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エビフライにエビを入れ忘れるな(1)

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 アネッサによりティキが荷物に潜り込んでいたことが発覚から程なくして、ユウ達は野営の準備を終えて焚火を囲みながら食事を取っていた。
「……」
「……」
 ユウとアネッサの二人に無言でじっと見つめられて、ティキは気まずそうにパンを齧る。そんなティキの様子を見て、ユウは問いかける。
「なあティキ、何でこんなことをした?」
「……」
 ユウの言葉にティキは無言で俯く。ユウはため息を漏らす。
「父上の墓参りに行きたかったのか?」
「……」
 今度はアネッサがティキに問いかける。相変わらずティキは無言だったが、今回はそのまま頷く。それを受けてアネッサはさらにティキに問いかける。
「このことはエミリアには話していないな?」
「……」
 ティキは一瞬間を置いてから頷く。それらを確認したユウとアネッサは顔を見合わせる。それからユウが頷き、そのままティキの傍へと歩み寄る。
「ティキ……お父さんを亡くして、墓参りに行きたいというお前の気持ちはわかる。でもな、エミリアさんにも何も言わずに出てくるのはまずい」
 そう言ってユウはティキを優しく諭す。
「ごめんなさい……。でも、こうでもしないと……いけないんだもん……」
 ティキが震える声で嗚咽を漏らし始める。ユウとアネッサは再び互いに顔を見合わせ……そしてそれから小さくため息を漏らした。

 さらにそれから数十分後、泣きじゃくるティキを宥めてなんとか食事を取らせたうえで、さらに寝かしつけたユウとアネッサは焚火を挟んで座っていた。
「いやあ……どうします、ティキ……」
 ユウはとりあえず話題を切り出す。ユウの質問にアネッサは腕を組んで唸る。
「本来ならティキを帝都に送り返したいところなんだがな……。帝都もそこまで遠いわけではないし……だが、金を払って荷物をここまで運んできてもらってはな……。それに現状、あまり時間がない」
「それはどういうことです?」
 今回のダンジョン探索に時間の制約があったなどという話を聞いた覚えがなかったユウは思わずアネッサに問う。
「……」
 アネッサはしばらく押し黙る。それからため息を漏らすとぽつぽつと語りだした。
「まあ、別に明確なタイムリミットという訳ではないんだがな……。これから行く英雄の頂は一年に一度、満月の夜に死んだ英雄たちの魂が返ってくるという言い伝えがあるんだ」
「その満月の夜までにダンジョンを踏破したい……と?」
 アネッサの意図を察したユウが問う。それを受けてアネッサは無言で頷く。宵闇の中で焚火に照らされたその顔は、どこか翳りを感じさせる。
「会いたい人がいるんですか?」
 アネッサの表情が気になったユウは軽く問う。
「逆だよ」
 しかし、表情は微動だにせずアネッサは答える。
「逆?」
「ああ。会いたくないんだ」
 会いたくない人間に会いに行くためにダンジョンを踏破する……アネッサの言っていることが理解できないユウは首を傾げる。
「それってどういう……」
 アネッサに問いかけようとするユウを、彼女は手で制する。
「……話すと色々長くなる。明日からダンジョン攻略の本番だし、今夜はここまでにしておこう」
「分かりました」
 アネッサに言われてユウはおとなしく引き下がる。
「ティキは仕方ないから連れて行こう。エミリア達には私が連れ帰ってから詫びよう。君は気にしなくて良い」
 そう言いながらアネッサは荷物の中から瓶を取り出し、周辺にばらまく。
(これは敵の侵入を阻害するための結界を張ることが出来る聖水ですね。寝る際の安全を確保するためのものでしょうね)
(なるほど、ゲームで見たことあるようなアイテムですね)
 ルティシアの説明にユウは納得しつつ、アネッサの行動を目で追う。アネッサは一しきり聖水を周囲に振り撒き終わると、野営のための焚火を消す。辺りから光が消え、夜の闇と静寂が訪れる。
「さあ、それじゃあそろそろ寝ようか」
 暗闇の中でアネッサが、ユウに声をかける。
「了解です」
 超人的な視力を手に入れたユウは、闇夜の中においてもアネッサの姿を捉えることが出来る。しかし、ユウはあえてそれをせず、彼女の言葉に返事をしつつ寝袋の中へと入る。
「おやすみなさい」
 ユウはそう言うと静かに瞼を閉じた。

 ――ユウが寝袋に入ってからしばらく後、彼らの野営地から少し離れた位置に佇む人影があった。その人影に、別の人物が近づいていく。自身に近づいてくる存在に気が付いた人影は声をかける。その声は年若い少女のものだった。
「状況はどう?」
「今のところ怪しい挙動はないな。不審なところは元から多々あるのだが……」
 そう言って答える人物の声はアネッサのものだった。
「そんなこと言っていいの?寝ているとはいえ、近くにいるんでしょう、彼?」
「まあそうなんだがな」
 アネッサはそう言って苦笑する。
「実際どういう人物なの?あなたの印象を教えてほしいのだけれども」
 少女にそう聞かれてアネッサは顎に親指を当てる。
「そうだな……とりあえず良識や優しさといったものは感じられる。少なくとも我々への害意があるといった様子は見受けられないな。ただ……」
「ただ?」
 少女はアネッサに言葉の続きを促す。
「おそらくだが……彼には何かしらの事情があり、それを隠しているように思える。エミリア達に聞いた話では、記憶喪失ということらしいのだが、それがどこまで事実なのかは怪しいところがあるな」
「なるほどね……」
 少女はアネッサの言葉に考え込む。そんな彼女に今度はアネッサが問いを発する。
「そちらの方はどうだったのだ?」
 少女はアネッサの問いに軽くため息を漏らす。
「現状は芳しくないわね。世界各地で起きている魔物の狂暴化や変異化、どれも原因は不明のままよ。それにその魔物自体も退治することが出来ていない……早めに対応策を見つけないと被害はどんどん拡大していくわ」
 少女の回答に今度はアネッサがため息を漏らす。
「先の大戦で人間側の戦力は現在疲弊している。あの巨大な魔物達を退治するのはなかなかに厳しいだろうな……」
「まあ、それでも今回の件は魔族側は特に関与してなさそうなところは不幸中の幸いよ」
 少女の回答にアネッサは少し目を見開く。
「確認が取れたのか」
「ええ。主要な魔族側の首脳陣に状況を確認してきたわ。実際、彼らも狂暴化した魔物に手を焼いているようだったわ。原因が分からず対処もできないと」
「そうか……」
「未知の脅威に際して、また人間と魔族による抗争が起きずには済むか……しかし、それでも厳しい戦いになりそうだな……」
 アネッサはそう言って腕を組みため息を漏らす。その様子を少女は無言で見つめる。
「……"あの子"が生きていれば……そう思ってる?」
「……まだ死んだと決まったわけじゃない」
「……そうね」
 表面上は同意をしつつも、少女はアネッサに何かを言おうとする。しかし、適切な言葉が思いつかなかったのか、彼女は結局推し黙る。
「とりあえず英雄の頂は登らないといけない。人足として彼も雇ってしまったことだしな。諸々の用事を済ませたら私も本来の目的に戻る。だからお前の方はお前の方で引き続き同行の調査と各対応策の検討を頼む」
 アネッサの言葉に少女はため息を漏らしつつも頷く。
「分かったわ。まあ、あんたはあんたで折角捕まえた手がかり、しっかり見張っときなさいよ。それじゃあね」
「ああ、分かっている」
 アネッサが同意すると、少女は懐から何かを取り出す。すると、彼女の姿は瞬く間にその場から消えた。どうやら、目的地に瞬時に移動する魔法を使ったらしい。
「……」
 アネッサは少女を見送ると、再び野営地の方へと戻る。そして、寝袋へと入り、そのまま寝息を立て始めた。
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