無双の解体師

緋緋色兼人

文字の大きさ
上 下
1 / 65
一章

1:プロローグ 訪れた審判の日

しおりを挟む
 二〇二四年十一月。

 この年は異常気象が世界各地を襲っていた。
 昨年はそのような予兆はなかったので、誰もが予想していなかったし、前触れもなく起きた事態。
 雪が毎年降り積もるいくつもの地域に訪れる雪解けは、例年ならば四月頃だというのにこの年は二月だった。
 地球の気温はそのまま上昇を続け、全世界的に熱中症で倒れる人が続出。

 梅雨でないにもかかわらず、八月を境にして毎日毎日降雨に見舞われた。
 それと同時に一週間のうちの半分は雷が所々で発生し、建造物を容赦なく焼いていく。
 これらに付随するように火山の噴火、震度五を超える地震、洪水、土砂崩れ、台風、津波などの自然災害が人々を襲っていた。
 
 なんの皮肉か、これらの現象によって地球における戦争は完全になくなり、世界各国の政府が協力体制を至急整えていった。
 それによって強くなっていく各国の結びつき。
 人類が未曾有の危機に陥ったため、ようやく地球上の国家が歪ながらもひとつの運命共同体になったのだ。

 災害による死傷者は多数。
 人々はこの世の終わりだと嘆き悲しみ、宗教に傾倒していく人数は増加の一途。
 連日ニュースで伝えられる自国や他国の情勢。

 十一月に入り、地球は真っ白な雪で埋もれていた。
 今まで雪を間近で見たことがない小さい子は別として、ほとんどの人たちは自分らが住む地域に歴史上初めて降り積もったことに心を乱す。
 雪の勢いは衰えず、十二月三十一日まで続いた。

 年が明け、今年は去年のようなことが起こらず、一昨年までのような日常を誰もが待ち望んでいた。
 人々は不安を隠すように新年を祝う。

 日本の中流家庭で育っていたとある高校生は、昨年は学校が休みになることが多く、その分ゲームをして時間を潰していた。
 そして正月もいつも通りに自室でゲームをして過ごしていたのだが、突然彼の耳に聞きなれない声が届く。
 それはとても異質で、今まで彼が聞いたこともない声。

「ん? 今のはなんだ?」

 タブレットでプレイしていたゲームを一旦止めた彼は、自室から出て階段を降りる。
 そのまますぐにリビングへ向かい、父親と母親に話しかけた。

「あけましておめでとう。父さん母さん。ところで何か聞こえなかった?」

 彼に声をかけられた両親は、ソファーに座りながら大きな窓のほうを見ていた。
 いや、見ていたというのは語弊があるだろう。
 両親の目は限界まで見開いており、口も大きく開いたままで時が止まっているかのよう。

 その様子から何かあったのだと確信した彼は、それ以上は両親に話しかけず、自らも窓のほうに視線を動かす。
 最初、彼はあれはなんだ? と思った。
――理解できない、理解したくない。
 彼は無意識に現実逃避を行う。
 しかしその存在は、そんな彼を決して逃がしはしない。

「グルァアアア!!」

 自分という存在を――魂を鷲掴みにされるような感覚を覚え、精神の限界を迎えた彼は声を漏らす。

「な、な、なんだ、あれは……」

 奇しくも彼の言葉が合図になったかのように、轟音と振動が彼らの家を襲う。
 揺れる自宅の中で、未だ呆けたままの両親。
 いち早く現実から立ち直ったゲーム好きな高校生が、よろめいた身体を整えながら絶叫を上げる。

「あれはドラゴン!? は? 何かの撮影? いや、そんなわけがない……今の振動や叫び声はどう考えても本物だ……」

 彼の視線の遠い先には上空に佇んでいるドラゴンが多数。
 中には口からブレスを放出し、建物を破壊しまくっている個体までいる始末。
 彼は思う――どこかに避難しなければと。
 しかし、どこへ?

 鳴り止まない爆音、発射される色とりどりのブレス。
 さらに自分たちの家の方へ向かって飛来してくるドラゴンやグリフォンなど。
 と、そこで彼の父親の精神がようやく再起動を行い、立ち上がって声を荒げる。

「早く逃げるぞ! まずは持っていく物を用意し――」

 そこまで発言をした父親の意識が闇に呑まれる。
 それを引き起こしたのは彼らの家の上に着陸したドラゴン。
 三つの命を意識せずに奪ったドラゴンは咆哮を上げ、数秒後にブレスを発射。
 こうしてひとつの市が壊滅的な被害を受け、生き残った市民はこの市の人口の三割ほど。

 日本各地で甚大な被害を被った市街は多く、このままでは国が滅びてしまうと懸念した官僚は自衛隊の派遣を決定した。
 ドラゴンなどによる突然の襲撃は、当たり前のように家屋やビルや工場などを倒壊させ、それによってどこもかしこも火の海に変化していく。
 そうなると、当然ながら市民が避難する場所が無くなってしまう。

 ほぼ壊滅したといってもいい地域へ、戦車で乗り込んだ男が同僚と会話を行っていた。

「ドラゴンはこっちへ攻撃してこないのか?」
「俺たちが乗っている戦車はもう見つかっていそうなんだが……」
「この辺で止まろう。まずは戦闘機からミサイルをぶつけるようだ」
「場所によっては市民も巻き添えになりそうだな……」

 彼らの気持ちは沈んでいる。
 未曾有の危機に立ち向かう恐怖は当然あるが、それ以上に未だに逃げ惑っている市民もミサイルの被害者になるのがわかりきっているからだ。
 この方針は当然すんなりと決まったわけではないし、反対意見は多く、紛糾した。
 しかし、時間が経てば経つほど日本が滅びに向かうのは誰の目にも明らかだったため、自衛隊による武力行使が決定されてしまったのだ。

 戦車に乗っていた自衛官が静かになって少し後、戦闘機からミサイルが発射され、それがドラゴンに着弾。
 それは轟音と爆風をまき散らし煙が上がる。
 少しして一切のダメージを受けていなさそうなドラゴンの姿が、多くの自衛官の目に映る。

 それからの出来事は悲惨のひと言。
 自衛隊の攻撃が当たっても一切の損傷がないドラゴンに次々と撃破されていく自衛隊。
 アメリカやロシアやドイツなどの国々も日本と同様、モンスターの襲撃によって多くの命が奪われていたし、どんな攻撃をしてもドラゴンなどにダメージを与えられなかった。

 人類を絶望のどん底へ突き落したモンスターの大群。
 そのまま全人類はモンスターによって駆逐されるのだと誰もが考えていたが、モンスターが地上に出現していた期間は一週間だった。

 モンスターが消えた原因、それは――

 天が英雄を遣わせた?
 神が降臨したのか?
 新兵器が開発されて、それによって討伐できた?

――すべて否である。

 すべてのモンスターは、突発的に発生したダンジョンと呼ばれる存在の中へ消えていっただけ。
 そう、人類はただただ敗北したのだ。

 そして後年――二〇二五年一月一日は審判の日、一月八日は再誕の日と呼ばれるようになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

東池袋

朋華
エッセイ・ノンフィクション
荒んだ或日

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

白銀の転生魔剣士

ベルファール
ファンタジー
剣帝と称された英雄シリブル・バリオン。彼は強くなりすぎてしまい、飽き飽きしてしまった果てに何者かの手によって死に至った。 その際、死の間際に転生魔法を使用して、1000年後の世界に転生した。 しかし、その世界は技術革新による文明の発達によって魔法、剣術という戦闘技術が衰退の一途を辿っていた。 伝説とされる英雄は1000年後の世界で気ままに人生を過ごし無双していく規格外なファンタジー。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

処理中です...