパーティーが一緒のダンジョンへと入れると、以前の俊彦が朔斗に言っていたが、それを実現するにはWEOでパーティー同士がアライアンスを組むという手続きをしなければならない。
その処理をするにはWEOの大きなモノリスを使用するのではなく、それとは違った小さなモノリスを使用する必要があり、パーティーの脱退や加入、結成の手続きもそこで行える。
朔斗が転移してきた部屋。
そこにはモノリスと扉が存在している。
ダンジョンが発生して以降、人類もモンスターもその扉から外に出ることが一度も叶っていない。
WEOにあるモノリスを使用せずとも、地上に存在するダンジョンの扉を開いて直接入場できるが、その逆を試みて成功した者は未だに存在しないのだ。
とあるダンジョン研究家は、いずれ内部からも扉を通って出入りできるようになるのでは? という予測を立てる者もいれば、逆にこれからもそんなことはないと信じている人も多い。
壁がぼんやりと発光していて十分な明るさを持たないダンジョン。
朔斗はなんとなく後ろに振り返る。
(ついつい癖で見ちゃうんだよな。俺たちの転移とほぼ同時に、外から入場してきたってのが昔一度だけあったし。何かトラブルがあったわけじゃないが……しかし、あそこから出られるとしたら、簡単に旅行ができるようになるな。まあ、出口が山奥に繋がっている可能性もあるんだが)
わりとどうでもいいことを考えていた朔斗。
(んー、いくらスキルの使用方法や効果がわかってるとはいえ、まだ未経験だからどうしても緊張しちゃうな。だからこそ無意識に気を逸らそうとして、旅行とかを考えてしまったんだろう)
朔斗は軽く自分の頬を叩く。
彼は【ディメンションボックス】を使用し、片手剣と盾を取り出す。
盾が大きすぎると行動の阻害になるため、朔斗が持っている物はそこまで大きくなく、頭部を守ろうと盾で身を隠した際には胸までしか入らない。
薄暗いとまではいかないが、このダンジョンは明るいとまで言えないので、朔斗はその場に留まりまずは眼を慣らす。
数分後、視界の確保が十分だと判断し、彼は足を動かす。
緊張した面持ちで一本道をしばし歩いていた朔斗の耳に、耳障りな声が聞こえてきた。
それは彼が今まで何回も聞いたことがあるゴブリンの声。
「グギャギャ、グギャ」
一度立ち止まった朔斗が呟く。
「まだ姿は見えないが一匹か。あの角を曲がればいるはず」
耳をすませば一匹分の足音が聞こえてくる。
ゆっくりと音を立てないような足運びで、朔斗は曲がり角に近付く。
息を殺した彼はゴブリンが視界に入ってくるのを待ち構えた。
一分もしないうちに身長一三〇センチほど、緑色の肌、意地が悪そうで醜悪な顔のゴブリンが現れる。
右手に木の棒を持ったゴブリンは、自分たちの住処への侵入者に気がつく。
尖った犬歯が獲物をかみ砕きたいと主張するように、顎を動かして歯を鳴らす。
警戒をしつつも、じりじりと朔斗へ近づくゴブリン。
(さてと、やるか。どこまで残すか……素材として残す部位を考えてスキルを使うほど、思考時間が長くなってしまう。素材をイメージしないで【解体】を使用した際、これまでだと魔石だけが戦利品として残されていた。まずはこれを試すか)
そう考えた朔斗は視界にきっちりと収めたゴブリンに対し、【解体EX】を使用すると脳内で意識した。
――その瞬間、にやけていたゴブリンの身体が一時停止したかのように動きを止め、身体が鈍い光を放つ。
(俺がスキルを使用したと同時にゴブリンの表情が消えた。これは即時命を奪えたと考えていいだろう)
ゴブリンが光って一秒も経たず、緑色の身体が消え去り、その場には小さな魔石がひとつ残された。
無意識にガッツポーズを取る朔斗。
「よしっ、よし!!」
ふつふつと湧き上がる全能感。
――これでどんな敵にでも勝てるだろう。
――俺ならどこまででもいける。
瞳を閉じた朔斗はそんな感情に支配されそうになった。
しかし、すぐに己を律する。
(俺は馬鹿か! たしかに【解体EX】は恐ろしいほどのスキルだ。これは間違いない。だが、数え切れないほどのモンスターが出てきたときだったり、自分が冷静でなかったりした場合は、あっという間に俺の命を摘み取られるだろう。俺や恵梨香の両親の最後を忘れちゃいけない)
こうして初めて【解体EX】を使用した朔斗は、今後の戦闘においてできる限り冷静でいようと改めて心に刻むのだった。
彼はWEO東京第三支部にあるモノリスのひとつに向かって歩いていた。
時間はまだ朝方のため、ダンジョンから戻って来る者は少なく、逆にこれからダンジョンに潜る探索者が多い。
モノリスがある大部屋にたどり着いた朔斗は目の前にあるそれを見上げた。
彼の視線の先にあるのは、二階建ての建物の厚みを5メートル程度にした特殊な板状の物。
その表面は碧く輝いている。
ここへ来るのはダンジョンに用がある人だけではない。
日頃の経験によってジョブランクが上がる者もいるため、探索者をしていない企業の経営者や役員、会社勤めのサラリーマン、手に職を持っている者なども利用することがあるのだ。
そうはいっても、ランクが上がれば上がるほどそうそう上昇するものではないので、ここに来るのは探索者以外であれば若年層が圧倒的に多い。
周囲にいる人たち同様、朔斗がモノリスに左手を触れさせる。
それと同時に手を置いた周辺が光を発し、彼の眼前にホログラムが浮かび上がった。
朔斗はそれを操作するため、右手を動かす。
最初に表示された文字は――
《カードの発行》
《能力の表示》
《ダンジョンの選択》
という三つ。
ひとつめの《カードの発行》。
ここで発行されるカードは個人カードと呼ばれていて、十歳のときにジョブを発現させた際に初めて発券されるのだが、大きなモノリスから突如としてカードが生えてくる光景に驚く子どもが多い。
また、探索者カードとは個人カードに刻印を入れ、探索者であることをわかりやすいように処理したものだ。
そしてカードを無くしてしまった者は、ここで《カードの発行》を選択し再発行を行うことになる。
ふたつめの《能力の表示》。
これは個人カードや探索者カードでも見られる情報と同じ。
朔斗は迷うことなく三つめの《ダンジョンの選択》を選ぶ。
するとホログラムが切り替わって、違う文字が表示された。
《最下級》
《下級》
《中級》
《上級》
《特級》
《超級》
《神級》
ここでは行きたいダンジョンの難易度を選択することになる。
(今日は【解体EX】の練習をするから、安全のためにも《最下級》だな)
そうして《最下級》の文字に右手人差し指を触れさせた。
それによって文字が更新される。
《ゴブリン》
《コボルト》
《ゾンビ》
《ランダム》
ここで表示されたモンスターの名称は、選んだダンジョンに多く出てくる敵となり、《ランダム》を選択した場合は、出現するモンスターに法則性がなくなってしまう。
最下級ダンジョンは選択肢が少ないが、下級や中級になるにしたがって増えていく。
朔斗は予定どおりに《ゴブリン》と書かれた箇所に指を持っていった。
またまた画面が切り替わり、浮かび上がる最後の選択肢。
《ゴブリン・最下級ダンジョンへの転移》
《はい》
《いいえ》
ひとつ頷く朔斗。
(いくか)
最下級ダンジョンで後れを取るつもりはない朔斗だったが、ダンジョンに初めてソロで突入することもあって、表情がぎこちなく若干緊張した様子が窺えた。
最後に《はい》を選んだ朔斗。
その瞬間――モノリスがある大部屋から彼の姿が掻き消えたのだった。
朔斗の視界が切り替わり、彼の目の前にあったモノリスの大きさは高さ2メートルほどになっている。
これは先ほどのモノリスとは別物。
(今回は洞窟タイプか)
ダンジョンは世界中に無数に存在している。
そのため、今回朔斗が選択したゴブリン・最下級ダンジョンというものは世界にいくつもあって、草原だったり、砂漠だったり、沼地だったり、森林だったりとダンジョン内の環境はさまざま。
複数のパーティーが一緒のダンジョンへと入れると、以前の俊彦が朔斗に言っていたが、それを実現するにはWEOでパーティー同士がアライアンスを組むという手続きをしなければならない。
その処理をするにはWEOの大きなモノリスを使用するのではなく、それとは違った小さなモノリスを使用する必要があり、パーティーの脱退や加入、結成の手続きもそこで行える。
朔斗が転移してきた部屋。
そこにはモノリスと扉が存在している。
ダンジョンが発生して以降、人類もモンスターもその扉から外に出ることが一度も叶っていない。
WEOにあるモノリスを使用せずとも、地上に存在するダンジョンの扉を開いて直接入場できるが、その逆を試みて成功した者は未だに存在しないのだ。
とあるダンジョン研究家は、いずれ内部からも扉を通って出入りできるようになるのでは? という予測を立てる者もいれば、逆にこれからもそんなことはないと信じている人も多い。
壁がぼんやりと発光していて十分な明るさを持たないダンジョン。
朔斗はなんとなく後ろに振り返る。
(ついつい癖で見ちゃうんだよな。俺たちの転移とほぼ同時に、外から入場してきたってのが昔一度だけあったし。何かトラブルがあったわけじゃないが……しかし、あそこから出られるとしたら、簡単に旅行ができるようになるな。まあ、出口が山奥に繋がっている可能性もあるんだが)
わりとどうでもいいことを考えていた朔斗。
(んー、いくらスキルの使用方法や効果がわかってるとはいえ、まだ未経験だからどうしても緊張しちゃうな。だからこそ無意識に気を逸らそうとして、旅行とかを考えてしまったんだろう)
朔斗は軽く自分の頬を叩く。
彼は【ディメンションボックス】を使用し、片手剣と盾を取り出す。
盾が大きすぎると行動の阻害になるため、朔斗が持っている物はそこまで大きくなく、頭部を守ろうと盾で身を隠した際には胸までしか入らない。
薄暗いとまではいかないが、このダンジョンは明るいとまで言えないので、朔斗はその場に留まりまずは眼を慣らす。
数分後、視界の確保が十分だと判断し、彼は足を動かす。
緊張した面持ちで一本道をしばし歩いていた朔斗の耳に、耳障りな声が聞こえてきた。
それは彼が今まで何回も聞いたことがあるゴブリンの声。
「グギャギャ、グギャ」
一度立ち止まった朔斗が呟く。
「まだ姿は見えないが一匹か。あの角を曲がればいるはず」
耳をすませば一匹分の足音が聞こえてくる。
ゆっくりと音を立てないような足運びで、朔斗は曲がり角に近付く。
息を殺した彼はゴブリンが視界に入ってくるのを待ち構えた。
一分もしないうちに身長一三〇センチほど、緑色の肌、意地が悪そうで醜悪な顔のゴブリンが現れる。
右手に木の棒を持ったゴブリンは、自分たちの住処への侵入者に気がつく。
尖った犬歯が獲物をかみ砕きたいと主張するように、顎を動かして歯を鳴らす。
警戒をしつつも、じりじりと朔斗へ近づくゴブリン。
(さてと、やるか。どこまで残すか……素材として残す部位を考えてスキルを使うほど、思考時間が長くなってしまう。素材をイメージしないで【解体】を使用した際、これまでだと魔石だけが戦利品として残されていた。まずはこれを試すか)
そう考えた朔斗は視界にきっちりと収めたゴブリンに対し、【解体EX】を使用すると脳内で意識した。
――その瞬間、にやけていたゴブリンの身体が一時停止したかのように動きを止め、身体が鈍い光を放つ。
(俺がスキルを使用したと同時にゴブリンの表情が消えた。これは即時命を奪えたと考えていいだろう)
ゴブリンが光って一秒も経たず、緑色の身体が消え去り、その場には小さな魔石がひとつ残された。
無意識にガッツポーズを取る朔斗。
「よしっ、よし!!」
ふつふつと湧き上がる全能感。
――これでどんな敵にでも勝てるだろう。
――俺ならどこまででもいける。
瞳を閉じた朔斗はそんな感情に支配されそうになった。
しかし、すぐに己を律する。
(俺は馬鹿か! たしかに【解体EX】は恐ろしいほどのスキルだ。これは間違いない。だが、数え切れないほどのモンスターが出てきたときだったり、自分が冷静でなかったりした場合は、あっという間に俺の命を摘み取られるだろう。俺や恵梨香の両親の最後を忘れちゃいけない)
こうして初めて【解体EX】を使用した朔斗は、今後の戦闘においてできる限り冷静でいようと改めて心に刻むのだった。
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