無双の解体師

緋緋色兼人

文字の大きさ
上 下
3 / 65
一章

3:追放

しおりを挟む
――数秒の静寂。
 しかし、それは朔斗によって破られる。

「は? 何を言っているんだ?」

 動揺を隠せない朔斗。
 その証拠に、彼の声は明らかに震えていた。
 朔斗の次に声を出したのは瑞穂。

「何もここでその話をしなくてもいいんじゃ……」

 瑞穂に目を合わせてから俊彦が首を左右に振り、彼女に反論する。

「いや、戻ってから話しても同じだ。なら早いほうがいいだろ?」
「でも……」
「一度は俺たち四人で話し合って決めたはずだ」
「こんなに早く上級のアイテムボックスが出ると思っていなかったし、私はもっともっと先の話だと思ってたから……」

 俊彦と瑞穂の会話に恵子が口を挟む。

「すっかり忘れてたけど、あのときに話したことは本気だったんだね……」
「ああ、そうだ」
「私も瑞穂と同じで早々にアイテムボックスが入手できるって思ってなかった。だからもう少し様子を見てもいいんじゃない?」
「いや、それはダメだ。俺たちが上にいくためにもこれは必要なことだって以前説明したろ?」
「それは……うん……」

 目の前で繰り広げられる会話についていけない朔斗。

(経緯はまったく理解できないし、したくもないが……少なくとも俺がいないところでこいつらは事前に話し合っていて、俺を追い出すことを決めていたってわけか……)

 この場に居る五人は年齢も出身地も同じ。
 彼らの友人関係は長く、出会ったのは小学校にまで遡る。
 五人は現在十七歳だが、誰ひとりとして高校には通っていない。

 現在、全世界的に人口が激減しており、地球の人数は二十億ほど。
 さまざまな事情によって、ダンジョンに入ってモンスターと戦う才能がある者は高校に入学せず、中学校を卒業してすぐに戦闘へと身を投じるケースが多い。

 この場で他に発言をしないと決めたのか、恵子や瑞穂が口を閉じ、それを確認した俊彦が朔斗に向き直った。

「急な話でお前には悪いと思ってる。けど、わかるだろ?」

 俊彦に問いかけられた朔斗が沈黙を守っている様子を見た彼は、若干の苛立ちを隠さずに声を荒げる。

「一緒にダンジョンへと入場できる人数に制限はないとはいえ、登録できるパーティーメンバーはなぜか五人が上限だ。そしてパーティーを組んでいれば色々と恩恵がある」
「ああ」

 わかりきったことを説明された朔斗は内心舌打ちしたくなる。
 しかし、俊彦はそんな彼を気にせず言葉を続けていった。

「大手企業の探索部は複数のパーティーで行動することが多いが、今の俺たちには必要ないし、もし入社するとしても、もっともっと実績を積んでスカウトの目に留まってからだ。それに今はふたつのパーティーを作るつもりもない」

 朔斗をじっと見据えた俊彦は肩をすくめたあと、口を開く。

「さて、少し話がそれたな。続きを話すぞ。俺、良太、恵子、瑞穂は優れたジョブを引き当てた。それに比べてお前はどうだ? 確かに今までお前以外に発現した者がいないんだから、朔斗のジョブは珍しいし、ユニークジョブと言ってもいいだろう」

 自分の意見がすべて正しいのだという態度で話してくる俊彦に若干の苛立ちを覚える朔斗だったが、彼の言わんとすることが自分でも理解できているので、反論するのも憚られる。

「俺のジョブは?」

 自慢げな表情を浮かべた俊彦に問いかけられた朔斗は答える。

「剣聖」
「良太は?」
「守護者」
「恵子と瑞穂は?」
「魔導師とビショップ」

 この後に続く流れが予想できる朔斗。
 そしてそれは間違いじゃなかったとすぐに思い知る。

「じゃあ、お前のジョブは?」
「――――解体師だ」

 地球に住む人類は世界各地に存在するモノリスに触れることによってジョブを授かり、それによってダンジョンが存在する混沌とした現代社会を生き抜いている。

「だよなぁ、そりゃあ確かに一瞬で獲物を解体できたり、アイテムボックス要らずで荷物を大量に持てたりするのは正直凄いと思うし、今まで世話になってきた。本当に世界唯一の特別なジョブだろう。でも前者は解体業者や世界探索者機構であるWEOに持ち込めば有料だが処理をしてもらえるし、後者に至っては今アイテムボックスを入手できた」

 俊彦が口にしたWEOとはWorld Explorer Organizationの略称名。
 この機関は世界的なものであり、世界各地にあるダンジョンの情報を扱っている公的機関で、基本的にモノリスが存在する場所にWEOの施設がある。
 これはモノリスが地球に出現してから利便性を考慮し、そこに建物を建設していったためだ。
 また、この機関は常時なんらかのクエストを発行していて、ダンジョンに潜る者はそれらをこなして達成金を入手できる。

 俊彦が自分に伝えたいことが理解できた朔斗が舌打ちしたあと、目の前の男に怒声を浴びせる。

「それで俺と入れ替わりに戦闘がこなせる誰かをパーティーに入れたいから、その代わりに俺を追い出すのか!?」
「ようやくわかってくれたか」
「ちっ、そもそもお前が俺をパーティーに加えたいって誘ってきたよな?」

 苛立ちを隠さずに俊彦に詰問する朔斗に対し、彼は「ああ、そうだ。とりあえず熱くなるなよ」と言ってさらに言葉を続ける。

「勧誘したときにお前から提示された条件も覚えてるぜ? まずは報酬の分け前だ。お前が求めている品でない場合、ダンジョンをクリアした際の報酬箱から出た物は俺たちにのみ所有権が発生する。違うか?」
「いや、合ってる」
「魔物を倒したりクエストを達成したり企業からの依頼を達成したりして、収入を得たときの配分は俺たちが20%ずつ、お前が5%、残り15%がパーティーの資金。大きなところだとこんなもんか。何か反論があれば言ってくれ」
「……いや、ない」
「それは良かった。そしてここが大事なんだが、取り決めでは一生同じパーティーでいるとも、どれだけの期間一緒に活動するとかの契約もしていないよな?」

 朔斗は俊彦の言いように酷く腹が立つ。

(俺が甘すぎたか。俺たち五人の仲は小学校からのものだった……いや、あいつも入れたら六人か)

 今は彼女のことを考えても仕方ないと朔斗は無意識に首を軽く振った。

(こいつらは俺の事情を知っていて、さらにあれだけ熱心に誘ってきたから俺はこのパーティーに加入したし、信頼関係も築けていると思っていた。だからこそパーティーメンバーとして活動する期間を定めなかったが。俺がみんなほど戦闘で活躍していなくても……)

 なんとか冷静さを保とうとした朔斗だったが、なかなか上手くいかない。

(探索者としてもっともっと上にいきたいって気持ちはわかる。それは俺もそうだし。だがそれは十一年の付き合いを踏みにじってもいい理由にはならない。なによりも――こいつらだってあいつとは仲が良かったじゃないか!)

「お前らはあいつのことを気にしないのか?」

 絞り出すように吐き出された朔斗の想いに対して、俊彦が首をゆっくりと左右に動かす。

「俺たちだってどうでもいいとは考えていないさ。でもよ、もっと現実的に考えようぜ? この世の中でどれだけの人がエリクサーを切望していると思ってる? なんらかの事故やダンジョンでの戦闘で四肢を欠損した者、治療法はあっても手遅れになっている難病の患者。そして未だに治療法が確立していない魔力過多症」
「それはわかってる! それでも俺は――――」
「落ち着けって。別に俺たちは喧嘩したいわけじゃない。ハッキリ言って俺たちが探索者としてさらに上を目指すためには――――お前は邪魔なんだ」

 真正面から拒絶の言葉を突き付けられた朔斗はショックを隠せない。
 そんな彼に向かって追撃を緩めない俊彦。

「俺たちがアイテムボックスを手に入れた以上、今後は朔斗の活躍の場は減っていく。それにこれから先は、今まで以上に気が抜けない戦闘も増えてくるだろう。そうなったときにお前のお守をしながらだと予期せぬ怪我をすることだってあるし、最悪のことだってあるかもしれない」

 頭に血が上って思わず俊彦を殴りたくなった朔斗だったが、それは思い留まり顔を伏せる。

(はぁ、信じていたんだけどな……仕方ないとは思いたくないが、どうしようもないか。ここでこいつらに縋っても先はない、か……)

 数秒の沈黙の後、朔斗の耳に聞こえてくるのは「言いすぎ」という恵子や「もっと穏便にしましょう」という瑞穂の声。

「さあ、決断してくれ。といっても今後は朔斗とパーティーを組む気はないが」

 俊彦の言葉を聞いて顔を上げた朔斗が重々しく口を開いた。

「わかった」
「そうか、ありがとな。じゃあ俺たちの荷物やここで手に入れた素材をこっちに渡してくれ。アイテムボックスに入れていく。ああ、オーガエンペラーの素材は餞別としてくれてやる。みんないいよな?」
「まっ、仕方ないか。あれだけで相当な価値があるし、朔斗が本来貰えた取り分より多くなるが」
「……うん」
「いいわよ」

 これまで黙っていた良太、そして罪悪感を滲ませた恵子や瑞穂も俊彦に同意する。
 それらの言葉を聞きながら、朔斗は解体師としてのスキルである【ディメンションボックス】を発動させた。
 このスキルの効果はとても凄まじいものだ。
 これはアイテムボックスの完全上位互換。
 そもそもアイテムボックスはスキルではないので、比べても意味はないかもしれないが。

 スキルを発動させた朔斗は、脳内に表示された【ディメンションボックス】に収納されている物のリストから取り出す物を選択していく。
 それはここに来るまでに倒した魔物の素材、野営の道具、食料品、替えの装備品などなど。
 幸いにして現在五人が滞在している部屋にはスペースが沢山ある。

 床に置かれていく物を俊彦、良太、恵子、瑞穂はチェックし、俊彦は入手したばかりのアイテムボックスを使用して、それらを収納していく。
 そうして数分をかけて作業を終わらせた五人。
 その内の四人である俊彦、良太、恵子、瑞穂は、報酬箱の数メートル後方にあるモノリスへと順番に手を触れていく。

 これでこのダンジョンにはもう用がない四人は振り返って朔斗を視界に収める。
 そして俊彦、良太、恵子、瑞穂はそれぞれ口を開く。

「じゃあな。今までありがとよ」
「おつかれさん」
「……ごめんなさい」
「ごめんね……」

 彼らの姿を無表情で見ていた朔斗は虚しさ、苛立ち、悲しみ、不安といったさまざまな感情を抱いて立ち尽くしていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

「モノマネだけの無能野郎は追放だ!」と、勇者パーティーをクビになった【模倣】スキル持ちの俺は、最強種のヒロインたちの能力を模倣し無双する!

藤川未来
ファンタジー
 主人公カイン(男性 20歳)は、あらゆる能力を模倣(コピー)する事が出来るスキルを持つ。  だが、カインは「モノマネだけの無能野郎は追放だ!」と言われて、勇者パーティーから追放されてしまう。  失意の中、カインは、元弟子の美少女3人と出会う。彼女達は、【希少種】と呼ばれる最強の種族の美少女たちだった。  ハイエルフのルイズ。猫神族のフローラ。精霊族のエルフリーデ。  彼女たちの能力を模倣(コピー)する事で、主人公カインは勇者を遙かに超える戦闘能力を持つようになる。  やがて、主人公カインは、10人の希少種のヒロイン達を仲間に迎え、彼女達と共に、魔王を倒し、「本物の勇者」として人類から崇拝される英雄となる。  模倣(コピー)スキルで、無双して英雄に成り上がる主人公カインの痛快無双ストーリー ◆◆◆◆【毎日7時10分、12時10分、18時10分、20時10分に、一日4回投稿します】◆◆◆

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...