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一章
3:追放
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――数秒の静寂。
しかし、それは朔斗によって破られる。
「は? 何を言っているんだ?」
動揺を隠せない朔斗。
その証拠に、彼の声は明らかに震えていた。
朔斗の次に声を出したのは瑞穂。
「何もここでその話をしなくてもいいんじゃ……」
瑞穂に目を合わせてから俊彦が首を左右に振り、彼女に反論する。
「いや、戻ってから話しても同じだ。なら早いほうがいいだろ?」
「でも……」
「一度は俺たち四人で話し合って決めたはずだ」
「こんなに早く上級のアイテムボックスが出ると思っていなかったし、私はもっともっと先の話だと思ってたから……」
俊彦と瑞穂の会話に恵子が口を挟む。
「すっかり忘れてたけど、あのときに話したことは本気だったんだね……」
「ああ、そうだ」
「私も瑞穂と同じで早々にアイテムボックスが入手できるって思ってなかった。だからもう少し様子を見てもいいんじゃない?」
「いや、それはダメだ。俺たちが上にいくためにもこれは必要なことだって以前説明したろ?」
「それは……うん……」
目の前で繰り広げられる会話についていけない朔斗。
(経緯はまったく理解できないし、したくもないが……少なくとも俺がいないところでこいつらは事前に話し合っていて、俺を追い出すことを決めていたってわけか……)
この場に居る五人は年齢も出身地も同じ。
彼らの友人関係は長く、出会ったのは小学校にまで遡る。
五人は現在十七歳だが、誰ひとりとして高校には通っていない。
現在、全世界的に人口が激減しており、地球の人数は二十億ほど。
さまざまな事情によって、ダンジョンに入ってモンスターと戦う才能がある者は高校に入学せず、中学校を卒業してすぐに戦闘へと身を投じるケースが多い。
この場で他に発言をしないと決めたのか、恵子や瑞穂が口を閉じ、それを確認した俊彦が朔斗に向き直った。
「急な話でお前には悪いと思ってる。けど、わかるだろ?」
俊彦に問いかけられた朔斗が沈黙を守っている様子を見た彼は、若干の苛立ちを隠さずに声を荒げる。
「一緒にダンジョンへと入場できる人数に制限はないとはいえ、登録できるパーティーメンバーはなぜか五人が上限だ。そしてパーティーを組んでいれば色々と恩恵がある」
「ああ」
わかりきったことを説明された朔斗は内心舌打ちしたくなる。
しかし、俊彦はそんな彼を気にせず言葉を続けていった。
「大手企業の探索部は複数のパーティーで行動することが多いが、今の俺たちには必要ないし、もし入社するとしても、もっともっと実績を積んでスカウトの目に留まってからだ。それに今はふたつのパーティーを作るつもりもない」
朔斗をじっと見据えた俊彦は肩をすくめたあと、口を開く。
「さて、少し話がそれたな。続きを話すぞ。俺、良太、恵子、瑞穂は優れたジョブを引き当てた。それに比べてお前はどうだ? 確かに今までお前以外に発現した者がいないんだから、朔斗のジョブは珍しいし、ユニークジョブと言ってもいいだろう」
自分の意見がすべて正しいのだという態度で話してくる俊彦に若干の苛立ちを覚える朔斗だったが、彼の言わんとすることが自分でも理解できているので、反論するのも憚られる。
「俺のジョブは?」
自慢げな表情を浮かべた俊彦に問いかけられた朔斗は答える。
「剣聖」
「良太は?」
「守護者」
「恵子と瑞穂は?」
「魔導師とビショップ」
この後に続く流れが予想できる朔斗。
そしてそれは間違いじゃなかったとすぐに思い知る。
「じゃあ、お前のジョブは?」
「――――解体師だ」
地球に住む人類は世界各地に存在するモノリスに触れることによってジョブを授かり、それによってダンジョンが存在する混沌とした現代社会を生き抜いている。
「だよなぁ、そりゃあ確かに一瞬で獲物を解体できたり、アイテムボックス要らずで荷物を大量に持てたりするのは正直凄いと思うし、今まで世話になってきた。本当に世界唯一の特別なジョブだろう。でも前者は解体業者や世界探索者機構であるWEOに持ち込めば有料だが処理をしてもらえるし、後者に至っては今アイテムボックスを入手できた」
俊彦が口にしたWEOとはWorld Explorer Organizationの略称名。
この機関は世界的なものであり、世界各地にあるダンジョンの情報を扱っている公的機関で、基本的にモノリスが存在する場所にWEOの施設がある。
これはモノリスが地球に出現してから利便性を考慮し、そこに建物を建設していったためだ。
また、この機関は常時なんらかのクエストを発行していて、ダンジョンに潜る者はそれらをこなして達成金を入手できる。
俊彦が自分に伝えたいことが理解できた朔斗が舌打ちしたあと、目の前の男に怒声を浴びせる。
「それで俺と入れ替わりに戦闘がこなせる誰かをパーティーに入れたいから、その代わりに俺を追い出すのか!?」
「ようやくわかってくれたか」
「ちっ、そもそもお前が俺をパーティーに加えたいって誘ってきたよな?」
苛立ちを隠さずに俊彦に詰問する朔斗に対し、彼は「ああ、そうだ。とりあえず熱くなるなよ」と言ってさらに言葉を続ける。
「勧誘したときにお前から提示された条件も覚えてるぜ? まずは報酬の分け前だ。お前が求めている品でない場合、ダンジョンをクリアした際の報酬箱から出た物は俺たちにのみ所有権が発生する。違うか?」
「いや、合ってる」
「魔物を倒したりクエストを達成したり企業からの依頼を達成したりして、収入を得たときの配分は俺たちが20%ずつ、お前が5%、残り15%がパーティーの資金。大きなところだとこんなもんか。何か反論があれば言ってくれ」
「……いや、ない」
「それは良かった。そしてここが大事なんだが、取り決めでは一生同じパーティーでいるとも、どれだけの期間一緒に活動するとかの契約もしていないよな?」
朔斗は俊彦の言いように酷く腹が立つ。
(俺が甘すぎたか。俺たち五人の仲は小学校からのものだった……いや、あいつも入れたら六人か)
今は彼女のことを考えても仕方ないと朔斗は無意識に首を軽く振った。
(こいつらは俺の事情を知っていて、さらにあれだけ熱心に誘ってきたから俺はこのパーティーに加入したし、信頼関係も築けていると思っていた。だからこそパーティーメンバーとして活動する期間を定めなかったが。俺がみんなほど戦闘で活躍していなくても……)
なんとか冷静さを保とうとした朔斗だったが、なかなか上手くいかない。
(探索者としてもっともっと上にいきたいって気持ちはわかる。それは俺もそうだし。だがそれは十一年の付き合いを踏みにじってもいい理由にはならない。なによりも――こいつらだってあいつとは仲が良かったじゃないか!)
「お前らはあいつのことを気にしないのか?」
絞り出すように吐き出された朔斗の想いに対して、俊彦が首をゆっくりと左右に動かす。
「俺たちだってどうでもいいとは考えていないさ。でもよ、もっと現実的に考えようぜ? この世の中でどれだけの人がエリクサーを切望していると思ってる? なんらかの事故やダンジョンでの戦闘で四肢を欠損した者、治療法はあっても手遅れになっている難病の患者。そして未だに治療法が確立していない魔力過多症」
「それはわかってる! それでも俺は――――」
「落ち着けって。別に俺たちは喧嘩したいわけじゃない。ハッキリ言って俺たちが探索者としてさらに上を目指すためには――――お前は邪魔なんだ」
真正面から拒絶の言葉を突き付けられた朔斗はショックを隠せない。
そんな彼に向かって追撃を緩めない俊彦。
「俺たちがアイテムボックスを手に入れた以上、今後は朔斗の活躍の場は減っていく。それにこれから先は、今まで以上に気が抜けない戦闘も増えてくるだろう。そうなったときにお前のお守をしながらだと予期せぬ怪我をすることだってあるし、最悪のことだってあるかもしれない」
頭に血が上って思わず俊彦を殴りたくなった朔斗だったが、それは思い留まり顔を伏せる。
(はぁ、信じていたんだけどな……仕方ないとは思いたくないが、どうしようもないか。ここでこいつらに縋っても先はない、か……)
数秒の沈黙の後、朔斗の耳に聞こえてくるのは「言いすぎ」という恵子や「もっと穏便にしましょう」という瑞穂の声。
「さあ、決断してくれ。といっても今後は朔斗とパーティーを組む気はないが」
俊彦の言葉を聞いて顔を上げた朔斗が重々しく口を開いた。
「わかった」
「そうか、ありがとな。じゃあ俺たちの荷物やここで手に入れた素材をこっちに渡してくれ。アイテムボックスに入れていく。ああ、オーガエンペラーの素材は餞別としてくれてやる。みんないいよな?」
「まっ、仕方ないか。あれだけで相当な価値があるし、朔斗が本来貰えた取り分より多くなるが」
「……うん」
「いいわよ」
これまで黙っていた良太、そして罪悪感を滲ませた恵子や瑞穂も俊彦に同意する。
それらの言葉を聞きながら、朔斗は解体師としてのスキルである【ディメンションボックス】を発動させた。
このスキルの効果はとても凄まじいものだ。
これはアイテムボックスの完全上位互換。
そもそもアイテムボックスはスキルではないので、比べても意味はないかもしれないが。
スキルを発動させた朔斗は、脳内に表示された【ディメンションボックス】に収納されている物のリストから取り出す物を選択していく。
それはここに来るまでに倒した魔物の素材、野営の道具、食料品、替えの装備品などなど。
幸いにして現在五人が滞在している部屋にはスペースが沢山ある。
床に置かれていく物を俊彦、良太、恵子、瑞穂はチェックし、俊彦は入手したばかりのアイテムボックスを使用して、それらを収納していく。
そうして数分をかけて作業を終わらせた五人。
その内の四人である俊彦、良太、恵子、瑞穂は、報酬箱の数メートル後方にあるモノリスへと順番に手を触れていく。
これでこのダンジョンにはもう用がない四人は振り返って朔斗を視界に収める。
そして俊彦、良太、恵子、瑞穂はそれぞれ口を開く。
「じゃあな。今までありがとよ」
「おつかれさん」
「……ごめんなさい」
「ごめんね……」
彼らの姿を無表情で見ていた朔斗は虚しさ、苛立ち、悲しみ、不安といったさまざまな感情を抱いて立ち尽くしていたのだった。
しかし、それは朔斗によって破られる。
「は? 何を言っているんだ?」
動揺を隠せない朔斗。
その証拠に、彼の声は明らかに震えていた。
朔斗の次に声を出したのは瑞穂。
「何もここでその話をしなくてもいいんじゃ……」
瑞穂に目を合わせてから俊彦が首を左右に振り、彼女に反論する。
「いや、戻ってから話しても同じだ。なら早いほうがいいだろ?」
「でも……」
「一度は俺たち四人で話し合って決めたはずだ」
「こんなに早く上級のアイテムボックスが出ると思っていなかったし、私はもっともっと先の話だと思ってたから……」
俊彦と瑞穂の会話に恵子が口を挟む。
「すっかり忘れてたけど、あのときに話したことは本気だったんだね……」
「ああ、そうだ」
「私も瑞穂と同じで早々にアイテムボックスが入手できるって思ってなかった。だからもう少し様子を見てもいいんじゃない?」
「いや、それはダメだ。俺たちが上にいくためにもこれは必要なことだって以前説明したろ?」
「それは……うん……」
目の前で繰り広げられる会話についていけない朔斗。
(経緯はまったく理解できないし、したくもないが……少なくとも俺がいないところでこいつらは事前に話し合っていて、俺を追い出すことを決めていたってわけか……)
この場に居る五人は年齢も出身地も同じ。
彼らの友人関係は長く、出会ったのは小学校にまで遡る。
五人は現在十七歳だが、誰ひとりとして高校には通っていない。
現在、全世界的に人口が激減しており、地球の人数は二十億ほど。
さまざまな事情によって、ダンジョンに入ってモンスターと戦う才能がある者は高校に入学せず、中学校を卒業してすぐに戦闘へと身を投じるケースが多い。
この場で他に発言をしないと決めたのか、恵子や瑞穂が口を閉じ、それを確認した俊彦が朔斗に向き直った。
「急な話でお前には悪いと思ってる。けど、わかるだろ?」
俊彦に問いかけられた朔斗が沈黙を守っている様子を見た彼は、若干の苛立ちを隠さずに声を荒げる。
「一緒にダンジョンへと入場できる人数に制限はないとはいえ、登録できるパーティーメンバーはなぜか五人が上限だ。そしてパーティーを組んでいれば色々と恩恵がある」
「ああ」
わかりきったことを説明された朔斗は内心舌打ちしたくなる。
しかし、俊彦はそんな彼を気にせず言葉を続けていった。
「大手企業の探索部は複数のパーティーで行動することが多いが、今の俺たちには必要ないし、もし入社するとしても、もっともっと実績を積んでスカウトの目に留まってからだ。それに今はふたつのパーティーを作るつもりもない」
朔斗をじっと見据えた俊彦は肩をすくめたあと、口を開く。
「さて、少し話がそれたな。続きを話すぞ。俺、良太、恵子、瑞穂は優れたジョブを引き当てた。それに比べてお前はどうだ? 確かに今までお前以外に発現した者がいないんだから、朔斗のジョブは珍しいし、ユニークジョブと言ってもいいだろう」
自分の意見がすべて正しいのだという態度で話してくる俊彦に若干の苛立ちを覚える朔斗だったが、彼の言わんとすることが自分でも理解できているので、反論するのも憚られる。
「俺のジョブは?」
自慢げな表情を浮かべた俊彦に問いかけられた朔斗は答える。
「剣聖」
「良太は?」
「守護者」
「恵子と瑞穂は?」
「魔導師とビショップ」
この後に続く流れが予想できる朔斗。
そしてそれは間違いじゃなかったとすぐに思い知る。
「じゃあ、お前のジョブは?」
「――――解体師だ」
地球に住む人類は世界各地に存在するモノリスに触れることによってジョブを授かり、それによってダンジョンが存在する混沌とした現代社会を生き抜いている。
「だよなぁ、そりゃあ確かに一瞬で獲物を解体できたり、アイテムボックス要らずで荷物を大量に持てたりするのは正直凄いと思うし、今まで世話になってきた。本当に世界唯一の特別なジョブだろう。でも前者は解体業者や世界探索者機構であるWEOに持ち込めば有料だが処理をしてもらえるし、後者に至っては今アイテムボックスを入手できた」
俊彦が口にしたWEOとはWorld Explorer Organizationの略称名。
この機関は世界的なものであり、世界各地にあるダンジョンの情報を扱っている公的機関で、基本的にモノリスが存在する場所にWEOの施設がある。
これはモノリスが地球に出現してから利便性を考慮し、そこに建物を建設していったためだ。
また、この機関は常時なんらかのクエストを発行していて、ダンジョンに潜る者はそれらをこなして達成金を入手できる。
俊彦が自分に伝えたいことが理解できた朔斗が舌打ちしたあと、目の前の男に怒声を浴びせる。
「それで俺と入れ替わりに戦闘がこなせる誰かをパーティーに入れたいから、その代わりに俺を追い出すのか!?」
「ようやくわかってくれたか」
「ちっ、そもそもお前が俺をパーティーに加えたいって誘ってきたよな?」
苛立ちを隠さずに俊彦に詰問する朔斗に対し、彼は「ああ、そうだ。とりあえず熱くなるなよ」と言ってさらに言葉を続ける。
「勧誘したときにお前から提示された条件も覚えてるぜ? まずは報酬の分け前だ。お前が求めている品でない場合、ダンジョンをクリアした際の報酬箱から出た物は俺たちにのみ所有権が発生する。違うか?」
「いや、合ってる」
「魔物を倒したりクエストを達成したり企業からの依頼を達成したりして、収入を得たときの配分は俺たちが20%ずつ、お前が5%、残り15%がパーティーの資金。大きなところだとこんなもんか。何か反論があれば言ってくれ」
「……いや、ない」
「それは良かった。そしてここが大事なんだが、取り決めでは一生同じパーティーでいるとも、どれだけの期間一緒に活動するとかの契約もしていないよな?」
朔斗は俊彦の言いように酷く腹が立つ。
(俺が甘すぎたか。俺たち五人の仲は小学校からのものだった……いや、あいつも入れたら六人か)
今は彼女のことを考えても仕方ないと朔斗は無意識に首を軽く振った。
(こいつらは俺の事情を知っていて、さらにあれだけ熱心に誘ってきたから俺はこのパーティーに加入したし、信頼関係も築けていると思っていた。だからこそパーティーメンバーとして活動する期間を定めなかったが。俺がみんなほど戦闘で活躍していなくても……)
なんとか冷静さを保とうとした朔斗だったが、なかなか上手くいかない。
(探索者としてもっともっと上にいきたいって気持ちはわかる。それは俺もそうだし。だがそれは十一年の付き合いを踏みにじってもいい理由にはならない。なによりも――こいつらだってあいつとは仲が良かったじゃないか!)
「お前らはあいつのことを気にしないのか?」
絞り出すように吐き出された朔斗の想いに対して、俊彦が首をゆっくりと左右に動かす。
「俺たちだってどうでもいいとは考えていないさ。でもよ、もっと現実的に考えようぜ? この世の中でどれだけの人がエリクサーを切望していると思ってる? なんらかの事故やダンジョンでの戦闘で四肢を欠損した者、治療法はあっても手遅れになっている難病の患者。そして未だに治療法が確立していない魔力過多症」
「それはわかってる! それでも俺は――――」
「落ち着けって。別に俺たちは喧嘩したいわけじゃない。ハッキリ言って俺たちが探索者としてさらに上を目指すためには――――お前は邪魔なんだ」
真正面から拒絶の言葉を突き付けられた朔斗はショックを隠せない。
そんな彼に向かって追撃を緩めない俊彦。
「俺たちがアイテムボックスを手に入れた以上、今後は朔斗の活躍の場は減っていく。それにこれから先は、今まで以上に気が抜けない戦闘も増えてくるだろう。そうなったときにお前のお守をしながらだと予期せぬ怪我をすることだってあるし、最悪のことだってあるかもしれない」
頭に血が上って思わず俊彦を殴りたくなった朔斗だったが、それは思い留まり顔を伏せる。
(はぁ、信じていたんだけどな……仕方ないとは思いたくないが、どうしようもないか。ここでこいつらに縋っても先はない、か……)
数秒の沈黙の後、朔斗の耳に聞こえてくるのは「言いすぎ」という恵子や「もっと穏便にしましょう」という瑞穂の声。
「さあ、決断してくれ。といっても今後は朔斗とパーティーを組む気はないが」
俊彦の言葉を聞いて顔を上げた朔斗が重々しく口を開いた。
「わかった」
「そうか、ありがとな。じゃあ俺たちの荷物やここで手に入れた素材をこっちに渡してくれ。アイテムボックスに入れていく。ああ、オーガエンペラーの素材は餞別としてくれてやる。みんないいよな?」
「まっ、仕方ないか。あれだけで相当な価値があるし、朔斗が本来貰えた取り分より多くなるが」
「……うん」
「いいわよ」
これまで黙っていた良太、そして罪悪感を滲ませた恵子や瑞穂も俊彦に同意する。
それらの言葉を聞きながら、朔斗は解体師としてのスキルである【ディメンションボックス】を発動させた。
このスキルの効果はとても凄まじいものだ。
これはアイテムボックスの完全上位互換。
そもそもアイテムボックスはスキルではないので、比べても意味はないかもしれないが。
スキルを発動させた朔斗は、脳内に表示された【ディメンションボックス】に収納されている物のリストから取り出す物を選択していく。
それはここに来るまでに倒した魔物の素材、野営の道具、食料品、替えの装備品などなど。
幸いにして現在五人が滞在している部屋にはスペースが沢山ある。
床に置かれていく物を俊彦、良太、恵子、瑞穂はチェックし、俊彦は入手したばかりのアイテムボックスを使用して、それらを収納していく。
そうして数分をかけて作業を終わらせた五人。
その内の四人である俊彦、良太、恵子、瑞穂は、報酬箱の数メートル後方にあるモノリスへと順番に手を触れていく。
これでこのダンジョンにはもう用がない四人は振り返って朔斗を視界に収める。
そして俊彦、良太、恵子、瑞穂はそれぞれ口を開く。
「じゃあな。今までありがとよ」
「おつかれさん」
「……ごめんなさい」
「ごめんね……」
彼らの姿を無表情で見ていた朔斗は虚しさ、苛立ち、悲しみ、不安といったさまざまな感情を抱いて立ち尽くしていたのだった。
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