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世界の事情・1.5

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「まあ自給自足が出来るようになるにはまだまだ掛かるでしょうけど。それでも前進してると思えるのは、嬉しいことだわ」
スーはカークスと同じくらい、20台後半くらいか。この世界は鈴の世界とは違って何かと厳しく苦難も多いらしい。多分彼女も、鈴の同郷者よりずっと辛い経験を積んでいるのだろう、見た目の年齢より遥かに落ち着きを備え、物静かな中に一本芯が通っている。
そういう女性でなければ、夫がいるからとこんな辺境の開拓村にまで来ないでしょうと言ったのはリアンナだ。
 彼女も何等かの事情を抱えていることは想像に難くないが、それに踏み込むつもりは鈴にもない。彼女自身、それを望まないだろう。
だが最近割と頻繁に店を訪れるようになったリアンナは、カークスの帰りを待つスーと親しくなった。
スーは薬師だそうだが、近隣では彼女の必要な薬草は少ない。自分で探し回ってはいつかのように体調を崩してしまう。そのため、カークスは猟のみならず彼女の求める薬草も探して回っている。
 一方リアンナの連れである青年、フレディは冒険者だ。こちらの二人、フレディとリアンナはカークス夫婦より少し歳は下、二十歳そこそこという辺り。冒険者としてこんな辺境まで流れて来る以上、彼の方にも事情はあるのだろう。おそらくそれは、リアンナの事情にも関わっている。
この二人はカークス達と違って夫婦ではない。恋人同士でもなく、リアンナに言わせれば『腐れ縁』だそうだ。照れ隠しもあるのかもしれないが、二人の間には微妙な距離が見て取れる。
 当のリアンナも冒険者と名乗ってはいるが、戦闘能力に不安があるそうで、くつろぎ庵に残っているのは事務処理他の雑用をこなしているためだとか。ある程度周囲の状況を確認するまでは連れて行けないというのがフレディの主張らしい。
 開拓村ではその性格上、女性の比率が極端に低い。人類最古の職業と言われる娼婦も、半日離れた小さな町まで行かねば買えない。リアンナとスー以外にも女性はいるが、殆どはもっと年上の逞しい中年女性おばちゃんか、やはり逞しく頼れる女冒険者が僅かばかり、という状況らしい。
 鈴は彼女達の暮らす開拓村を知らないので何とも言えないが、話を聞く限りではそんなところのようだ。まだまだ生活は安定しないものの、村で生まれた子ども達も育っていて定着しつつあるらしい。
むしろ彼女達がその村では浮いてないかと案じたが、その心配もなかったようだ。
 「私だって現場にはまだ出られなくとも、村の中では仕事できるのよ?」
 「私、冒険者の仕事って良く知らないんですけど、どんなことするんですか?」
 「ええと、この辺で多いのは害獣の駆除ね。後はいろいろあるけど、夜盗の撃退とか地図作るとか」
 「地図、ですか」
 「開拓中だと未踏の土地も多いの。何処に谷や川があるとか危険な沼や崖がないかとか、いろいろ調べなきゃならないことは多いから」
 最低限の安全を確保してから、彼女をそちらに連れ出すのがフレディの腹積もりらしい。またリアンナは自分のいる位置を見失わない能力があるそうで、こうした土地の調査は経験があるそうだ。
 「まあ前にやったのは、ここみたいに『道なき道を掻き分けて』ってところじゃないんだけど」
 「それでもすごいですよ。……女性の方が地図に弱いとか聞いたことがあるんですが、リアンナさんは方向感覚が優れてるんですね。いや、空間把握能力なのかな」

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感想 1

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みんなの感想(1件)

ミドリ
2018.07.17 ミドリ

穏やかに時が流れていく感じが好きです。この後がどうなるか、気になります。
小物を売っても喜んでくれそうですね。

あきづきみなと
2018.07.18 あきづきみなと

楽しんでいただければ何よりです。

ただもう一つの話にかかりきりで、こっちはなかなか進みません……
申し訳ありません。

解除

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